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7 プレクラス

挿絵(By みてみん)

7


 千秋に教わった園に電話すると、そういった事情であればいきなり入園ではなく、まず来年度入園の子たち対象に行っているプレクラスに入ってはどうかと提案された。


 年中から入園する子も毎年十人くらいはいるので、プレに入れば事前に同い年の仲間もできて安心です。

 週に一回程度の活動なので無理なく園生活に慣れていくことができますよ。

 そう促された。

 

  

 今は二学期頭。

 入園しても運動会だのなんだので大忙しな時期だ。

 集団活動ができないと言われていた七緒が入園するのに適した時期とは言えない。

 私は早速園から言われた通り、十月から七緒をプレクラスに通わせることに決めた。




 プレからの帰りに立ち寄ったスーパーで、朝子達と会った。


「あ。夕子おばちゃんだ」


「七ちゃんだ」


 莉音と詩音は揃って私たちを指差した。

 かとおもうと嬉しそうに駆け寄ってきて、唐突に私たちの周りをぐるぐる回りはじめる。


「えっ? 何? ええっ?」


 何が面白いのか、ウフフと笑ってそこに七緒が加わった。

 だんだんスピードが速くなる。

 偶然出会ったということが、そんなに嬉しいのだろうか。

 子供って本当に意味がわからない。

 

「ああ、もうお前らうるっさい。散れ。駄菓子好きなの一個ずつ選んでていいから」


「いえーい!」


 朝子の言葉に、詩音が勝ち誇ったようにガッツポーズを決める。

 二人が揃って走り出し、置いて行かれた七緒がぽかんと口を開けている。


「七ちゃんこっち!」


 莉音がピョンピョン跳ねながら七緒を手招きする。

 呼ばれた七緒は莉音の元まで脇目も振らず猛スピードで駆けて行く。

 ぶつかりそうになって驚いた買い物客が、チッと舌打ちをする。


「こら! ここは店だぞ。走り回るな。それから莉音はちゃんと面倒見ろよ」


 三人の背中に向かって朝子が怒鳴ると、莉音が七緒の手をとった。

 それから私達ちゃんと歩いていますから! とアピールするかのように、わざとらしくゆっくり歩く。


 一人っ子の七緒は買い物中に私の元を離れたことなんかない。

 けれども朝子が当たり前のように子供達と別れるので、私はそのまま七緒を送り出すしかなかった。


 確かに時折子供が、一人でお菓子を選んでいるのをよく見かける。

 好きなお菓子を見繕っては親の元へ戻り、カゴにこっそり忍ばせたり、見つかって突き返されたり、交渉したり……どれも七緒にはハードルが高いように思えた。

 そうか。

 普通なら、そういうこともできる年齢なのかも……と思うと気分が一気に暗くなる。


「……七ちゃん、保育園やめたの?」


 子供達の姿が見えなくなると朝子は単刀直入に切り込んできた。

 

 私のカートには「ひかり幼稚園」と印刷してある封筒がつっこんである。

 保育園をやめ、幼稚園に入れるには、教師のようなフルタイムの仕事をしていては無理だ。

 朝子には一目でどういうことなのか察しがついただろう。

 仕方なしに頷いてみせる。


「七緒には発達障害があるんだって。自閉症スペクトラム障害とか、ADHDとか聞いたこと……ないか。ないよね。集団生活が難しくて、だから障害に理解のありそうなところに入れてゆっくり向き合っていこうかなって、思ってるんだ」


 プレがスタートしてからというもの、何度同じ説明を繰り返しただろう。


 この時七緒には正式に診断が下りていた。

 自閉症スペクトラム障害(ASD)とADHDの両方の傾向がみられる。

 それほど重たくはないが運動協調障害も持ち合わせている。


 しかし小さな小児精神科では診断はできても療育を行ってはいない。

 結局は療育センターで医師にかかり、適切な療育を紹介してもらわなければならず、診察日はまだ四ヶ月も先だった。


「ふーん、そうか。それでひかり幼稚園……ね。うちに来ればいいのに。同学年に詩音もいるし、のびのびしてるし。ひかりなんかより合うんじゃないと思うよ……。ま、わっかんねーけど」


 朝子は七緒の障害について何もコメントしなかった。


 普通じゃない?

 そんな風に見えないよ。

 大丈夫、気にしすぎよ。


 そう言われて反応しなくて済む。

 それだけで、こんなにホッとするなんて。

 当たり前のようにそうか、と受け止められることがこんなに嬉しいなんて、知らなかった。

お菓子コーナーに幼児だけ。

子供の頃の私はやっていたように思いますが……。

微妙だと思うw

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