第五話 初めてのチラシ配りとドミーに聞かせる航海の話(南の島で)
翌朝ジャンは、チラシを取りに会社を訪れました。社長が今日は初めてなのでチラシ五十枚から始めてみるようにと言いましたが、ジャンはここに来る交通費にもならないと思うんだがねと不満をあらわしました。社長は「すまんすまん、昨日いい忘れてたな。交通費はその都度渡す事になってるから今日かかった分はいくらだい?そうそう、そのキャリー使うといい。チラシといえど枚数あると重いからね」と言いました。ジャンはキャリーに五十枚のチラシを入れ、交通費をもらうと会社を出て一旦アパートに戻りました。「帰ったぞドミーと言っても、ちょいと行ってくる」と言うと「ちょいと行ってくる、ちょいと、ちょいと、帰ったぞ」と繰り返すドミーに笑いながらドアを閉めました。ドミーは窓からジャンがキャリーを引っ張り歩いて行く姿を見ていました。
社長の言うとおりマンションは一階の入り口にまとまってポストがあり楽だなと思いながら、五百枚のチラシを配り終えると牛乳とパンを買い、アパートに戻りました。「ドミー帰ったぞ」と言うと、ドミーの水と餌を新しいものに取り替えると、買ってきたパンを半分に割り食べ始めました。チラシを配り終えたのが三時だったため、夜の分のパンを残しておかなければならなかったからです。ドミーはテーブルに来ると「南国の航海での事、ドミー聞けよ。ドミー聞けよ」と言うと「まったく驚いちまうぜ、ドミーお前はたいしたもんだ。今日話す約束を忘れちまってた俺などと違ってな」とジャンは笑いながら航海であった話しの続きをドミーに聞かせるのでした。
どこまで話したっけな、南国の港で船に紛れ込んだ猿が俺になついちまったところからだな。よく聞けよドミー。何日か過ぎて荷を下ろす次の港に着いたのさ。そこが何処だと思う?ドミーよ、この世の天国かと思うほど澄んだ海に囲まれた南の島だぞ。俺はその島に初めて行ったから天国に着いちまったかと思ったわけさ。荷物を下ろすと俺は猿に美味い果物でも買ってやろうと店に行って「猿が好きな果物どれだ?」と言いながらバナナを手に取った時、その店の人が「何だって!猿と言ったか?若僧」と言いながら店の前の大きな看板を指指したのさ。その看板には船にいる猿とよく似た写真と猿を見つけたら連絡願うと書かれてあるじゃねえか。店の人は俺に「その猿はどこにいるのかね」と必死に聞くもんだから船の中にいるけど猿がどうかしたのかと俺は答えたんだ。島の王様の可愛がっている猿が行方がわからなくなって王様が探していたらしいのさ。すぐに猿を連れて王様の所に行ってほしいと言うから、船長や船員達に話して檻を運んで王様のお城まで連れて行ったところがなドミーよ、驚くじゃないか。王様がすぐに猿を見に来て「おお、これは猿のダダに間違いない」と檻から猿を出すと、猿は王様の肩に乗って喜んでいるじゃねえか、俺らは猿を連れてきてくれた恩人だということになったわけだ。それから王様のお城の中にとおされて、これまで食べた事のないような凄い料理を食べたり島の娘が踊るダンスを見たりしたあげく、抱えきれない程のその土地の産物を貰ったんだ。まるで夢のような時間だったよドミー。猿は俺になついているのを見た王様は涙を流して俺の所に来ると、ハグまでして何度もありがとうと言うもんだから、お城で俺は猿の恩人として特別にメダルの付いたネックレスをもらったんだ。そういやネックレスは何処だ?と言うと小さな箱からネックレスを出してドミーに見せました。
驚いた話しだろう?王様の猿だったなんてよ。どうやら港に付いたどこかの船に乗っちまって、あの港まで来ちまったんだな。
ジャンは「おやすみよドミー、これで南の国の話しは終わりだ。初めてチラシを配ったから疲れちまった」と言うと、夜の分に残しておいたパンも食べずに朝まで眠りました。




