『ミランダ・ビュフベルト』
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「カイト・・・?」
俺の名前はミランダ・ビュフベルト。
帝国で最強の騎士と呼ばれた女性騎士だ。
他の騎士には男であろうと負けたことはない。
しかし、そんな俺にも弱点がある。
それはドラゴン。
俺の故郷を襲った怪物の名前だ。
何も力を持たなかった私は何もできず、ドラゴンの恐ろしさをただ見ている事しか出来なかった。
そのおかげで心に恐怖を植え付けられてしまったんだ。
ドラゴンの姿を見た瞬間、身体が震えて動けなくなってしまうほどに・・・。
俺の両親が実力のある冒険者であったこともあり、なんとか生き延びることが出来たけど故郷は壊滅。俺達は移住を余儀なくされた。
それからは俺はドラゴンの恐怖を取り払う為に血が滲む訓練や修行を行い、帝国一の女性騎士になるほど俺は強くなった。
けど、ドラゴンに勝てる自信だけはどうしても湧いてこない。
いくら鍛えても、いくら強い奴を倒しても勝つイメージを思い描けなかった。
そんなある時、国が召喚した勇者と呼ばれる奴らが現れた。
他の騎士から聞いたが、レベルは1でもかなりのステータスで飲み込みも早く将来が有望な者達ばかりだと。
俺はすぐに勇者達の教官を志願した。
勇者と言えば魔王どころかドラゴンだって倒せる強者だと母親から聞いた絵本の物語にある。
そんな勇者を倒せるほどの実力を身につける事が出来れば俺のトラウマは解消されるのではないかと期待した。
しかし、それは無駄骨だった。
その勇者達は争いのない平和な世界から来た俺と少し下の子供。
ステータスはもちろん俺の方が上だ。
いずれは俺を抜くだろうけど他の奴らと一緒でステータス以上の力を全く発揮する事が出来ないあいつらに負ける気など全く感じなかった。
せっかくの勇者しか持てない【勇者スキル】ってのがあるというのに勿体ない。
宝の持ち腐れとはまさにこのことだ。
それでも勇者達は、日に日に強くなっていき、数週間後には一般の騎士と同じかそれ以上の強さにはなっていった。
特にA級1位やA級3位の奴は戦闘慣れしてきたみたいで上達が軒並み早かった。それでも俺が満足するに至ってはいない。
そんなある日、新しいダンジョンがこの城の近くに発生したらしい。
金や財宝にうるさい国王はすぐダンジョンに勇者達の経験を積ませるためという建前で向かわせる事になった。
念の為、騎士にも同行する事が決まったのだが、どうやら1人の勇者に誰も同行したがらなくお偉いさんが困っていた。
その勇者はC級11位。最下位の落ちこぼれらしい。
A級以外は興味なかったから名前どころか顔も分からない。でも俺はその勇者に同行する事にした。
理由は1人なら自由に暴れられるし、訓練とストレス解消にちょうどいいと思ったからだ。
そして、そのC級11位のカイト・クラキとダンジョンへ入った。俺は俺のやりたいようにダンジョンの奥へと進み魔物を倒していった。
カイトは最初は何やら愚痴ってたが、少し経つと何も言わないようになり、私の攻撃範囲から離れた位置でドロップアイテムを拾いながら付いてきている。
なんかパッとしない奴だなと思ったけど俺の移動速度に付いていく脚力と体力、俺の攻撃範囲を何も聞かずに見きわめる眼力、と中々どうして良いセンスをしていた。
落ちこぼれでもさすがは勇者って事か?
深くは気にせず進んでいったのだが、俺はカイトの本当の実力が分かる出来事が起きる。
うっかり討ち漏らしたゴブリンに俺は頭めがけて突きを放った。
当然ゴブリンの頭が吹き飛び悦に浸っていると俺の剣の下で仰向けになっているカイトがいた。
その時、すぐにカイトが何をしていたのか理解した。
カイトは1秒すらない一瞬の間合いで称賛に価する体捌きで避けたのだ。
だが、偶然の可能性もある。俺は偶然でないことを確かめるべく、もう一度不意討ちに近い形で攻撃をした。
それをカイトは見事に避けたのだ。この時俺は歓喜し、確信した。
カイトなら俺が満足できる戦いをさせてくれるかもしれないと。
その後、カイトに決闘を申し込んだ。決闘に猛反対するカイトだが俺は何となく感じた違和感に気付き、カマをかけてみたら見事に引っかかる。
カイトは密かに補助魔法をかけて戦闘に備えていた。
やっぱり、カイトは筋がいい。何があっても良いようにと保険をかけている。A級の奴らはそういう危機感を察知する能力が乏しすぎる。
あれではいざと言う時に動く事は出来ない。
でも、カイトは違う。奴はベテランのそれに近い。
さらに戦いたくなった俺はカイトに無理矢理にでも戦わせる為、襲い掛かった。
しかし、カイトは逃げの一択で反撃は一度もしてこなかった。
だが、俺から一度も攻撃を喰らわずに逃げ続けられるカイトはやはり普通の勇者とは違う。そもそもなんでこいつは落ちこぼれと呼ばれているんだ?
ステータスが低いから?帝国はそういう数字でしか見れないから救われない。
俺は奥の手、固有スキル【鬼人化】発動しカイトを追い詰める。
そんな不利な状況にも関わらず、カイトは俺に闘わない理由を喋った。
俺が女だからと言った。
その瞬間、俺の沸点は一気に通り越した。
実力主義のこの世界に男女なんて関係ない。それなのに男はいつもそうだ。負けそうになると女だからと言い訳して逃げる。俺はそんな奴が大嫌いなんだ。
・・・今思えば、カイトは決して俺を馬鹿にしていたり、言い訳をしていた訳ではなく、真面目にそう言ってたのだろうと思う。
しかし、その時の俺にはそんな事を考えられる余裕がなかった。
それにカイトと同じ世界から来た奴らも最初は女だからとか言って俺との実戦訓練は乗り気ではなかった。
でも、俺が圧倒して少し罵ったらムキになって本気で俺に斬りかかってきた。
時折、魔法無しと言う条件だったにも関わらず、ばれないよう(ばればれだったが)補助魔法を使ってくる始末。
終わった後は誰一人として俺を女だからと言い訳する奴はいなくなったし、影で俺の悪口を言っているのも知っている。
人間の男は情けなくて軟弱で最低な生き物だ。それは勇者であろうと変わらない、とそう思っていた。
だから、俺は本気でカイトを叩き伏せようと襲いかかった。
それでもカイトを捉えられず、むしゃくしゃしながら追いかけていたら事件が起きた。
俺とカイトはいつの間にかダンジョンボスの部屋に到着していた。
そこまではいい。問題はそのボスが『ドラゴン』だったのだ。
俺は故郷での出来事を思い出してしまう。目の前で大事な友達がドラゴンに食べられてしまう光景を―――
ダンジョンマスターという女が何やらいろいろ言っていたが覚えてない。ドラゴンの恐怖で身体が震えてしまいそれどころではなかったのだ。
次に目にし覚えていた光景はカイトがドラゴンに立ち向かう姿だった。
カイトは俺と戦った時よりも早くドラゴンを翻弄し、ドラゴンの翼膜に穴を開けていく
俺と戦ったときは手を抜いていたのか?とそんな事を思ったが父さんと母さんが口をそろえて言った事を思い出した。
『人は大事な人を守るときステータス以上の力を発揮する事がある』
2人はその力で俺をドラゴンから救い出せたって笑いながら言っていた。子供だった当時は分からなかったが、今ではよく理解していたつもりだった。
俺は、他の奴らがステータスに依存しているように、ドラゴンという存在には勝てないと決めつけていた。
この場にいる誰よりも強いステータスのドラゴンを前に最弱勇者と言われたカイトは果敢に戦いに挑んでいく。そんなカイトの後ろ姿は、俺を守ってくれたあの時の両親と重なり、そして物語の勇者は今のカイトのような人の事を言うのではないかと思った。
それが正解なのかは分からないけど俺はそうであってほしいと願った。
俺はドラゴンに吹き飛ばされて目の前に来たボロボロのカイトに一緒に戦わせて欲しいと頼んだ。
誇りがどうとか言ったがそれは適当な建前で本当は違う。
俺はカイトの隣で戦えばこのトラウマは消えるんじゃないかと思ったんだ。
カイトは心配そうな表情で俺を見たが了承してくれる。
俺はなぜか心が温かくなる感じがした。嬉しかった。
そして、拳を合わせてお互い生きて帰ろうと誓い合う。俺はこの時、心が震えあがっていくのを感じた。
こんな感覚初めてだったが嫌ではなく、むしろ嬉しかった。
そしてドラゴンとの激闘が始まった。
カイトはドラゴンを翻弄し、俺はドラゴンに最強の一撃を放つ準備にかかった。
【鬼人化】でしか発動できない必殺技【紅蓮竜滅光炎刃】を繰り出す。
ドラゴンが俺に気付いた。
しかし、カイトはドラゴンの【暗黒火炎弾】が今にも俺に放たれそうなのに、構わず振り抜けと言った。
最初はやばいと思った。だけどカイトの声を聞いた瞬間、その思いは彼方へと消え去った。俺は迷わずドラゴンへと突っ込んだ。
すると、ドラゴンの顔が爆発した。
どうやらカイトがドラゴンの顎にアッパーを喰らわせて【暗黒火炎弾】を阻止し自爆させたようだ。
ドラゴンは口から煙を出しながらよろめいている。
そんなドラゴンを見て俺は思わず笑ってしまった。
俺を苦しめていたドラゴンがこんな面白い姿をしているんだ。仕方ないよな?
俺は隙だらけのドラゴンに無数の斬撃を喰らわせた。故郷で死んだ皆の分と今日まで苦しまされた俺の怒りを全て乗せて。
ドラゴンは俺の攻撃で苦しみのたうち回る。その時、カイトがドラゴンに巻き込まれそうになった俺を助けてくれたんだが、何故か、お、お姫様抱っこだった。
母さんから勇者の物語で、勇者がお姫様を抱っこして救い出すシーンが描かれていてその絵は密かに憧れていた。
でも、俺の身長は2mを超え、体重だって・・・いやそこはどうでもいい。俺が諦めていた憧れをカイトがまた叶えてくれた。
そんな態勢のままカイトは俺の具合を聞いてきた。その時、俺の顔が熱くなるのを感じた。
しかも、カイトの顔を見ると恥ずかしくて直視出来なくなる。俺、どうしちまったんだ!?
カイトはすぐに俺を降ろしてくれたが何故か少し残念な気持ちになったのは気のせいだと信じたい。
俺は慌てふためく心を落ち着かせる為、死んだドラゴンの元へと向かった。
でも、それは間違いである事に俺は気づくことが出来なかった。
カイトに言われてようやくドラゴンが生きていた事に気付いたのだ。
しかも、ドラゴンのスキル【威嚇】によって俺の動きが封じられてしまう失態。
そして、もう克服したかと思ったトラウマが再発してしまった。
頭が真っ白になった。【暗黒火炎弾】を放とうとするドラゴンが目の前にいるのに俺は何も出来なかった。
そして、俺は強い力で誰かに突き飛ばされた。誰かなんてカイトしかいない。
俺はそう思った瞬間、目に映ったのは【暗黒火炎弾】に飲まれるカイトの姿だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「カイト・・・?」
ミランダの目の前には完全に復活したドラゴンしかいなかった。
カイトを探したくてもドラゴンの威圧にのまれ身動きが取れない。
「ガアアアアアアアアアアッ!!」
「うっ・・・」
ミランダの目から涙が溢れ出す。それが一体何から出た涙なのだろう。
ドラゴンの恐怖か?自身の無力に対する悔しさか?カイトを死なせた後悔からか?それとも全部か?
「カイト・・・カイト・・・」
目の前にいた筈の戦友の名前を繰り返すミランダ。その眼にはもう光がない。
全てに絶望し諦めた目だった。
ドラゴンがその大きな口を開きミランダに狙いを定めた。
「カイト・・・ごめん、今、謝りに行くから・・・」
目を瞑り、そう呟いた瞬間、ドラゴンの口が閉じられた。
「・・・・・・・・・・・・?」
いつまでたっても痛みが襲ってこない。それとも即死でもうに天国に逝ったのかとミランダは考えた。
「ミランダ」
「えっ!?」
強く閉じられていた瞼を思いっきり開くミランダ。
目の前にはドラゴン―――ではなかった。
死んだと思っていた戦友がドラゴンの閉ざそうとしている口を片手と片足で押さえている。
「俺はここにいるのにどっか行こうとすんなよ、バーカ」
「う、うるせえ!!バーカ!バーカ!」
溢れていた涙を拭いながらミランダは言い返すが嬉しさのあまり言葉が回らない。
カイトはそんなミランダを見て安心した表情をするとドラゴンの方を向いた。
「このトカゲ!」
「ガアッ!?」
カイトは押さえていた片手片足に力を込めると、ドラゴンの牙を砕き、皮膚を貫いた。ドラゴンはあまりの痛みに耐え切れず、顔を避難させる。
しかし、カイトは逃がさない。一瞬で逃げた頭の上まで移動して拳を思いっ切り握りしめ振り上げる。
「俺の仲間を、泣かしてんじゃねえ!!」
思いっ切り振り抜いた拳がドラゴンの頭に炸裂。すると、その頭は地面へとめり込んだ。
「トカゲ野郎!最弱勇者の底力を見せてやる!」
カイトの反撃が始まる。
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