竜の浮き島
この話が抜けてました。
申し訳ありません
「ユエさんなんか私たち場違いじゃないですか?」
「……。」
「そーですか? 」
現在リーニャ、ユエ、シンの三人がいるのは煌びやかな貴族御用達の商店街、クレアールジェミニシティの中心に限りなく近い場所である。
「というかこのまま行っても中央庭園があるだけですよね。 」
「庭園から飛ぶんですよー。」
「あのー私たち飛べないんですが。」
「飛ぶのは問題ありません! 」
「というか庭園って基本立ち入り禁止ですよね。」
クレアールジェミニシティの中心には広大で美しい庭園がある。
とはいえ市民には解放しておらず、たまに名のある商人や貴族が訪れるほかは、庭園を美しく保つ庭師が入っていくだけである。
しかも貴族たちですら許可証を役所で発行して貰わなければ入れないのである。
「問題ありませんよ。」
ユエは自信満々ににっこり笑って胸を張る。
「ぷるんぷるん……。」
「へ? 」
「何でもありません、というか飛んでも何もないですよね。」
「……。」
その言葉にシンも無言で頷く。
中央広場の上を見上げるがリーニャにもシンにもなにも見えなかった。
「私のお家は隠蔽の魔法で隠してあるんですよ。そして飛ぶのは問題ありません! 」
「どういうことですか? 」
「……?」
「行ったら分かります。」
そしてレイユエは庭園の柵を開け、思いっきり空気を吸いこみ叫ぶ。
「じゅーしゃしゃーん!! 」
「噛んでるし! 」
「……うるさい。」
「シンさんがしゃべった!? 」
ぎょっとしたように振り向きユエは瞠目する。
「今頃ですか!? 名前の時に言いましょうよ、それ!」
「そういえば、喋ってましたね。」
のんびりと昔ばなしでもするようにユエはリーニャに同意した。
「というか、名前以外に喋ったのがうるさいってうるさいって。」
「うるせぇばばぁ。」
「やっぱ、この人は衛兵につきだしましょう!」
リーニャはシンにビシッと指を指しながらユエに詰め寄る。
「そんなこといっちゃ駄目ですよ、シンさん。」
無言でそっぽを向いてぼそりと何事かを呟いた。
「なんかいってるんですけど、絶対悪口ですよこれ。」
「まぁまぁ、リーニャさんも落ち着いて。」
「だって、あっ今ざまぁみろってな顔しましたよ、ねぇ。」
リーニャの言うとおりシンの口角はうっすらとあがっている。
「シンさんも悪いですからね。」
「……。」
シンがきゅと眉間にシワを寄せ嫌そうな顔をした瞬間、リーニャとユエの髪が風に吹き上げられ、シンは風に舞い上がりそうになる外套のフードを押さえた。
風がおさまって三人の前に現れたのは輝く漆黒の鱗に濃紺の皮膜そして銀角の、金の瞳に銀の瞳孔を持つ竜と銀の瞳に銀の瞳孔を持つ龍である。
「夜明、日暮、ただいまー。」
「「お帰りなさいませ、コウ様。」」
「リーニャさんもシンさんも竜に乗るの始めてだから魔法でサポートしてあげてね、日暮。」
「仰せのままに。」
ユエの言葉にすっと頭を下げかしずく。。
「夜明は安全飛行ね。」
「御意。」
こちらも同じく頭を下げた。
「じゃあ、いきま……、シンさんどうしました?」
「なんでも…ない。」
ぎりっと鳴るほど歯を噛み締めながらシンが言った。
「ならいいですけど……。」
「あのーユエさん、これに乗るんですか?」
「夜明は飛ぶのが得意なので揺れませんし快適ですよ。」
「そのようなことは……。」
困ったように目を伏せ、また頭をたれるがどこか嬉しそうな表情である。
「いや、逆にそこは否定しないでくださいよ!」
「申し訳ありません。」
頭をたれるというよりうなだれているようである、若干、日暮の顔が笑っているのは一人だけ人間と話せなかったからである。
「んじゃいきましょうか。」
このままだと話が進まないと思ったのかユエが声をかけた。
そして漆黒の竜につけられた細かい装飾のある白の鞍に跨がりシンとリーニャを呼ぶ。
「失礼します。…うぅ予想以上に高い。」
まずはリーニャがレイユエの手を借り鞍鞍によじ登る、が下を見て恐怖を感じたようで体を強張らせた。
「下じゃなくて上を見るといいですよ。」
「上? 」
そろーとリーニャが顔をあげた。
「あぁ、目線が高いからすっごい綺麗です。」
「自慢の庭ですからね!」
「…………。」
「シンさん? 」
「…………。」
首をかしげたあと、一度鞍から降りシンのもとへ向かい手を握る。
「高いところは怖くありませんよ!落ちませんからね。」
とても微妙な顔をしながらもユエに連れられ鞍に跨がった。
「……。」
「ユエさん高いのが怖いとかじゃ無さそうですからね! なんかこう深い訳がある顔ですからぁ! 」
「深い訳ですか? 」
「なんでもない。」
「いやいや、その顔でなんでもないわけないでしょ。」
「だまれ、ばばぁ。」
「また言ったぁ、またばばぁって!」
「だって、ばばぁだろ、所詮。」
むぅーと口を尖らせ、じっと二人を見てレイユエは言った。
「夜明いきますよ。」
「へっ。」
「……。」
空に響くはずの絶叫、そして竜に乗り絶叫している二人と一人気持ち良さそうにする少女は庭園にかけられた魔法にかき消される。
「いやぁあぁ。」
「っう……あぁ。」
「私に捕まっておけば大丈夫ですよー。と言うか下見ちゃ駄目ですよ。」
二人にしがみつかれながらも合図で夜明や日暮に指示を出していたレイユエは心配そうにしつつも苦笑して言う。
「だってぇー!」
「……。」
そう言われて上を向けるなら二人はやっていただろうが二人の視線は下のまま、怖いからこそ見てしまうと言うやつである。
「ほら!」
レイユエの袖からしゅるりと日の光を反射する細い糸のようなものが出てきて二人に巻きつき無理やり顔を上げさせる。
「うわ、なんです!? 」
「っ……。」
リーニャは驚きの声をあげ逃げようとし、シンは全力でもがくユエはそれを封じ込め無理やり上をむけさせた。大分手荒だが肌や服が傷つかないように微調整しているようだ。
「はい!目ぇあけてください、ほら。」
促されて、二人ともそーと目を開く。
目を開けた二人が見たのは空に浮かぶ楽園、魔方陣で覆われ、空には虹が無数にかかり、地には様々な色の花たちが咲きほこっている。
その中心には壮麗な純白の城とそれを守るように聳え立つ漆黒の城壁。
どちらもうっすら虹に輝いていることから全属性の魔石が使われているのだろう。
「うわ、なんです! あの大きな全属性の魔石。」
「浮島の核ですよ。土とか植物がうっすら魔石を覆ってできた島です。」
「いや、でかすぎません!? てかなんで滝が空中にもあるんですかぁ。」
「空中の魔力濃度が高いせいですねぇ。」
「売ったらいくらになるだろうか……。」
浮島の核を見ながら手を口許にあてシンは考え込む。
「固いし削れないと思いますよ、シンさん。」
「ちっ。」
「いや、そういう問題ですか!?てか悪口以外で喋ったのが金の話って!舌打ちやめなさい。」
「うーんでも島中魔力濃度が高いですし、全属性とか特殊属性とか拘らなきゃ、そこらへんに大きいの転がってたりしますよ。」
「魔石が転がってるって……。」
口の端をひきつらせリーニャが呟く。
だって魔石は高いのだ、ものすごく。
「……。」
「いくらユエさんがどうぞって言っても、とっちゃダメですからね!シンさん。」
「……。」
「気にしないんですけど。」
「単価が違いますから、あげちゃダメですからね!ユエさん。」
「まぁ、わかりました。」
「……。」
そんな顔しない!とリーニャが言っているうちに三人と竜と龍は魔方陣の前に来ていた。
「門もすごいです。」
「そうですか? 」
「……。」
「じゃあ、このまま竜でいきましょう。屋敷の玄関までならこのままでいいですから。」
「屋敷? 城じゃなくて。」
「屋敷ですけど? 」
二人とも無言でユエを見つめるがまたユエの頭の上には?が飛んでいる。
前の時より大きいのは周辺の魔力濃度が高いせいだろうか。
──────
「お帰りなさいませ、コウ様。」
屋敷の玄関につくと東西南北ある国の様々な格好をした者達が一斉にそう言った。
「し、使用人ですよね?なんか露出度の高い人もいますけど……。」
「格好は気にしないですし。」
「は、はぁ。」
「……ところでコウ様ってなんだ?」
「へっ? あぁシンさんはユエさんのこと知らなかったですね。」
「……? 」
「コウって言うのはユエさんの苗字、ユエさんは貴族なんですよ。」
「ん? そういえばフルネームで名乗ってなかっですね。私の名前はコウユエです。」
「っ……。」
ぎりっという音がシンから聞こえた。
掌に爪が食い込むほど力を入れて拳を握って何事かを呟く、口だけしか動かしてないようで音はない。
「シンさん? 手から血が出ちゃいますよ。」
「……。」
ユエが手を解こうとシンに触れる前に手錠が填まったままバシッと手をはねのけた。
「へ? 」
「……。」
「なにやってるんですか! シンさん。」
「ばばぁは黙ってろ。」
「だからばばぁじゃないっていってるじゃないですか! 」
「まぁまぁ、リーニャさん。私は気にしてませんから、それよりお腹減ってるでしょう?いきましょう。」
「……はい。」
「……。」
「とっその前に。」
ふわりと風が吹きユエの周りに花弁のような虹色に輝く何かが吹き荒れユエが光に包まれる。
「うぁ、なんです? 」
「っ……。」
そのあとに現れたのは虹色がかった白の鱗に覆われたまぁるい体と小さな皮膜のある羽、金とも銀ともとれる角、そしてつぶらな碧に金縁のついた銀の瞳孔を持つ小さな竜だった。
「えっ何がどうなってるんですり」
「ん? リーニャさんどうしました。」
「うわぁ、竜からユエさんの声がするぅ。」
こてっと首をかしげ? を飛ばしたあとリーニャの顔の前に飛びぺちぺちと頬を叩く。
「竜って肉球あるの! ていうか本当にユエさんなんですね」
「……言ってませんでしたっけ? 」
「言ってません! 」
暫くの間があった後、すっとリーニャから目線をそらす。
「まぁ、とりあえずご飯にしましょう! 」
「……。」
じっと突っ込まずにユエを見つめるが視線はそらされたままである。
そんな妙な空気を打ち破ったのは「帰る……。」と言う言葉だった。
「シンさん、どうしました? 」
「いやいや、帰すわけないでしょ。」
ガシッとシンの腕を掴みリーニャがそう言う。
「放せ、くそばばぁ。俺はかえ……ふぐっ。」
そう言った次の瞬間、ユエがシンの口にふわふわと林檎とバターの香りのするなにかを突っ込んだ。
「……うまい。」
「アップルパイっていうんですよ。他にも美味しいの一杯です。」
「……。」
─ぐぅという音がシンのお腹のあたりからする。
「とりあえずご飯にしましょう! 」
その言葉にシンはうなずくだけで答えた。