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星に願う 〜娘は発達障害でした〜  作者: 遠宮 にけ ❤️ nilce
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22/54

20 ステージ

挿絵(By みてみん)

20


 合奏に合唱、それからセリフ劇とひとクラスの持ち時間は十五分。

 先生のアナウンスに合わせて緞帳(どんちょう)が上がり、一組目の演技が始まる。


 不織布のヒラヒラした衣装に身を包んだ幼い子どもたちが、足元から姿をあらわした。

 緊張したように俯いている子。

 すました顔をしてチラチラと客席に目を走らせる子。

 楽器を脇に抱え無邪気に手を振って見せる子。

 舞台と客席の間では様々な気持ちが行き交って見える。


 知らない子とはいえ、七緒と同じ年頃の子供達がピアニカを弾いたり、身を揺らしながら歌ったりする姿は愛らしく、胸に迫った。


 セリフ劇では、軽い麻痺のある女の子が友達に手を揺らされながら、いっせーの、の合図に声を揃えていた。

 そのあと互いに目を合わせ微笑み合う姿に、児童館で仲睦まじく遊んでいた愛羅ちゃん達の姿が浮かんだ。

 七緒と同じ学年の子どもたちはこんなにも成長し、お互いを意識してやりとりができているのか。

 子供達のみずみずしい成長ぶりに目を奪われる。



「いよいようちのクラスだな」


 誠司はぎゅっと私の手を握った。

 子供達が一斉に手を振り緞帳(どんちょう)が下りはじめる。

 七緒は大丈夫だろうか。

 ステージの上のあの子達みたいに、成長した姿を見せてくれるだろうか。


 皆と同じように活動してほしい。

 そんな風に思っていたわけじゃない。

 だけど……他の子にできるんだ、七緒にだってできないはずはない。

 どこかでそう思ってしまう私がいた。


 うちではあんなにおしゃべりで賢いのだ。

 能力ならきっと他の子にだって負けてない。

 それなのに、外では良さを何一つ発揮できず誰にも認めてもらえないでいるのかと思うと、切なかった。 


 どうして私はそんな風に七緒を誰かと比較してしまうんだろう。

 賢くて魅力的な七緒をそのまま受け止めていれば、それでいいはずなのに。


 今だって名前も知らない子供たちと七緒を比べて、圧倒されている。

 自分自身が誰かと比較されるのをあんなに恐れてきたのに、私は習慣のように七緒を誰かと比較して焦っていた。

 他の子と同じように、と。


「次はアプリコット組の皆さんです」


 アナウンスが流れ、オレンジの札を持つ私たちのクラスの親達がカメラ席に誘導される。

 誠司は繋いだ手を離し、流れに乗ってカメラ席へと向かった。

 



 入れ替わりの間、先生がマイクを通して練習風景などを話しながら間を持たせる。

 いよいよ話が途切れ緞帳が上がった。

 スポットライトが眩しい。


 七緒は……七緒が列の中央に立っているのが目に入った。

 その瞬間、わっと胸が熱くなった。


 七緒は固く眉を寄せ片耳を抑えながらも、愛羅ちゃんの隣で鈴を構えて立っている。

 曲名がアナウンスされ、香澄ちゃん達は先生の指揮に視線を集め一斉にピアニカを構えた。

 息を吸う音がして「きらきらぼし」のメロディが流れる。

 七緒の手が鈴を振りながら上から下へと降りていく。

 輝く星のような鈴の音……。



 頭に次々と七緒を指して言う大人たちの言葉が浮かんだ。

 集団行動ができません。

 指示がわかっていないようです。

 いつも園庭にいるのよ。

 まだそこまで人に関心が向いていないですね。

 ……友達と遊ぶよりも、日の光が水槽にきらめくのに夢中だったあの七緒が、みんなと一緒にステージに立っている。




 納得しないと動くことができない、無理強いの利かない娘だ。

 そんな七緒が、ふんばってステージにいようとするのは、それが彼女の意思だからだ。

 これがきっと七緒の、社会性の芽……。


 みんなと一緒にステージに立っていたい、と感じているかどうかはわからない。

 理由は約束したからでも、そうしなければならないから仕方なくと思ったから、でもなんでもいい。

 七緒が周囲からの求めに応じ、集団の一員としてこうしてステージに立っている。

 立てるんだ。

 そのことに胸が震えた。


「……初めてですか? 結構、感動しちゃいますよね」


 青い札をかけた三組目のクラスのパパが、ハンカチを差し出してくれた。

 気付けば私の頬は涙でぐしゃぐしゃだった。

 こんなことで、泣いてしまうなんて。

 気恥ずかしさに、思わず笑みがこぼれる。


「ありがとうございます。大丈夫です。持ってますから」


 慌ててバッグからハンカチを取り出し、涙をぬぐう。


「知ってる子が今ステージにいるんです。成長したなーって見ていたら僕も嬉しくてね。……だから気持ち、わかりますよ」


 彼はそう呟くとステージへ顔を向ける。

 心なしか彼の目も潤んでいるように見えた。


 座席に目をやるとママ達は一心不乱にステージを見つめていた。

 みんな同じだ。

 我が子のことに必死になるのも、比較して一喜一憂してしまうのも、みんな。

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