シンの待遇
「さてと、シンさん聞きたいことがあります。」
竜族の男どもの朝練を強制終了させ、リーニャにあわせて北国風の朝食をとったあとレイユエが話を切り出した。
「……。」
「まず、あなたは物取りでしたね。本来なら衛兵につき出さねばなりません。」
スッと窓の方に視線を向けそれを見たリーニャが駆け寄り捕まえようとする、だがそれは無意味に終わる。
そこでシンの動きは止まったからだ。
「動けない……。」
奥歯を噛み眉間に皺をよせ、必死の形相で動こうとするがシンは動けなかった。
身体中、光の蔓が巻き付いていたからだ。
「これ、捕縛の魔法ですか? 」
「島中に魔方陣が巡らせてあるといったでしょう? 」
「本当だったんですね、それ。」
「必要になる時もあったんですよ。今は要らないんですけどね。」
「さっきも言ったとおり本当ならつき出さなければなりません。が、私達は貴方を保護することにしました。」
私は反対ですけどね、とリーニャが言うがレイユエは聞こえないふりをして続けた。
「それで、貴方は何かしたいことがありますか?」
「したいこと?」
「はい、保護したからには貴方を更生させる義務があります。」
「そんな義務、聞いたことないんですけど、と言うかこの人更生無理じゃないですか?」
「竜族の掟なんですよ、そして何事もやってみなければなりません!」
安心してくださいリーニャ様、そんな掟聞いたことないですからっと言って壁に控えていた男が夜明や日暮に吹き飛ばされる。
「気にしなくていいですよ、よくあることです。」
こほんと、咳払いを気まずい空気を塗り替えようと発言するが逆に気まずくなってしまった。
「……。」
「はい。」
「……じゃあ続けますね。」
「……。」
「はい。」
「で!更生させるにはやりたいことをやらせるのが一番です!てわけでシンさんはやりたいことありますか?」
「盗み。」
その言葉にレイユエは予想外とばかりに固まりリーニャは言葉で狙撃してみる。
「盗みやらせるんですか?ユエさん。」
「わかりました、お金を稼ぎたいんですね!いい心がけです。」
仲間である筈のリーニャにも裏切られた心地になり、やけっぱちでそう言うと意外にもシンはコクりと頷いた。
「「えっ!本当にお金を稼ぎたかったんですか!? 」」
リーニャはともかくそう言ったレイユエまで驚き声を張り上げるので首を傾げつついった。
「稼げるならそれでいい。」
その言葉にレイユエは笑顔を浮かべ、リーニャは口を閉じる。
恐らくレイユエの言う言葉がわかったのであろう。
「じゃあ冒険者ギルドに所属して私たちとパーティーを組みませんか?」
レイユエの言葉にリーニャは遠い目をしシンはとある爆弾を落とす。
「ギルドなら登録してるし、依頼もとってある。」
「え、もうしてたんですか?」
「うそでしょ!?」
「名前が違うんですけど!? ちょ犯罪。」
「他にもある。」
シンの持っていた小さなバックから沢山のギルドガードが出てくる、恐らく空間魔法がかかっている。
「あのー、シンさんのは……。」
これには流石のレイユエも引きつつそう問いかけるとシンが一枚のギルドガードを手渡した。
そこに書かれていたのは。
────────
冒険者ランクB
名前 シン
年齢 21
出身 ウェストステラ
職業 ?
武器 ?
住所 ?
連絡 ?
有効期限が切れていますギルドにて更新してください。
────────
と言う文字たち名前と年齢以外は全て書かれておらずギルドガードの有効期限も切れているようだ。
ちなみにギルドガードの有効期限は五年間。
年齢は自動で書き換えが行われるため誕生日の度に更新する必要はない。
「へぇ、シンさんって21だったんですね。リーニャさんより一つ下ですか。」
「やっぱりばばぁか。」
「一つしか違わないじゃないですか!と言うかギルドガードの有効期限過ぎてますし実質登録してないようなもんじゃないですか。」
「まぁまぁ、有効期限が切れてるとは言え強さは折り紙つきのBランクですし。」
シンがムッとした気配を察したのかレイユエがリーニャをなだめつつ話題を変える。
「と言うか依頼ってどんなのです?」
「ほら…。」
みせられたのはゴブリンの討伐依頼、しかもランクはB+。
「B+ですか…。」
「……無理でしょ。」
冒険者のランクは通常AからFまでそこには明らかに収まらないとするものはSというように分けてある。
だが、モンスターは危険度を分かりやすくするため+と-がつけられ細かく分類されているのだ。
B+というのはほぼAと同じと、とらえていい。
ゴブリンは一体一体は弱く個体ならFランク、だが数が多く知恵も回るその為、群れの場合はD~Cとされる。
だが最高でもCなのである。
それがB+と言うことは確実にゴブリンジェネラルがいることは明らか、下手をすれば危険度はB+を超えるだろう。
現在、リーニャはEランクで明らかに実力不足。
シンはBだがリーニャをフォローしながら戦える技能はないだろうし、あってもリーニャをフォローする気はないだろう。
それを考え震えるリーニャの手を取ったのはレイユエ。
「ユエさん? 」
リーニャはレイユエが嫌だというを期待して見つめるが口にしたのは違う言葉。
「やりましょう。」
「え? 」
「ただ、シンさんは一度登録し直しなのでランクはFからのスタートですね。」
「……え? 」
折角、上げた冒険者ランクが振り出しに戻ると聞いてシンは固まりリーニャはそれなら受けないで済むと喜ぶ。
とはいえそんなに話が上手くいくわけもない。
「まぁ、シンさんがFでも私が少なくともBはありますから受けるのは問題ありません。」
「いやいや、ここは辞めましょうよ!」
「……でももう受けちゃいましたし。」
そう言ったレイユエの手には正式に受けたということをしめす書類。
リーニャは固まり、シンは少しだけ口許を上げた。
「まぁ、とりあえずはギルドで登録してパーティー申請ですね。あ、もちろん入りますよね? パーティー。」
「いや……。」
拒否しようとしたシンに戦力を逃がして堪るかとリーニャが何事かを耳元で呟く。
「入る。」
キリッと締まった顔でそう宣言した。
「リーニャさん何て言ったんですか?」
「…おいしいご飯って言ってみました。」
「……先ずはギルドで登録ですね。」
「あぁ。」
「あっそうだ、いい忘れてましたがパーティー名はドラッヒェンリーベ─竜の愛─です。」
ひゅっとシンの息が一瞬詰まったのにレイユエもリーニャも気がつかず、話は終わったとばかりに予定を告げて部屋から退出した。
「竜の愛?ふざけるな……。」
その声は二人には届かなかった。