表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

最終話 新しい朝

縁ちゃん視点です。

 翌朝、着替えを済ませて食卓についたものの、半分くらいに開いた目をしょぼしょぼさせながら、先生の向かいに座って朝ご飯をいただく渡瀬さん。


 私は二人を交互に上目遣いで見ながら、間に正座。


 ずーっと黙ったままだった先生は、先に食べ終わると、お茶をごくごくっと飲んで……。

 スッキリとした笑顔ながらも、少し呆れたように言う。


「夕べ寝かせてくれないんだもんな。」


「ご、ごめんなさい。」


『私もそれは同じで……。』


 先生はうすーい横目で私も見てため息一つ。そしてまた、目をしょぼつかせる渡瀬さんを見る。


「そんなんじゃ運転できないな。俺が変わるよ。」


「え?」


「それとも人に自分の車運転されるの、嫌な人?」


「うううん! 雨守クンに乗ってもらえるなら、いい。」


「じゃ、そうしよう。」


 先に先生は席を立った。と、同時に私達は二人ともほっとして長~いため息をついた。


『渡瀬さん、先生、怒ってなかったし、私達、嫌われてませんよね?』


「縁ちゃんは大丈夫だろうけど、わたしあ~ッ!」


 渡瀬さんはのけぞって、お箸を持ったままの手の甲をおでこにぺチンと当てた。

 ……夕べ、夜這いに行こうなんて布団の中で渡瀬さんが言いだして。


*****************************


『じょじょじょ冗談ですよね? 

 よよよ夜這いって、男の人がするものじゃじゃ。』


「待ってたって来てくれないもの雨守クン。」


『でもでも、だからって。え? 「行こう」って私も?!』


「当然でしょ?

 添い寝だけでもいいから、一回だけぎゅっとしてってお願いするの。

 一回だけ、ちょっとでいいからって。」


『きッ気持ちはわかりますけど、それは私だって……。』


 ぎゅっとはしてもらえなかったけど、勝手に添い寝しちゃったことはあるし。


「縁ちゃん?!」


『は、はいい?』


「良ければ私の体……使ってもいいのよ?」


 一瞬、凄く悩んでしまったッ!

 半年も前の、年明けに生霊と戦った学校で二人を助けた時のこと。

 つい、乗り移った渡瀬さんの唇で、先生にキスしてしまった、あの感触を鮮明に思い出して、無意識に唇に指が……。


『でもやっぱり変ですよぉ!』


「何言ってるの? 今悩んだじゃない。素直になりなさいよ!」


『はあああッ!』


 思わず頭をかかえてしまうよぉ。理性が段々負けていきますッ!


「あとはその場の勢いよ。」


『なっ、何を考えてるんですか?』


 低くつぶやいた渡瀬さんの目が妖しく光っていた。


「雨守クンだって男ですもの。抱き着いてしまえば……。」


 な、なに肩はだけてるんですかッ?


『え? まさか……?』


「本能を目覚めさせるの!」


『ひえええええッ!』


「縁ちゃんも体だけでも私に乗り移ってればいいじゃない。

 生身の体で感じるものも、とっても素敵なものなのよ?!

 その経験もなく死んじゃったなんて、あんまりだわ?」


 ぐらっと私の中の理性が揺れちゃった。


『うわあああああんッ!

 いけないってわかってるのにィッ。

 でもそれやっぱり変じゃないですか?

 先生に二人で同時に迫るだなんて。』


「夜這いが慣習だった時代なんて、一夫多妻みたいなものでしょ?」


『なんか違うよおおお。』


 やっぱりよくないですッ!

 うううん、凄くそそるんだけど、心の準備ができませんッ!


 布団から這い出て、先生の寝ている隣の部屋への襖を開けようと手を伸ばす渡瀬さんを必死に止める。もう、ほとんど体半分乗り移ったような状態になっているッ。


「何をためらうの?

 ほら!

 もう、すぐそこなのよ?!」


 渡瀬さんが抗うから、浴衣はすっかりはだけてちゃって。


「しないままの後悔より、してから後悔したほうがッ!」


『いいこと言ってるようで全然違いますよおおおッ!』



 ガラッ!



 突然、襖が開いた。

 ぎょっとして二人で恐る恐る見上げる。


 半分だけ開いたような目の、無表情の先生が、そこにいた。


「何時だと思ってるの? 早く寝なよ。」


 眠そうな声でそう言うと、ほとんど上半身裸状態の渡瀬さんに驚くこともなく。先生は、振り向いて後ろ手に襖を静かに閉めたのでした。


******************************


 あの後、私はもちろんだけど、渡瀬さんも眠れなくなっちゃっていたのよね。


「ああ~。私、裸同然だったのに、なんの反応もされなかった。」


 がっくりと肩を落とす渡瀬さん。


『でも、ほとんど真っ暗だったし。先生、寝ぼけてましたし。』


「ああ~ん、それでもバツが悪いったらないわよ~。」


『それは私も同じですよぉ。』


 私の声の方が、絶対先生に聞こえていたはずだもん。



 その後、少しして。妙子さんは登校前に先生と渡瀬さんにお礼を言って学校へいった。

 そして妙子さんのお父さん、お母さんにお世話になったお礼をして、先生と渡瀬さんは『先生』の民宿を後にした。


 身長の高い先生は、運転席をぐっと後ろに下げて、バックミラー、ルームミラーと調整し、エンジンをかけるとゆっくりと走り出した。


 シートベルトをさすりながら先生は言う。


「昨日は縁のお陰で、全然痛みもなかったよ。ありがとな。」


『いえッ! そ、そ、そんな。』


 一人勝手に気持ち良くなっちゃってた、なんて言えないよ~ぉ。どぎまぎしてる私をよそに、先生は今度は渡瀬さんに話しかけた。


「渡瀬さん、休暇一週間あったんだっけ?」


「えッ? ……ええ。」


 もうこれでまた当分、渡瀬さんに会えなくなるのかな。


「じゃ、もう少し、小旅行といってみようか。」


 え?!

 先生がそんなこと言うなんて、思いもよらなかったから、私も渡瀬さんもびっくりしてしまった。


「ん? いきなりじゃ都合悪いかな。

 縁はいいだろう?

 夕べ二人でじゃれあってたんだし。」


 思わず渡瀬さんと顔を見合わせちゃう。


「全然ダメじゃないッ!」


『勿論、行きたいですっ!』


「じゃ、決まりだな。

 この先を行ったところに、知る人ぞ知る絶景の滝があるんだ。

 そこなら涼しいし。」


『わあ! 嬉しい!!』


 三人とも、笑顔になった。


 やったー♪

 たまにはこんな日々も、きっといいよね!

第三期はここでいったんおしまいです。

またネタ探しをしておきたいと思います。


思いがけずシリーズ化となりましたが、

毎回頂く感想が嬉しくて楽しくて、書き続けるモチベが上がっていきました。

感謝です。


最後を書くとしたら、という本当の最終回の構想もあるにはあったのですが

私自身、雨守、渡瀬は勿論、一番は縁ちゃんの活躍する姿を見ていたいので

それを書こうかどうしようか、そんな迷いもあります。

彼らはまた今日もどこかで活躍してる、

そんな最終回らしくない最終回でもいいような気もw

だから、そんな展開も考えておきたいです。

作者エゴも甚だしいですね。


引き続きこの次話として、設定とまではいきませんが

これまでの登場人物にどんな気持ちで名前をつけていたかまとめたものを

ご紹介させていただきます。(ニコニコのブロマガから転載です。)


半ば勢いで書いていたので矛盾する部分も多かったであろう拙作を

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。


またの機会に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ