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里で

 武田信玄の甥にあたり、望月盛時の妻に望月千代女という人物がいた。

 望月千代女は、川中島の戦いで望月盛時が討死したあと、信州にて、孤児、捨て子などの少女二百人を集めた。彼女は集めた少女に、巫女、情報収集や戦闘などの修行を積ませる。くノ一の育成の隠里との言葉がぴったりと合うだろう。

 そんな小さな里に、林のように静かで、風のように素早い、楓というくノ一がいた。まだ見習いながら、戦闘や潜伏に関しては人並み外れている力量を持っていた。


「楓さん。楓さん」

 川で水を浴びていた私は、林の向こうから後輩に呼ばれて顔を上げた。周囲を見渡すが、声の主は何処にも姿は見当たらない。けど、おおよその位置は把握できる。

 当たっても痛くない様に、川の底から適度な石を取り出すと、

「そこっ」

 と北北東の茂みに水を切る様に投げた。

 丸い石は、川の水に逆らって数回のバウンドをした後、茂みの中へと飛び込む。

「痛っ」

 小さな悲鳴がしたかと思うと、茂みから逃げ出すように若葉が飛び出してきた。

 若葉とは、私の後輩である。つい最近、千代女様が連れてきた子で、草木に隠れるのが非常にうまい。しかし、事前に声を出したのでは、私にかかれば直ぐに場所は分かってしまう。

「楓さん…せめて指差すとかにしてくださいよ」

 若葉は石がぶつかったのか、太ももを痛そうにさすっていた。その位置には赤く丸いあざが出来てるのが見えた。

「なら、隠れてないで、普通に呼べばいいのに」

「それだと、面白くないじゃん」

「で、何?千代女様がお呼び?」

「そう、それ。楓さん優秀だし、今回の任務でここにいられるのも最後かもね」

 服をかけてあった岩まで近づき、身体を布で軽くふき取る。短い髪の毛を綺麗にとかし、袖と裾の短い真っ黒な着物を着こんで紅い帯をきつく締めた。

「若葉は、任務に付いてこないの?」

「うん。行きたいけど、今回は私だと役不足みたい」

 その言葉に、私は眉間にしわを寄せながら若葉の方を見た。

「え?そんなに難しい任務なの?」

 若葉は、その緑に輝く目を濁らせ、

「分からないです。でも、楓さんにしかお呼びがかかってないみたいですよ」

 と首を傾げた。

 私にしか出来ない大きな任務な気がして、いつもより帯を少しだけきつく締め直す。そして、川に顔を近づけると、赤い瞳をした自分の顔が、水に反射して映し出された。特にいつもと変わらない自分の姿に安心感を覚える。

 身だしなみは大丈夫そうだ。

「若葉、案内して」

「はーい」

 若葉は返事し終わる前に、近くの木に飛び乗る。そこで、私の方を振り向くと、ニヤリと微笑んで次の木へと飛び移る。ガサガサと枝を揺らす音が響き、ひらひらと葉っぱが数枚下へと舞い落ちていく。

「競争しよう…ってことね」

 草履を素早く履き、地面を蹴り、丈夫な枝へと両手で捕まる。流れるようにして逆上がりの要領で一回転すると、枝に足をかけて上がる。目を閉じて耳を澄ますと、若葉が消えていった方角から、微かに物音が聞こえてきた。

 私は少しだけ口角を緩めると、

「まだ追いつく」

 と呟き、若葉の後を追った。

 足場に出来そうな木を瞬時に見極め、そこに飛び移す。もし周囲にそういった木が見付からなければ、手裏剣を事前に幹へと投げそれを足場に変えた。

 木々がざわめく音に交じり、木から木へと飛び移る音が聞こえてくる。

 前方の林の切れ目から、朝日が差し込んでくるのが見えた。その直後、光に逆行して黒い影を捕らえる。前方を飛び移る、若葉の姿で間違いない。

 若葉が最後の木に飛び移ろうとした瞬間を私は視界に捉え、その瞬間を見逃さずに、腰に忍ばせておいたロープを投げた。それは見事に若葉の身体を捕らえ、そのまま勢いを失った彼女の身体は落下していく。持っていたロープを木に括り付けて思いっ切り引くと、若葉の身体は宙吊りの状態でぶら下がった。

 若葉はぶらぶらと揺られながら、

「あう…流石は楓さん」

 と呟きながら頭をかいた。

 吊られている若葉の下に移動すると、私はロープを小刀で切って静かに身体を受け止めた。

「負けたんだから、今週の私の掃除分をお願いね」

 若葉は私にお姫様抱っこをされた状態になっている。そんな彼女に笑顔の表情を浮かべながら、覗き込んで話しかけた。

 若葉は少しだけ恥ずかしそうにしていたが、

「えーま。どうせ、楓さん任務でいないですし。私の担当になりそうですから」

 と私の言葉に、少し不満そうな表情を示した。

久しぶりに、オチを考えていない作品です

全力で設定を付け加えています


※あずみ、ツバキ、7人の侍を見たら、そりゃ書きたくなる

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