第6話「救済王と旅人助人」
「さぁ、旅人助人よ!この世界を救ってくれ!!」
カーリアの王は、そう言った。こちらが言葉を考えていると壊れたオルゴールの様にその言葉を繰り返している。ただその言葉を放つ事に違和感を感じる事もなく繰り返し続けている。その言葉を耳にして思考できる者達の事を置き去りにして繰り返す。繰り返す。繰り返す。スケウトの返答をあるまで繰り返す。
大臣達が、雷王蛇が、兵士が、王の変貌に恐怖を感じたのか大臣や貴族の者も椅子から立ち上がり王から距離をとり、王の行動に混乱し畏怖し続けている。彼らは突然現れた侵入者に身構えながらも王の歓迎した者としても対応しなければならない。だが今の王の状態は普通ではないことは誰の目にも明らかであり今後の状況がどうなるかは王が言った旅人助人なるものの返答次第と言う状態であった。
「ふん、まだ茶番狂言を続ける気か?早く出てきたらどうだ?」
「・・・・・お見通しとは」
言葉を繰り返していた王が黙り込み狂った言動を止めた。その直後、王が存在する場所から黒い狼が飛び出してきた。グルルゥ~と喉を鳴らしこちらに顔を向けた。
「旅人助人よ。我の身勝手な言動を御許し願いたい。」
黒い狼は王の横でスケウト達に向かい頭を垂れる。その身体は痩せ細り存在するのは体を支える四足だが震え立っているのも精一杯の様だ。
「この世界の神よ、貴様を許す事はない。」
その言葉が合図だったのか、『カチカチカチッ』と音と共に謁見の間の天井に、突如時計の針が現れ時を刻みながら魔方陣を描いた。
「だい・せい・か~い♪」
時の杖 クリスタル・クロック・アワー が黒い学生帽に黒マントを羽織った姿で魔方陣から現れた。
「まぁ、姫達が神を召喚しているのに私達を召喚した時点で気付けていたでしょうけどね。」
そう言うと、クリスは大臣が座っていた椅子に座り大袈裟に演技をしている様だ。
台本を書いたのが彼女の様な気もするが、あの行動は異常だ。今回の件、以前の彼女の性格は知的に素敵な学者様であり歴史探究者、過去を愛し未来に希望を見る存在だったはず全く何を企んでいるのか知らないが見たくもない狂言を見るのはとても疲れる。早く終わりにしよう。
「答え合わせが終わったなら解説しろクリス」
「なんですの、この喜劇は?」
神と王に目をやり時の杖は語り出した。
「神の終わりは世界の、この星の終わり歴史は終わり未来がなくなる。積み上げた物を壊すのは簡単だけど元に戻す事は出来ない。」
「本の結末を知りたいとは思うけど一番楽しいのは、その過程を知っていく事」
「終わってしまったらそれまで生きていた存在達の意味が無くなってしまう。」
元々の彼女の口調に戻してスケウト達に告げた。神の存在が星の存在と同一と言う事。この星の寿命はもう長くない事。そして時を司る彼女の気持ちを話した。
この話だけを聞けば神に助力してこの世界を救うと言う事になるだろうが世界の為に虐殺暴虐を繰り返して俺を呼び出させた神に何をしろと言うのか、まだ違和感がある。あそこまでの立ち回りをした意味は他にあるのだろう。この時の杖まだ語ってもらう必要がある。
「神に敵意はなく救いを求めているのは分かったがクリスター、総てを知った上で何故遠回りをさせる?」
「無駄な時間だと思いますわ。」
スケウトと空の杖 イエア は平伏しているオオカミの神と王に向けていた眼を二人に向ける。
「壊れた者は、もう戻らないのよ。」
「そう・・スケウトは、もう存在しないのよ。シルバー」
旅人助人スケウト・クロリグは、存在しなかった。
ただの少年、シルバー・ローランズの友達 スケウト・コーリグ は死亡している。
「知っているさ。」
死んだ者に出逢うには同じ場所に行けば逢えるかもしれない。だがそれには確証が無く生けとし生けるものには知る由もないだろう。
「シルバー、貴方を助けたいの。」
時の杖がスケウトに一瞬で近づき多量の魔力を奪い去った。総てを奪えなかったのは自立行動状態の空の杖イエアが空間を捻じ曲げたからだろう。スケウトが気付いた時にはその事柄の結果は現実になっていた。魔力の6割を奪いそれをオオカミの神に注いでいた。元々この世界に来た時点から身体からの魔力流出が止まらず魔法も弱体化していた。循環魔力を魔道具の三種のリングと二種の疑似リングで増幅させて装甲武器・魔人化を行使していたがどうやら限界の様だ。
「フンッ!行動を起こす者とは思っていませんでしたが気が狂いましたか、クリス?」
「終わらせましょう。イエア貴女だってずっと彼を見てきたでしょう旅人助人の終わりなき姿を完結などない物語を」
空間が歪み二人の姿が消え去る。目の前の金色のオオカミとカーリアの者達を残して―