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依頼の行方


「うーん、前の犯行の場所から考えてこの辺りでまたやるはずなんですが。」


「うう、もう三時間以上は歩きっぱなしですよ。道がある程度平らでよかったー。」


物取りの事件で人は少なく本来なら増えているはずの魔物も、その元凶である物取りも現れず、もうお昼。


「と・い・う・かぁ! どうして一匹も魔物がいないんですかぁーー! 」


ついにリーニャの不満が爆発した。


「落ち着いてくださいリーニャさん。気持ちはわかりますけど、こういうのは待つしかありませんから。」


ゆったりとしたユエの言葉にむぅと頬を膨らませ反論する間も辺りの確認は怠らない。


「だけど、魔物がいないのはおかしいじゃないですか! 」


「まぁ確かに、骨も毛皮もないのに血の臭いだけするって不気味ですね。」


「えっ、そう言うことは早くいってくださいよ! ユエさん、ちょっと私怖いんですけど。」



「なにか大型の魔物が狩ったというより例の物取りの仕業でしょうね。」


「えっ? 」


吃驚してリーニャが立ち止まる。


「どういうことです?」


「血の臭いに混じって人の臭いがするんです。同じ人ですね。」


ごくっとリーニャの喉がなる、ここら辺にすむ魔物はランクが低いとはいえ数が多く殲滅するにはそれなりの実力が必要なのだ。


「この依頼料金そこそこで良いですねって私たち言ってましたけど、そうなると割りにあわなくないですか?」


「少なくともCランク以上の実力がないと危ないかも。」


「まだ、Eランクなんですけど……私。」


「まぁ何とかなりますよ、頑張りましょう、ね?」


「そうですね。そういえばユエさんのランクって…。」


「リーニャさん、お昼持ってきてますから食べませんか?」


「へ?あぁいただきます。」


「あっちの木陰に…。」



ザッ───。


「リーニャさん物取りです、もうとられてますよ!」


「はぁ!? どういう…って、いたぁ! 」


「いきましょう。」


足で歩くより早いと思ったのかレイユエは魔法で浮き、すでに加速している。


「待ってくださいユエさん! 」



「捕まえますから後から来てください。あっついでに強化しときますね! 」


「ユエさんも物取りも速すぎません!? 人間としておかしい速度なんですけどぉーー。というかなにこれ足が勝手に動くー! 」


「強化魔法です。上手くなれてください。」


「んな、無茶な! 」



魔法を重ねがけして追いかけいるにも関わらず物取りとの距離はあまり縮まらない。


「むぅ、速いのもありますけど木とかをうまく使ってくるから追いつけないですね。」


「んなこと!どうでもいいからユエさんなんとかしてぇ~!」


リーニャは強化魔法に振り回されてうまくついてこれないようだ。


「たぶんこれでいけるはずです。」


「あっ! 動きやすくなりました。」



「じゃあ一気においつきますよ!木々さんごめんなさい。」


その言葉とともに物取りの周りの木々が消失する。


「なに、その魔法!? 」


「……。」


「目をそらさないでください! 」


「それより追い付きましょう! 」


「むう、わかりました。あとで聞きますからね! 」



そう言って一気に加速しようとした刹那。


物取りは派手に土埃を上げこけた。



「なんです! このベタな展開!? 甘い匂いすると思ったらなんか物取りさんケーキ食べてるし。」


「嘘!? 私のケーキ。」


「ユエさんケーキなんて持ってきてたんですか!? 」


「……パーティー組んだお祝いに。」


二人の会話をよそにむぐむぐとハムスターのようにご馳走を食べている。


「なんであなた食べてるんですか!? あっ私のリンゴ。」


「うう、ケーキ買うのに一日並んだのに……。」


「ケーキのために必死ですね!? 」


「従者が……。」


「従者さんなんですね! 可哀想! 」


「あっ、とり…。」


「とりあえず捕まえましょう! って逃げないでください。」


ふわりと物取りの周りで風ふき魔方陣が描かれ物取りの背後にユエが現れる。

そして物取りが振り向く前に手錠をかけた。


「それできるんなら早くしてくださいよ! 」


「座標指定が必要なので止まってくれないと計算できないんです。」


「…なんかごめん。」


「気にしなくて良いですよ。」


「はぁ…。」


「はぁ…。」


「ケーキ……私のケーキ。」


「私のリンゴ……。」


どちらも自分の楽しみにしていたものを物取りに食べられ意気消沈、物取りはマイペースにリンゴを食べている。


「もうつれていきましょうか。」


赤く輝いていた瞳は固まったどす黒い血色に変わっていて怖いなっとユエは思った。


「というかこれどっちが運びましょうか?」


「わ、私が運びますね。」



物取りをお姫さま抱っこするユエだがピタッと動きが止まる。


「……。」


「どうしました?ユエさん。」


「この人痩せてます。」


瞳を潤ませリーニャを見る。微妙に涙声なのは仕方ない。


「へ? あの……。」


「可哀想。」


物取りの姿は刺繍が施された黒の外套に、ぴったりとしたタンクトップのようなものでズボンもところどころ穴が空いており薄汚れている。

外套から覗く銀の髪だけが美しいのが不釣り合いである。


「えーと…。」



「物取りをしたのものお腹が空いていたからなはずです。衛兵につき出すんじゃなくてうちのパーティーで保護しませんか? 」


確かに痩せて黒の外套も埃っぽく汚れているがリンゴをマイペースに食べているところを見て、んな性格じゃないだろうと思いつつもリーニャは物取りに確認する。


「うーん、そうなんですか?物取りさん。」


リンゴを頬張りながらこくこくと頷く物取りをみてリーニャは眉を潜めた。



「ほら、やっぱりそうですよ! 」


リーニャから漂う冷気をものともせずユエはどや顔で胸を張って見せた。


「いや、反省してるか怪しいんですが。」


「お腹が減ってるから食べるのを止めれないんですよ。まぁいきなり食べすぎると、よくないですし後で薬あげなきゃですけど。」


「それでもこの人は物取り!犯罪者ですよ。犯した罪は償わなきゃだめです。」


「でも……。」


悲しそうに伏せた瞳は今にも涙腺が壊れそうである。


「ううっ。」

これって私の心が汚れてるじゃ…とリーニャは思った。

が、あっユエさんがお人好しなだけですわーという答えすぐに出した、だってこの物取り明らかに反省して居ないのである。


「……。」


ガチャガチャと手錠の嵌まった手を動かし物取り地面に何かを書いた。


「ごめんで済むなら衛兵は……。」


─────ぐぅ。


───ぐぐぅ


「だめですか?」

もう、レイユエの涙腺は崩壊し涙は溢れ下に落ちているものもあるくらいである。



「もう!わかりましたよ私の敗けです!保護しましょうその人。」



「ありがとうございます、リーニャさん!」


固く閉じた花が綻ぶようなふにゃりとした幸せそうな笑みを浮かべ、リーニャに笑いかける。


「うぅ、なんか負けた気分。」


一方のリーニャはある意味、味方にも裏切られた状態でむぅ、と口を尖らせる。


「てぇっなに拘束解こうとしてるんですか!」


「だって邪魔じゃないですか、いくらクッション仕込んであっても痛そうですし」


「今、その人の拘束解いたら確実に逃げますから!逃げちゃいますから。というか捕まえるときから、そんな気遣いしてたんですか!? 」


「だって痛いのよくありませんし……。」


「と・に・か・く! 宿かなんか見つけるまで拘束解くのはなしですからね!分かりましたか!ユエさん。」



人差し指と人差し指を合わせてもじもじとでもだってとユエは言うがリーニャは譲らない。

そして物取りはそれをじっと眺める。


「うう、わかりました。というか宿より家に来ませんか? 」



「ユエさんのお家ですか? 」


「はい。リーニャさん誘うつもりだったのでお部屋用意してますし、ひとり増えるくらい変わりません。」



「誘うつもりだったんですね……。」


はぁと一度ため息をつくがただで泊まれるなら良いかと気をとり直す。


「じゃあ、お邪魔しますね。」


「はい、リーニャさん。んじゃいきましょう。」



「はい、……ん? ちょっと待ってください大事なこと忘れてました。」


「なんですか? 」


「名前です名前!物取りさんの名前!聞いてませんでしたよね!!」


「あぁ、そういえば! 」


リーニャがそう言うとユエが手をポンと打ち物取りに問いかける。


「物取りさん名前はなんですか? 」


「…………。」


「……。」

「……。」


ぐっと物取りが外套のフードを深くかぶりなおし「し……。」


「し? なんですか?」

キョトンとユエが問いかける。


「シン……。」


「シンさんっていうんですね、私はユエです。」


「私はリーニャです。」


「じゃあ、今度こそいきましょう。」



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