特別編・トラック野郎とお正月
ミレイナとキリエは事務所、シャイニーとコハクは集落への配達に向かい、俺は一人で配達をしていた。
今は小休憩中。広場にトラックを停車させ、煎餅を齧りながらお茶を飲んでいると、タマが言う。
『社長。社長が死亡して転生してから○日。日本時間で明日はお正月です』
ふと、配達中にタマがそんなことを言い出した。このやり取り前もやったな。
クリスマスが終われば大晦日、そしてお正月だよな。ってか今日は大晦日なのか?
「っていうか、クリスマスやったばかりだしなぁ」
お年玉でも渡せってのか。
いやでも、大晦日だし……あ、おせち料理とか。
待てよ、おせち料理なんてもう10年は食ってない。伊達巻きに栗きんとん、昆布巻きや黒豆、海老とか……食いたいけど、異世界にそんなモンないしな。それに明日って、もう数時間後じゃねーか。
おせち料理は無理だ。
まぁ、お年玉くらいなら……うーん。給料は入ったばかりだし、ミレイナ・シャイニー・コハク・キリエの4人くらいなら、お年玉をあげることもできる。
「……よしタマ、ポチ袋を売ってる店に……って、さすがにないか」
『畏まりました』
「あんのかい!? じゃ、じゃあさ、正月っぽい料理が売ってる店は?」
『検索中…………検索完了。該当1件』
「お、マジか……よし、ちょっと寄り道するか」
『マップを表示します』
というわけで、俺は正月っぽい料理が売ってる店に向かった。
配達が終わり、俺はオフィスに戻ってきた。
手には買い物袋が握られ、ウキウキ気分で2階の居住ルームへ。
「ただいまー」
「あ、おかえりなさいコウタさん。すぐに夕食にしますね」
「ああ、頼む」
エプロンミレイナちゃんが鍋をかき混ぜている。う~ん、じつにいい匂い。
すると、浴室のドアが開き、素っ裸のコハクが現れた。
「あ、ご主人様おかえりー」
『なうなーう』
「……………ただいま」
ナマ乳を揺らし、びしょ濡れの身体を隠そうともしてない。しかも小脇にしろ丸を抱えている。
うおぉ、相変わらずすっげぇボディしてる。鍛えられた肉体だけど、女の子特有の柔らかさもあるような、子供っぽいけど色気がすごい女の身体だ……って、アホか俺は。じっと見てどうする!?
「こ、こらコハク!! 服を着なさい!!」
「ごめんなさい。着替えとタオル忘れちゃった」
『なおーん』
「こ、コハク!! 何してるんですか!?」
あ、ミレイナも気が付いた。
コハクはぺたぺたと歩いて自室へ。すると入れ替わるようにシャイニーが部屋から出て来た。
「ふぁぁ~……騒がしいわね、ごはん?」
「あ、ああ。もうちょっとだ」
「う~ん、わかった~」
シャイニーは寝ぼけたままリビングのソファに向かい……。
「っぶへっ!?」
コケた。
ああそっか。濡れたままコハクが歩いたから、床がびしょ濡れだ。その水滴で足を滑らせてすっ転んだようだ。
「いっだぁぁぁ~~~~ッ!! な、なんで濡れてんのよ!! アンタのせい!?」
「ち、違うっつの!!」
涙目で俺を睨むシャイニーの背後に、音もなくキリエが現れシャイニーに抱きついた。
「わひゃっ!?」
「シャイニー、隙だらけですよ」
「ななな、何すんのよこのバカ!!」
「いえ、間もなく夕飯ですので、騒がれるとホコリが舞います」
「ああもう、わかったから離れなさーい!!」
俺はこのスキに自室に戻る。
騒ぎのおかげで、手に持っていた買い物袋には気付かれなかったようだ。
夕食が終わり、食後のデザートとお茶をいただく。
みんなでまったりし、タイミングを見て俺は言った。
「みんな、明日は休みだけど、ちょっと付き合ってくれ」
「付き合う? どっか行くの、コウタ」
「ご主人様ご主人様、遊びに行くの?」
シャイニーとコハクがノッてきた。クリスマスの時もだが、この2人はイベント好きだな。
「いや、遊びじゃないんだけど、明日の早朝、みんなで夜明けをみたいんだ」
「夜明け、ですか? 社長」
「ああ。太陽が昇る瞬間を屋上で見よう」
「コウタさん、何かあるんですか?」
「まぁな。実は、俺の故郷では明日が年の初めなんだ。年の初めに昇る太陽は『初日の出』って言って、縁起がいい象徴なんだ」
「へぇ、アンタの故郷の……確か、クリスマスだっけ? それと同じ?」
「ああ。この世界にはそういう風習はないみたいだけど、どうだ?」
俺はみんなに確認する。
みんな賛同してくれたが、ちょっと不安そうだった。
「私はかまいません」
「あ、アタシもいいけど……起きれるかな」
「私も問題ありませんね」
「わたしも」
『なうなーう』
「よし、じゃあ今日は早く寝よう」
俺はしろ丸を抱き上げてフカフカした。
翌日の早朝。
まだ薄暗い時間に、俺たち5人と1匹は屋上へ集まった。
屋上はそこそこ広く、大人数でバーベキューが出来そうなくらいは広い。オフィスを建設する際に広く設計したのだ。屋上でバーベキューって何気に憧れてたんだよね。
早朝はそこそこ冷える。
みんな上着を着て、フェンス越しに空を見上げていた。
「あ、あのみなさん……なんで私に抱きつくんでしょう?」
「そりゃミレイナはあったかいしね」
「ええ。ミレイナは体温が高いですし」
「ミレイナ、ふかふか」
うーん、女性陣は抱き合って暖をとっている……羨ましい。
すると、俺の足下でしろ丸がグルグル回る。
『なうなうなうなーう』
「お、ははは、ありがとなしろ丸」
『うなー』
俺はしろ丸を抱っこして暖を取る……フッカフカだなこの白いのは。
そして暖を取りつつ待つと……来た。
「おお、初日の出だ……」
まぁ、初日の出ではないけど、薄暗い夜空を切り裂くように、温かく柔らかい太陽が昇る。
早朝でしか見れない光景に、俺たちは息を吞んだ。
「キレイですね……」
「うん。この時間帯じゃないと見れないし……」
「たまには、こういうのもいいですね……」
「きれい……」
『なうなうー』
太陽が昇るのを眺め、俺はみんなに言った。
「あけましておめでとう。今年もよろしくな」
部屋に戻り、朝食の支度を始めようとしたミレイナにストップをかける。
「ミレイナ、今日の朝食は俺に任せてくれ。年始めに食べる俺の故郷の料理を振る舞うからよ」
「え、コウタさんの手料理ですか?」
「ああ。実は昨日、タマに頼んで食材のある店を調べたんだ」
「アンタが料理ねぇ……大丈夫なの?」
「……お前には言われたくないぞ」
シャイニーにツッコミを入れ、俺は台所へ。
手伝いたそうなミレイナをキリエに任せ、俺は買った物を並べて調理を始めた。
「くっくっく、まさかこの世界に『これ』があるとは……もっと早く調べるべきだった」
トントントンと野菜を切り、出汁を取って、ブツを投入。
この程度の調理なら俺でもできる。そして……完成した!!
「よし、できた!!」
さて、さっそくみんなで食べよう!!
俺の作った料理を取り分け、それぞれに渡す。
それは汁物でありながら、主食級のボリュームを持つお正月ならではの料理だった。
「待たせたなみんな……これがお正月ならではの料理、『お雑煮』だ!!」
そう、俺が作ったのはお雑煮。
ゼニモウケの珍味店に売っていた、とある部族しか作れない『ムィゾ』という調味料を1瓶買った。ちなみに小瓶1つで2万コイン。しかも中身はまんま味噌、これにはマジで驚いた。
そして、乾物店の片隅に売っていた『モチ』だ。
米があるからモチもあるのは当然。というか今まで思いつかなかった。これを山ほど買った。
あとは簡単。お雑煮を作るだけだ。
すると、ミレイナたちがお雑煮の丼をマジマジと見ていた。
「お、おぞうにですか? でもいい匂い」
「これ、なんか白いのが入ってるわね」
「ふむ、社長の故郷の料理ですか」
「ご主人様ご主人、食べていい?」
『うなー』
さて、冷めるとマズいし食べよう。
「あ、最初に注意。モチはよく噛んで食べること。ではいただきます!」
「「「「いただきます!」」」」
『なうなーう』
ではさっそく……ずずずっと汁を。んでモチをパクり。
うん、美味い……味噌汁美味い。モチも美味い。
高い味噌買ってよかった……やっぱ日本人は味噌汁だよ。
「お、おいしいです!! このお汁、すっごい美味しい……」
「あむ、この白いの伸びるわね……うん、うんまっ!!」
「これはいいですね。モチモチして……ああ、だからモチというんですね」
「おかわり!!」
『なう、なうなう』
うんうん、みんなにも好評のようだ。
「おかわりもいっぱいあるからなー」
「あ、じゃあアタシも」
「では私も」
「あいよ、ほれミレイナも」
「あ、ありがとうございます」
モチは大量に買ったし、お雑煮だけじゃなく焼き餅もいいな。それに、保存も利くから好きなときに焼いて食べれる。
こうして、お正月のお雑煮を美味しく食べた。
お餅は腹に溜まるから、満足感もハンパない。
だがイベントはまだある。子供にとっては一大イベントだ。
「みんな、お正月はまだイベントがあるんだ」
俺はポケットからポチ袋を取り出す。
「なにそれ?」
「これはお年玉って言って……まぁ、新年にわたすお小遣いだな」
「お小遣いって、お金くれるのっ!?」
「ああ。少ないが、俺からみんなにお年玉だ」
みんな年下だし、子供みたいなもんだ。ちょっと痛い出費だけどね。
「ミレイナ」
「え、でも……」
「いいから。こういうのは断らないのが礼儀だぞ」
「……わかりました。ありがとうございます!」
「よし、シャイニー」
「ん、ありがとうコウタ、愛してるぅ~♪」
「え……」
「じょ、冗談よ冗談!! その場のノリを理解しなさいよ!!」
「あ、ああ。ほらキリエ」
「ありがとうございます。社長」
「よし、はいコハク」
「ありがとうご主人様。だいすき!!」
「お、おう……と、しろ丸にはケーキを買ったぞ。いっぱい食べてくれ」
『なおーん』
しろ丸の餌入れにケーキを入れると、美味しそうにモグモグ食べ始める。
俺は優しくしろ丸の頭をフカフカした。
さて、これでイベントは全て終わった。
するとキリエが俺の前に立つ。
「社長。素晴らしい朝日、美味しい朝食、そしてお小遣い……クリスマスといい、社長は私たちによくしてくれました。そこで、何かお礼をしたいのですが、何かありますか?」
「え……いや、これは俺の自己満足でやったことだし、気にすんなよ」
「いえ、そうはいきません。私としては、また背中をお流ししたいのですが……社長が望むなら、タオルなしでも構いませんよ?」
「わたしも、ご主人様にご奉仕する」
「………………………」
あの、キリエさんとコハクさん、そういうのマジで勘弁してくれ。
笑いそうになるの堪えるの大変なんだぜ? もし嬉しそうにしたら蒼い誰かに殴られるし。
「コウタさん……」
「……アンタ、何考えてるか知らないけど」
「ばばば、バカ、そんなつもりないっての!!」
ミレイナとシャイニーのジト目入りましたー!!
結局、混浴は実現しなかった……まぁいいけどさ。
とにかく、新年あけましておめでとうございます!!