48 偉そうに、私は何を目指してたんだろう
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「ごめん、ごめん七緒」
「いやだあ! カメラ見たかったのに、なんでぇ?」
「ごめん、私が悪かったから」
「いやぁ! もう一回、もう一回もどって! もう一回やりなおしてえええ!!」
泣き叫ぶ七緒を抱きかかえて運動場を飛び出した。
振り返る人の目。
声をかけようと手を伸ばす人の困った顔。
気づかぬふりで一心不乱に門を出る。
七緒を納得させる良いやり方ならいくらでもあったはずだ。
私が七緒についているんだから、心配しないで。
ばぁばに向かって私が言い切りさえすればよかったんだ。
曖昧で頼りない私の態度が人に助けの手を伸ばさせる。
状況がくるくる変わることが七緒を混乱させる。
私が揺れるから、七緒がパニックを起こす。
しっかりしなきゃ。
もっと、ちゃんと。
「ママ、あれ誘拐じゃね? 」
「もう一回、うえぇ、もう一回……」
誘拐、の言葉に泣きじゃくる七緒を抱えたまま、立ち止まり振り返る。
話していたのは門の前のガードレールにもたれて大きな声でだべっていた中年の母親らしき女と薄化粧をした若い娘だ。
「誘拐? 何言ってんだい。ぜんぜん違うわ。子供ってのは可愛い時ばっかじゃねーんだぞ。あたしだっておまえがあのくらいの時は誘拐だの虐待だの陰口たたかれてきたもんさ。通報されたことだってあったんだ」
「げ、通報? うっそ」
「みんなそうやって大きくなんのよ。おまえもいつか親の苦労がわかる時が来る。親だってただの人。完璧な人なんかいないんだからね」
娘を母親がたしなめ演説をうつ。
「ママ、しーっ聞かれてんよ」
「あ?」
娘が私に背中を向けていた母親が喋り続けるのを止めると、母親がこちらを振り返った。
さっと視線をそらして背中を向ける。
親だってただの人。
完璧な人などいない。
母親の言葉がなぜだか胸に残る。
「おまえが誘拐だなんて言うからだろ。想像力が足りねーんだよ!」
バツが悪くなったのか母親は娘を大声で怒鳴りつけた。
「は? 何だよ、あたしのせいだってのか。マジうざい。クソババア」
「くそばば……ってチョット待ちなさい!」
反発した娘が腕を振り払って運動場に向かって駆け出した。
母親はため息をつく。
その姿がかつての朝子とばぁばに重なった。
詩音と朝子にだってこんなシーンは何度もあった。
朝子なら、千秋なら、愛羅ちゃんのママなら、誠司なら、私じゃない誰かならもっとうまく七緒に対応できた?
ばぁばにうまくやれない私の姿を見せたくない?
偉そうに、私は何を目指してたんだろう。
完璧になんか誰もやれるはずないのに。
子育てがうまくいかず翻弄されていたのはばぁばだって朝子だって、もしかすると千秋や愛羅ちゃんのママ、そして誠司もみんな同じだったかもしれない。
私だけじゃない。
なのに。
「あー、しょーがねーなあ、もう!」
さっきの母親はひとりごちて、娘の消えていった人混みに向かって歩き出した。
これから人でいっぱいの会場の中、娘を探し歩くのだろう。
憎たらしくても、恥ずかしくても、それでも娘。
至らなさにうんざりしても、失敗続きで情けなくてもそれが親の私。
大切で、大切だからこそ心配で、人に歓迎されないような子になってほしくなくて、余計な一言を言って、頼まれてもいないのに手を貸して、偉そうに演説うって嫌われて、こんがらがって。
親子ってこんなにも難しい。
泣き叫んでいた七緒はいつの間にか眠っていた。
記憶力のいい七緒はきっと目覚めたらカメラのことを思い出し、暴れるのだろう。
今日は帰ろう。
帰ってゆっくり寝かせてやろう。
そして七緒が納得するまで泣いて暴れて困り果てるのをただ待ってやれるように、私は私を整えよう。
部屋で香りの良いお茶を入れてのんびりするんだ。
運動場をあとにして帰路についた。




