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特別編・トラック野郎とクリスマス

 ミレイナとキリエは事務所、シャイニーとコハクは集落への配達に向かい、俺は一人で配達をしていた。

 今は小休憩中。広場にトラックを停車させ、煎餅を齧りながらお茶を飲んでいると、タマが言う。

『社長。社長が死亡して転生してから○日。日本時間で本日はクリスマスです』

 ふと、配達中にタマがそんなことを言い出した。

 クリスマス······そうか、日本ではクリスマスなのか。

「まぁ、俺には関係ないイベントだったな。テレビじゃクリスマス特集とかでどのチャンネルもプレゼントだのケーキだの特集してたし、彼女を連れていくにはオススメの店とか、オススメのスポットとか······」

 おっと、グチっぽくなってしまった。

 でも、クリスマスか······普段、みんなに世話になってるし、ケーキとかプレゼントを買うのもいいかもな。

「タマ、ケーキの美味い店を調べてくれ」

『畏まりました』

 せっかくだし、ここはクリスマスパーティーでも開くか。




 仕事が終わり、夕飯の時間になる。

 ミレイナに頼み、夕食の量を減らしてもらった。もちろんケーキのためだ。

 ケーキのことは秘密にしていたので、シャイニーとコハクが不満そうだった。

「ちょっとコウター、今日の夕飯なんで少ないのよー」

「ご主人様ご主人様、おなか減ったよー」

「まぁまぁ、いいからいいから」

 そう誤魔化し、夕飯を完食する。

 まぁ、ここまで来れば俺が何か準備してると気付かれる。あまり焦らすとシャイニーやコハクが騒ぐので、さっさと出してしまおう………と思ったら、チャイムが鳴った。

「こんな時間に誰だ?」

「あ、私が出ますね」

 ミレイナがパタパタ一階へ下り、数分後に戻ってきた……ニナを連れて。

「夜分に邪魔をする。コウタ社長」

「ニナ、いらっしゃい………どうしたんだ?」

 今まで、こんな時間に会社に来たことはない。

 キリエは椅子を準備し、コハクはしろ丸を抱きながら眠そうにしていた。

 ミレイナは嬉しそうにお茶の支度をし、シャイニーはムスッとしている。

 ニナは手に持っていた帽子を机に置く……あれ、これって。

「ギルド前に落ちていた。アガツマ運送と書かれていたから、コウタ社長の持ち物かと思ってな、付き合いのある私が届けに来た」

「あ……これ、俺のだ。助手席に置いといたのに……気付かなかった」

 シャイニーがジト目で見てる……くぅ、失敗した。

「ああ、ありがとうニナ、助かったよ。お礼と言っちゃなんだが……」

 俺は立ち上がり、トラックに入れてあるケーキの箱を持って来た。ちなみに箱の中には保冷剤が入ってる。

 ケーキの箱を持って来たとたん、コハクがガバッと起きた。

「いいにおい!!」

『なうなーう』

 ケーキの箱をテーブルの上に置いて開ける

「わぁ、美味しそう!!」

「ケーキ? 珍しいわね」

「ショートケーキですか……はて、今日はなにかありましたか?」

「ケーキケーキ!!」

「ほぅ、ケーキなど久し振りに見たな」

『なおーん』

 それぞれの反応を聞いたあと、俺は答える。

「じつは今日、俺の故郷では『クリスマス』っていうイベントでな。ケーキを食べてお祝いするんだ」

「お祝い……だから夕飯を少なくしたんですね」

「ああ」

 ミレイナの言う通りだ。 

 シャイニーやコハクはともかく、俺にはキツい。

 ミレイナにケーキを切り分けてもらい、一緒に買ってきたシャンパンをグラスに注ぐ。

 さて、食べる前にお決まりの『合い言葉』を。

「じゃ、復唱を頼むぞ……メリークリスマス!!」

「「「「「メリークリスマス!!」」」」」

『なうなうなーう』

 こうして、クリスマスパーティーは始まった。



 ケーキを食べながら談笑し、シャンパンも三本開けた。

 しろ丸はケーキをモグモグ食べてご満悦だし、コハクやシャイニーもケーキのお代わりをした。でっかいホールケーキ買っといてよかった。

 さて、クリスマスと言えばわかるな?

「あと、クリスマスにはプレゼントを渡す習慣があるんだ」

「プレゼント?」

「ああ。ちょっと待ってろ」

 ほっぺにクリームを付けたシャイニーが首を傾げ、俺はトラックに隠しておいたプレゼントを持ってくる。

 何がいいか迷ったが、俺なりに考えて買った物だ。

「まずミレイナ、ミレイナには美味しい料理を作って欲しいからな。新しいエプロンだ」

「わぁ……ありがとうございます!」

 ミレイナには花柄のエプロンだ。

 何枚か替えのエプロンはあるけど、そろそろ新しいのがあってもいい。そう思って購入した。

「シャイニー、お前にはこれ。ゴンズ爺さん一押しの武器お手入れセットだ」

「わお、気が利くじゃん!!」

 シャイニーには、ゴンズ爺さんの店で買った武器のお手入れセットだ。油や砥石、スポンジみたいな布などがセットで箱に入ってる。女の子らしくないかもだが、シャイニーは喜んでくれた。

「キリエ、キリエには香辛料専門店で買った『激辛スパイスセット』だ。悩んだけど、キリエは辛いの大好きだからこれにした」

「素晴らしい……さすがは社長です」

 キリエは悩んだが、辛いの大好きということでこれにした。

 まぁ、休日に激辛鍋とか作ってたこともあるし、役立つだろう。

「コハクには新しいバンダナをセットでプレゼントだ。似合うといいけど」

「わぁ、ありがとうご主人様!! だいすき!!」

「お、おお」

 うーん、コハクの純粋な『大好き』いただきました。

 バンダナはコハクのツノを隠すため必要だからな。同じような柄を何枚も持ってるようだし、可愛らしいのを何枚かチョイスした。

「ニナには、ちょっとお高いワインだ。ギルドのみんなと飲んでくれ」

「……ありがとう、コウタ社長」

 みんなが受け取ってるのを見て、断るのが悪いと判断したのか、ニナは受け取ってくれた。

 いつも世話になってるから買ったけど、今日ここに来てくれてよかった。何気にニナのプレゼントが一番高かったけど、それを言うのは野暮ってもんだ。

「そして最後はしろ丸。お前にはお出かけ用バスケットを買ったぞ」

『なおーん、なおーん』

 しろ丸を連れて出かけるとき、いつもコハクが脇に抱えるかミレイナのカバンに入れていたから、専用のバスケットを用意した。箱形の手提げで、しろ丸を入れても余裕がある。これなら狭くもなく快適に移動できるだろう。

 しろ丸は嬉しいのか、その場でポンポン跳ねる。

「というわけで、俺からのプレゼントでした」

「コウタさん、ありがとうございます!」

「さっすが社長、太っ腹ね!」

「ありがとうございます、社長」

「ご主人様、ありがとう!」

「まさか私までとはな……異性から物をもらうなど何年ぶりだ」

『なうなーう、なうなーう』

 こうして、俺の異世界でのクリスマスは終わっ……らない。




 クリスマスなので、自分にもプレゼントをあげることにした。

 とは言っても物じゃない。熱燗を持ってトラック内の温泉で一杯やるだけだ。

 老舗旅館顔負けの露天風呂で徳利を浮かべながら一杯やる。夜空が輝き、竹の生け垣から映える桜がとても美しい。改めて、このトラックに感謝感謝。

「タマ、お前もどうだ?」

『ありがとうございます』

 夜空に向かって話すと、タマの返事が聞こえた。

「そういえば、お前にプレゼントやってないな……よし、明日おもいっきりキレイに洗車してやるからな」

『ありがとうございます。嬉しいです』

「ははは、可愛いやつめ」

 ちょっといい気分になってきた。

『社長。社長へのプレゼントはこれから来ますよ』

「は?」

 タマがワケのわからんことを言った瞬間だった。

 露天風呂の入口の引き戸がガラガラと開く。


「う、うぅ……恥ずかしいです」

「く……な、なんでこんな」

「ダメですよ、ミレイナ、シャイニー。私たちも社長にプレゼントをしないと。急にはプレゼントが用意できないから、お背中を流すと決めたではないですか」

「ご主人様とお風呂~♪」

「………むぅ、これはさすがに恥ずかしいな」

『うなーう、なうなうなうー』

 

 そこには、タオルを巻いただけのみんながいた。

 なにこれ夢? と思ってみんなを凝視してるとキリエが言う。

「社長。私たちのプレゼントです。今日は精一杯ご奉仕させていただきます」

「きょ、今日だけ!! 今日だけだからね!!」

「シャイニー、素直じゃない」

「う、うっさいコハク!! ほらコウタ、背中流すからこっち来なさいよ!!」

 ちょっと酔ってるのだろうか。

 まぁいいや……こんな天国、そうはない。

 俺は腰にタオルを巻き、湯船から出る。

「じゃあ頼む、ははは、こんないい想いができるなんて、幸せもんだな」

「ふん、感謝しなさいよ」

「わ、私もですよね?」

「わ、私もだろうな」

「ミレイナ、ニナさん、覚悟を決めて下さい」

 俺は風呂桶に座ると、コハクが飛びついてきた。

 うぅ〜ん柔らかい、最高ですよ。

「ご主人様ご主人様、きれいにしてあげるね」

「ああ、頼むぞ······って」

『なうなーう』

 なぜかコハクはしろ丸を泡だらけにすると、そのままスポンジ代わりに俺の背中をゴシゴシ洗う。

「ごーしごーし、ごーしごーし」

『なーうなーう、なーうなーう』

「あ、あの、コハク?」

「えへへ、しろ丸もご主人様にお礼したいって」

 なるほど、だからスポンジ······まぁいいか、気持ちいいし。

 すると、負けじとキリエが正面に来て、別のスポンジを泡立て足を洗う。

「社長、気持ちよくなって下さいね」

「は、はひ」

 うぉぉ、しゃがんだキリエの胸がすげぇ。谷間もバッチリ見えてますよ。

「くぅ······い、行くわよミレイナ、ニーラマーナ」

「は、はい······うぅ」

「ど、どうすればいいのだ⁉」

 ミレイナとシャイニーは左右から腕を洗い、ニナはオタオタしながら背後に回った。

 なにこれ至福? 女の子たちが俺の身体を洗ってる······はふぅ。

「社長、ここ・・も洗いましょうか?」

「⁉」

 キリエの本気とも冗談とも言えない発言に、俺の酔いは覚めるのであった。




 洗体を終え、みんなで湯船に浸かる。

 キリエとコハクは俺の隣でお酌をしてくれ、ミレイナ、シャイニー、ニナは離れた位置で恥ずかしそうに身を寄せ合っていた。ちなみにしろ丸は犬かきで湯船を泳ぎ回っている。

「どうぞ、社長」

「おお、ありがとう」

 う〜んマンダム。最高だね。

 コハクとキリエは交互にお酌をしてくれる。バスタオルから覗く胸の谷間が素晴らしい。

 ミレイナたちは恥ずかしがってるけど、こうして混浴してくれるだけでも大満足だ。今年のクリスマスは最高のプレゼントをもらってしまったよ。

 さて、酔いも回ってきたしそろそろ上がるか。

「じゃ、じゃあ、アタシたち先に上がるから」

「こ、こっち見ないで下さいね、コウタさん」

 ミレイナとシャイニーはそそくさと上がる。

「では、私たちも上がります」

「しろ丸、行こう」

『うなーお』

 キリエ、コハクが上がり、しろ丸もあとに続く。

 残されたのは、俺とニナ。

「あー、ニナ、先に上がるか?」

「······待て、もう少しだけ付き合ってくれ」

「ん、おお?」

 ニナは俺の近くまで来ると、徳利を掴んで差し出した。

「こんな場で言うのもアレだが、コウタ社長にはちゃんと礼を言いたくてな」

「お礼?」

 ニナ、やっぱり胸がデケェ······酔ってなきゃ直視できないかもな。

「冒険者を辞めたシャイニーブルーを引き取ってくれたことだ。アイツは器用に見えて不器用なやつだから、冒険者を辞めたあとどうするのかわからなかった。だが、社長が引き取ってくれたおかげで、アイツは笑顔で過ごせてる······ありがとう、コウタ社長」

「なんだ、そんなことか」

 俺はお猪口をクイッと煽り、息を吐く。

「俺としても、シャイニーには助けられてるからな、おあいこだ」

「······ふ、そうか」

 ま、そういうことだ。

 少しの沈黙のあと、ニナは言う。

「では、私は上がらせてもらおう。社長はどうする?」

「う〜ん、あと少しだけ」

「わかった。のぼせるなよ」

 ニナは微笑み、ザバっと立ち上がる······わぉ。

「あっ······きゃっ⁉」

「·········」

 バスタオルが外れ、見事に鍛え抜かれた裸体が超至近距離であらわになった。

 大きな胸、くびれた腰、無駄な贅肉などついてないお腹周り、そして······。

「······っ、す、すまんな」

 顔を赤らめ、凛々しい大人の女性ではなく、少女のように恥じらうニナの姿。

 とんでもない破壊力に、俺は言葉を失った。

「······し、失礼する」

 そう言って、ニナは早足で浴場を去った。

「·········はぁ〜」

 俺は天を仰ぎ、息を吐く。

 最後の最後で、とんでもないプレゼントだ。ニナの裸体を超至近距離で拝んじまったよ。

 クリスマス。この世界にはない文化だけど、アガツマ運送ではちゃんと開催しよう。

 俺は徳利に残った酒をお猪口に注ぎ、月夜に掲げる。


「メリークリスマス、そして······乾杯」


 残り酒は、不思議と甘い味がした。

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