街
「質問は終わり?今度は私がするわね」
「構わないが」
「貴方は、敵?」
ソフィーがそう言い放つと、目の前にあった丸くて大きな宝石が青白く輝き始めた。部屋の温度が体感で分かるほど下がっていく。けれど、それ以上に彼女が発している殺気が、私に冷や汗をかかせる。が、その程度の殺気でひるむ私ではない。
至って冷静さを保ちながら、
「助けて貰ったのに、敵とかありえないだろう」
と私は答えた。
すると、青白く輝いていた宝石は次第に色を弱めていき、最後には光るのを止めて、何事も無かったかのように落ち着いた。それと同時に、部屋の温度も元に戻る。殺気も消え去り、平和そのものの空間に戻った。
「カエデちゃん、ごめんねー。言ってなかったけど、人間のエルフ狩りが激しくてね。私達に敵意があるか確認しないと、皆が納得しなくてね」
ソフィーはそう言うが、私は良くあることだと黙って許した。そんな事より、エルフ狩りという言葉に方が、私は気になった。
「エルフ狩り?ソフィーは人間ではないが、獣でも無いではないか」
「あら。カエデちゃんは本当に無知なのね。エルフの魔法は非常に強力だから、人間に奴隷として重宝されるのよ」
「…魔法?」
「えっ魔法も知らないの?」
ほらこうやって、と言わんばかりにソフィーは指を擦り合わせた。すると。彼女の人差し指から少しだけ浮いたところに、赤い炎が灯る。その炎に手を近づけると、温かみを感じることから、まやかしの類ではないことが良く分かる。
「もう、勘弁してよ」
私は正座を解いて、布団へと身体を倒した。
知らない言葉について質問すると、知らない言葉で返される。本当にここは私の常識が通用しない世界なんだと、身に染みて理解した。
寝っ転がる私の横にソフィーは腰掛けると、
「それで、カエデちゃんは帰る宛があるの?」
と尋ねたてきた。
「…」
ここが別世界なのだとしたら、帰る宛どころか方法さえ分からない。こんなに立派な刀をいただいて、信玄様の一行に加わらせてもらった。それなのに私は、最初の任務さえこなすことが出来なかった。もう、帰って皆と顔を合わせることさえ恥ずかしい。
「その様子だと無いようね。丁度いいわ、しばらくはここで暮らしなさいよ」
ソフィーは笑顔で微笑んだ。
「私は魔法とか使えないし、エルフという種族でもないけど」
「いいのよ。この里は人手不足なんだから。ほら来て、皆に紹介してあげるから」
ソフィーに手を引っ張られ、私は家の外へと出た。太陽は上り始めたばかりらしく、東の方に顔を出している。目のまえは平場になっていて、耳の長い子供たちが騒ぎ立てながら目の前を通りすぎていった。
出てきた家の方を振り向くと、赤レンガ造りの建物だった。三角を基調とした屋根と角張った壁が、木で作られたものより、強い威圧感を与える。だが。日本ではこんな建物を見たことがなかった。石垣ともまた違う、これは家なのかと思ってしまう見た目だ。
「ソフィーの姉貴」
向かいから、耳の長い青年がこちらに手を振りながら近づいてきた。
「ヨハン。良い所に来たわ」
ヨハンと呼ばれた青年は私の顔を覗き込むと、
「お、君は姉貴が拾ってきた人間だね。目が覚めて良かった」
と言いながら頭に手をやった。
私はこれでも十六なのだから、子供扱いはやめて欲しいと思った。ソフィーも、私のことをカエデちゃんと呼んでいたし、この世界では何歳までが子供扱いなのだろう。それとも、ただ私が幼く見えるだけなのか。
「で、姉貴?この子はどうするの?」
ヨハンは私の頭を撫でながら、ソフィーに尋ねる
少しむっと来た私は、
「この子じゃなくて、私は楓だ」
と言いながら彼の手を掴んでどかす。
「しばらくはうちにいてもらうわ。敵ではないみたいだけど、しばらくは監視していてね」
「わっかりました。では、皆に伝えてきます」
ヨハンは私達に手を振りながら、走って何処かへと消えていった。
「楓ちゃん、行きましょう。村を案内するわ」
私の手は、ソフィーの手と指で絡まれながら繋がった。
首を左右に動かして、私は周囲を見渡す。建物の一つ一つは大きくて立派なものが多い印象だが、城下町のように広い道があるわけでもなく、人も多いく行き交う様子は見られなかった。ソフィーが言った通り、村なんだと認識した。
通りの道に出て、ゆっくりと二人並んで歩いた。通りと言っても、牛車一台が通れるぐらいの道だ。狭いが石で地面が舗装されているため、とても歩きやすい。
通りを歩いていると、多くの人とすれ違った。彼らは決まって、私達の前で立ち止まると話しかけてきた。
綺麗な花を頭にさしているお姉さんが、
「ふーん。カエデちゃんっていうのね。よろしくね」
と言って頭を撫でる。
「おっあんたがソフィーの拾い子か」
今度は毛むくじゃらの老いたエルフが肩を叩いた。
外から来た私に、皆が親切に接してくれた。里にいた仲間の様に気さくで、初めて今日あったとは思えない様な感覚さえ覚えた。
「ねぇ、ソフィー。確か、人間がエルフ狩りしてるって言っていなかった?」
「ええ、そうよ」
「なら、何で村の人はこんなに親切なの?」
「うーん。エルフはね、仲間には優しいのよ。貴方は私達を敵や道具だとは思っていないみたいだから、それが風に乗って皆の元へと届くのよ」
「なるほどね」
魔法とかで心が読めるという訳ではなかったのか。読心術に長けているか、殺気やオーラを感じ取る力が非常に強いのだろう。長い耳は、確かにそういった事に敏感そうに見える。
そんな事を考えていると、ソフィーはとある建物の前で足を止めた。
「ここが、教会よ。神様にお祈りする所。貴方は何かの宗教を信じてるの?」
「別に信じてはいない。人は死ねば、それまでだからね。けど、全ての物に神様は宿る。といった古来からの考えは持っているよ」
「へー面白いわね。私達の宗教と似ているわね。木、草や山などに自然にはかみさまがやどっているといった考え方よ。カエデちゃんって、実は耳の取れたエルフだったりして」
「そんなわけでしょ」
正月に書いた所までです
ここから先はありませんが、書く可能性は少しだけ…