表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

第二十九話 なりすまし⑤

後日譚のつもりが長くなったので分けます。今回は短いです。

というか、投稿前にデータふっとんでましたッ。

バックアップはこまめにって、あれほど……。



 夏を前に虫の音が、辺り一面に響いていた。


「紗枝さんが、この村に来てみたいって、言ったんです。

 後代さん、あなたに会いたかったんだと思います。」


 息を飲んだ私に、ひとしきり泣いていた頼子さんが振り向いた。


「紗枝さんは夜になると、私から出て、毎晩二人でお話ししてました。」


「そうか。

 そうやって時々憑依を解いていたから、君は消えずにすんだんだな。」


 つぶやく先生の言葉に、頼子さんは小さくこくんと頷いた。


「私をいじめてたあの子が死んだあと、私が学校に行けなくなって。

 お父さんもお母さんも、あの街に居づらくなって、それで引っ越そうって。

 紗枝さんは私のせいだって、これでさよならしようって言いました。

 でも……私はイヤだった。」


『紗枝さんのこと、好きだったのね。』


 頼子さんは ぐっ と深くうなずくと、叫ぶように言った。


「だって、私をいじめてた子が幽霊になってまとわりついてくるのを

 紗枝さんが追い払ってくれていたんです!

 だから、今度は私が紗枝さんを守るって!!

 一緒に居てって!!」


 それが先生が言っていた、依存の関係なのかな……。

 うううん、もっと深い感じがする。


「そんな時、四月中テレビやネットで話題になっていたこの村の動画を

 偶然二人で見たんです。

 あの、天女が下りて来たって動画を。」


 わ、私だ!!

 それで紗枝さんは私のことを知っていたんだわ。


「紗枝さんは一目であれは幽霊だって。

 幽霊のくせに、なんであんなに嬉しそうなんだろうって、

 見惚れてました。」


 確かにあの時、死霊との戦いが終わって、ほっとしていたもの。


「後代さん。

 紗枝さんはきっと、あなたとお友達になりたかったんだと思います。

 口にはしてなかったけど、一つの体にいると、そういうのわかっちゃって。

 だから、私がお父さんとお母さんに、この村に来たいって。」


『そういうことだったの……。』


「はい。

 そしたら紗枝さん、頼子が余計なことするなら私も、なんて言って。

 この学校で美術部見てみようよ、なんて言いだして。」


「イラスト、相当描いているんだろう?」


 朦朧としながら言う先生に、また小さくうなずき、頼子さんは紗枝さんの顔を、ペンだこのできた指で、いつくしむように撫でながら答える。


「中学に入ってから始めて、スケッチブックに400冊くらいになりました。

 恥ずかしくて、誰にも見せてなかったけれど、

 紗枝さんはいいじゃんって、喜んでくれて。

 ……嬉しかった。」


 誰かに見てもらえるって、たった一人からでも、いいねって言ってもらえるって、そうだよね。


「でも私、この学校に来ても、わけもなく不安で、怖くて。

 そしたら私に任せなって。

 今日も紗枝さん、私になりすますからって。

 それなのに私のせいで、紗枝さん……こんな……。」


 頼子さんの嗚咽に、あたりの虫の声は一瞬、ぴたりと止んだ。


 そうだったんだ。

 それで、今日……こんなことに。


 これで良かったなんて、思えない。

 紗枝さんはきっと、本気で先生と刺し違える気でいた。

 自分を消し去るために。

 先生を傷つけたのは、許しがたいけど、でも全部、頼子さんのことを思ってのことだったんだ。


『ほんとに、素直じゃないんだから。』


 急に涙があふれて頬を伝った。


『言葉が交わせるんだから、ちゃんと伝えてくれなきゃ。

 きっと分かり合えたのに。

 私だって、友達になりたかったよ。』


「ごめんね、紗枝さん! ごめんね!」


 頼子さんは、もう、ものも言わなくなった紗枝さんの顔に、自分の頬を押し当てて声を上げて泣いた。

 私は涙をぬぐうことも忘れ、頼子さんの肩を抱いた。


『頼子さん、

 謝ってばかりいたら、紗枝さんきっと安心できないよ?』


「え?」


『ごめんねじゃなくて、ありがとうって、そう言って上げなきゃ。

 紗枝さん、また悔いが残っちゃうよ。

 ね?』


「どうしたら、

 どうしたら紗枝さんに、そう伝えられますか?」


 瞬きもせず私に問いかける頼子さんに、先生が言葉をかけた。


「この桜……まだ枯れ切っちゃいない。

 でも、ほっといたら、ほんとに死ぬだろうな。

 どうだ?

 君がこの桜、守ってやれないか?

 大変だろうが、それが紗枝を守ることには、ならないか?」


 じっと先生を見つめる頼子さんの顔を、遅くなって顔を出した月が照らした。


「……はい!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ