魔の一八手
暑中見舞いと気分転換を兼ねまして、日下部さまの“裏・夏ホラー”企画に参加させていただきました。
もう使われていない黴臭い旧校舎は、この夏休み中に取り壊されることになっている。
最後の機会だと誰からともなく言い出した高二の夏の肝試し。
くじで赤を引いた五人が脅され側、白の五人は脅し側だ。
予定の八時に赤組五人が集合すると、玄関硝子に赤黒く滲む文字の指令書があった。
“廊下奥階段から二階へ行け”
俺達はギシギシ鳴る簀子で内履きに履き替えた。
白組がどんな趣向で脅すつもりなのかと、ボソボソニヤニヤ小声で交し合い、身構え歩いていたはずだった。
靴音と会話だけの気配が薄まっていることに気づいたのは、廊下の半分を過ぎた辺りに差し掛かった頃だ。
「あいつらは?」
「まだ後ろに居んじゃね?」
隣から慎吾の声がしたことにほっとし、立ち止まる。
後方を向き、途中の空き教室でも覗いているのかと、神経をとがらせ、しばらく待ったが何の気配もない。
「どこいっちまったんだ、あいつら。なあ?」
再度慎吾に話しかけたが返事がない……完全に気配が消えていた。
「え、えっ、しん……ご?」
隣を見、また向きを変え、手にしたスマホの灯りをたよりに廊下の先を窺う。
(まさか……冗談だろう!)
ふっと心当たりが頭を掠め、視界に広がる闇の中を覗く。
さすがに薄っすらとみえた階段は不気味さが漂っている。
木造校舎の長い廊下、外に面している窓から照らす月明かりがないことも、想定外だった。
取り壊しに備え外周を全て分厚いシートで覆われていたのだ。
ともかく二階に行けば、白組のやつらがいるはずだと気を奮い立たせ、平坦な廊下をそろりそろり歩を進めていく。
床を踏むたびキュキュッと上靴のかかとがこすれる。
常に聞きなれているはずだろうに、意識したことなどなかった音が、耳に響く。
自身が立てる足音以外聞こえない。不自然に静かすぎる。
ようやくたどり着いた階段を踏み外さないよう、手すりに沿って昇っていくと、折り返しの踊場で進めた手が強い力で引っ張られ、体勢を崩した隙に腰を引きずられた。
気がつけば何本もの手が体中をまさぐってくる。
「なっ、あ、ヤメ……あぁ! ダメ、そこ……っ!」
「うっさい! これはおしおきだ!」
「観念しな! いっつも一緒に遊んでて、有斗だけ補習ないってズルイだろ」
やっぱそこ? なら、おまえら、赤点取んなよな!
「うわあ……ハハッハハッ……くるしっ! もっヤバいって! アハハハハッ! アハハハハ――」
八つ当たりすぎるだろ! クスグリの刑って……もう笑い死ぬっつーの!
日下部さま、企画主催お疲れ様です。
『ジャスト1000文字の笑えるホラー。 メインストーリーはホラーで、ラストで笑える“オチ”を入れる事』というレギュレーションは、ネタバレ防止に後書きで明記です。