『王女様』
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「は、放しなさい!!」
1人の少女が森の真ん中で声を大きくして叫ぶ。しかし、その少女の願いは叶えられる事はない。
少女の腕を掴んで笑みを浮かぶ男はじろじろと少女の身体を舐めるように見ている。
そんな男に少女は身体が寒気で震えた。
「御頭。そのガキをどうするんですかい?確か話じゃあ魔物に襲わせるんすよね?」
数十人はいるだろう男の手下の1人がそう聞くと、御頭と呼ばれた男が応える。
「その通りだ。でもな、それは今すぐにと言われたわけじゃねえ。俺達がこのガキと少し楽しんだ後でも文句は言われねえさ」
「っ!わ、私が誰か知っての狼藉ですか!私はアドバンス王国の第一王女『クリスティーナ・アドバンス』。その私にこのような事をしてただで済むと思っているのですか!!」
御頭に厭らしい目線で見られた少女。クリスティーナは声を大きく上げて威嚇する。
「おお、おお、怖い、怖い。勿論、知ってるぜ?だからこうして襲ったんだからな」
「それにしても最近の王国騎士様達は弱いっすね?あっと言う間に全滅っすよ?」
全く動じない御頭にクリスティーナの表情が悔しさで歪んでいく。ハイナーエに襲われて騎士達は分断。
人数がどんどん減ってしまって疲労がピークになった時からの盗賊の襲撃。
流石の騎士達も不利な状態、状況で抵抗できずに全滅してしまったのだ。
そこまで、頭の中で思い返したクリスティーナはある事に気付いた。
「もしかして、さっきのハイナーエの群れは貴方達が・・・」
「大正解だぜ、王女様。流石の俺達も閃光聖騎士が相手じゃ分が悪い。だから『ある御方』からハイナーエの群れを頂いたのさ」
クリスティーナは御頭のある言葉が気になった。
「『ある御方』?それは一体誰なのです?」
「おっと、喋りすぎたようだ。お前ら!騎士達の装備をとっとと剥いでアジトに戻んぞ!楽しみはその後だ!!」
御頭に「おう!!」と返した手下達は殺された騎士達の元へと向かいだす。
クリスティーナはさっきから逃げようと考えているが身体に力が入らない。彼女は盗賊の恐怖によって身体の自由がきかなくなっているのだ。
「アリス・・・助けて、アリス・・・」
目を閉じて自分を逃がす為に殿を務めたアリスの名前を呼ぶクリスティーナ。その目からは涙が溢れ出す。
「ん?なんか聞こえる・・・?」
「・・・え?」
御頭がそんな事を呟いて辺りを見回す。クリスティーナにも段々と大きくなってくる何かの音が聞こえた。
その音はまるで、全ての木々を薙ぎ払って進んでくる台風のような、そんな荒々しい音―――
「「「ぎゃあああああ!!??」」」
その音が一番大きく感じた時だった。複数の男の悲鳴が響き渡る。
見てみると直径3mはある丸太が手下たちを轢いていた。
「貴様ら盗賊だな?」
「えっ―――ぎゃあっ!?」
「アリ―――ス?」
聞き慣れた声が聞こえたと同時に手下の1人が斬り伏せられる。
その太刀筋は間違いなくアドバンス王国一の騎士で、『聖騎士』と言う二つ名を持ったクリスティーナの親友アリス・マルティグラス―――
「ひ、姫、さま。お、おま、たせ、しま、した―――うおえっ!?」
―――なのだが、見間違いかとクリスティーナは思ってしまう。
何故ならば、彼女は剣を杖代わりにし、腰がまるでお婆ちゃんのように曲げ、ぷるぷると身体を震わせている。
しかも、片手で口を押えて何かを我慢している様子。
さっきまでの紹介文が信じられない姿にさすがのクリスティーナも唖然とせざる負えない。
「ああ・・・マジで死ぬかと思った・・・」
「えっ!?」
丸太からクリスティーナの知らない女性ミランダが這い出て地面に寝転んだ。
クリスティーナは普段なら彼女の巨大な身体で驚いていた筈だが、それ以上に登場の仕方に驚いていた。
2人はこの時、同じ考えをしていた。足に地面が着くって素晴らしい、と。
「な、なんなんだ?お、お前ら!早くその意味わかんない奴らを殺せ!」
「うるさい!!」
「「「ぎゃあああああああ!?」」」
一斉に襲い掛かった手下たちだったがミランダの【竜斬炎刃】で一掃されてしまう。
「なっ!?手下たちが一瞬で・・・!?」
「なんだこいつら―――ううっ!?」
ミランダは【竜斬炎刃】を手放し両手で口を覆う。
「だ、大丈夫、か?」
「お、お前も、な」
圧倒しているのに何故か頼りなく感じてしまうクリスティーナ。御頭も何が何だが分からず唖然としている。
「はっ!?お、おいお前ら!変な事はすんじゃねえぞ?王女の命がどうなっても知らねえぞ!」
「きゃっ!?」
「姫様!?うえっ・・・」
「なんかよく分からないけど、卑怯だぞ!おえっ、気持ち悪い・・・」
「えええっ・・・」
2人は揃って口を押えて何かを我慢している。そんな光景にクリスティーナは色々と覚悟を決めつつあった。
「ミランダ!アリス!無事か!?」
そんな時にカイト登場。
カイトはクリスティーナと御頭を無視して2人の元へ駆け寄った。
「「・・・・・・・・」」
「・・・どうやら大丈夫そうだな。ごめんごめんご!ちょっと泥濘に足が埋まっちまって思わず投げちった。許してちょ」
その言葉でミランダとアリスの何かがブチ切れた。
「「許すかあああああああああああああ!!」」
「ぐはっ!!??」
「「ええっ!?」」
ミランダとアリスは立ち上がるとカイトの顔面目掛けて拳を放った。いきなりの事でカイトは避けられず2人の拳が顔にめり込んで殴り飛ばれる。
カイトは驚くクリスティーナと御頭の方へ殴り飛ばされ、そのまま突っ込んで2人を巻き込むのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「痛たたた・・・」
ミランダとアリスに殴られた顔を手で押さえる俺。確かに俺が10割で悪いんだけど殴る必要はないと思うんだ。
2人からしたら安全器具のないジェットコースターに乗ったようなものだけど、いい経験出来たから良くない?
・・・すみません、良くないですね。でも今回は仕方ないと言えば仕方ないか
「・・・だ、大丈夫ですか?」
殴られた顔面を押さえながら考え込んでいる俺に心配された感じで話しかける声。俺はその場所を見てみるとそこには銀髪で目が透き通った海のような色をした少女。
なんでこの子は俺の隣にいるのだろう?
「あ、あの・・・?」
「あ、うん!俺は大丈夫だよ!怪我はないし!」
「ほ、本当です。アリスに思いっ切り殴られたのに鼻血が一滴も出てないです」
HPが1で、全ダメージ無効だからです。でも何故か痛覚はあるんだよな・・・。すぐに治まるからいいけど・・・
「ところで君は?俺はカイトって名前なんだけど」
「わ、私はクリスティーナ・アドバンスです」
クリスティーナちゃんか。見た目通り可愛らしい名前だ。それにどこかで聞いたことがあるような名前だ
「あの、それよりも下・・・」
「ん?うおっ!?」
クリスティーナちゃんが視線を下に向けたので俺も同じように向いたら、なんか禿のおっさんが鼻血を噴き出して倒れてた。
俺は飛び跳ねるようにその場から移動した。
「えっと、この人、クリスティーナちゃんの知り合い?」
「『ちゃん』・・・」
「えっ?」
「い、いえ、なんでもないです!その人は私を攫おうとしていた盗賊の御頭です」
何故か少し顔を赤くしているクリスティーナちゃん。つか、こいつ盗賊かよ!!
「おーい!アリス!こいつ盗賊でクリスティーナちゃんを攫おうとしてたらしいぞ!」
「なっ!?」
乗り物酔い?から回復したアリスが俺達の元へ駆け寄って―――
「この無礼者!!」
「がはっ!?」
「カイト様!?」
座っていた俺を蹴り上げるアリス。かなり痛いんですけど!?
「この御方はアドバンス王国の第一王女のクリスティーナ・アドバンス様だぞ!『ちゃん』付けで呼んでいい御方ではない!そして、私の事を『アリス』と呼ぶな!!」
なんか最後の方が力強く感じたけどそれはいいとして、この少女が王女様?
確かに可愛いと思ったけど、こんな子だったとは!
「でも、殴る必要はないと思うんだけどアリス!」
「だから、アリスと呼ぶなと言っているだろ!!」
今度は蹴られなかったが頭をはたかれる。そんなに嫌なのか?
「止めるのです、アリス!この人は私たちの命の恩人なのです。暴力はいけません!」
「うっ、も、申し訳ありません・・・」
クリスティーナちゃんに怒られて落ち込むアリス。クリスティーナちゃんがアリスを叱る姿はどことなく王女としての威厳を感じられた。
「カイト様。大丈夫ですか?アリスが失礼な事を」
「あ、はい。大丈夫、で、あります?」
「ふふふ、カイト様。無理に丁寧に話さなくても宜しいんですよ?私は全く気に致しませんので」
俺のぎこちない敬語に微笑みながらそういうクリスティーナちゃん。これが王女の余裕って奴か?
「そう言ってもらえると助かるよ。ついでに『クリスティーナちゃん』って呼ぶの大変だから『クリスちゃん』って呼んでいい?」
「お、お前!王女である姫様にそんな―――」
「全然構いません」
「姫様!?」
クリスちゃんは本当に話が分かる良い子だわ。アリスの反応も面白い。
「私、そういう風に愛称で呼ばれるのに憧れてたんです!是非その呼び方でお願い致します!」
「了解!でもアリスが『クリスちゃん』は嫌だっていうから『クリさん』で!」
「はい!大丈夫です!」
「カイト!いや、カイト様!お願いしますからその愛称だけは止めてください!『クリスちゃん』で良いですから!!」
アリスの必死な懇願によりクリスティーナ王女の愛称は『クリスちゃん』に決定した。
「それで、こいつらがハイナーエの群れでアリスとクリスちゃんを分断させ襲い掛かってきた盗賊って訳か?」
「はい・・・。盗賊の御頭がそう言っていたので間違いないと思います」
俺達はまだ生きていた騎士を治療し、盗賊は全員捕まえた。そしてこの出来事を振り返ってみていた。
「その首謀者があの盗賊たちから聞き出せれば良いんだけど・・・」
「大丈夫です!アドバンス王国には世界一の拷問のプロがいますので!」
「そんなプロがいるの?」
「はい!その拷問を受ければ、豪快な斧を振るう戦士だった人が繊細な時計屋さんになったり、寡黙な魔術師が饒舌なピエロになっています!」
それって、拷問ではなく洗脳では!?怖くてどんな拷問内容なのか聞けないよ!
「そんな奴がいるなら大丈夫だろ?それで俺達はこのままクリス様の護衛を続ければいいのか?」
腕を組みながらミランダはアリスに訪ねる。俺みたいにちゃん付けでは呼ばないみたい。
「ああ。宜しく頼む。ここから城まですぐだ。急ごう」
「そうですね。追手があるかもしれませんから」
「それじゃあ、俺が運ぶ―――」
「「それはダメだ!!」」
全力で止められた。
数時間後、俺達はアドバンス王国の城へと到着した。
怪我した騎士はすぐに搬送され、盗賊たちは騎士達に連れてかれた。
俺とミランダはというと城門の前で待機している。
最初にこの城を見て思った感想はデカい!だった。
俺が召喚されたスペイーダ帝国も城は大きかったが、それ以上にデカい。地球で例えるならスカイツリーと東京タワーくらいの差がある。
「凄いな・・・あの天辺に登ってみたい!」
「登ってどうすんだよ・・・」
俺の言葉に呆れているミランダ。登ってどうするかって、とりあえず天辺にある旗を学校の校章に変えるとか?
「本当にふざけた男だな、お前は」
「アリス」
「だから、アリスと呼ぶなと言っているだろ!・・・たく、なんでお前みたいな奴をクリスティーナ様は気に入ったんだ・・・」
ぶつぶつと小言を呟くアリス。逆になんでそこまでアリスと呼ばれるのが嫌なんだろう?
「まあいい。今回は護衛をしてくれて感謝する。カイト、ミランダ。2人はこれからどうするんだ?」
「俺達はこのまま城下町の冒険者ギルドに登録して金を稼ごうと思ってるよ」
これはミランダと一緒に決めた事。生きて行く為にはやっぱりお金が必要な訳で、稼ぐには冒険者ギルドの依頼を受けるのが手っ取り早いらしい
「そうか。ではまた会う機会がありそうだ。冒険者ギルドには王様からの依頼も入ったりするからな」
やっぱりそうなんだ。でも王様からの依頼があるとなると、王女様から、クリスちゃんからの依頼もあるって事だよな?それならまた2人に会える
「今回の護衛の報酬は、冒険者ギルドに登録後支払おう。それでいいか?」
「もちろん。そうだ!一つ聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「なんでアリスって呼ばれるのが嫌なんだ?」
「・・・お前はなんの突拍子もなく、関係のない質問をしてくるな」
ミランダと同じように呆れた顔で俺を見るアリス。それでも答えてくれるみたいで溜息を吐いて話し出した
「『アリス』って名前は可愛らしいだろ?私みたいな騎士団長を務めるような女に相応しくないからだ」
「ん?・・・んん?どういう事?」
「つまり騎士団長という男らしい役職に就く自分が女らしい名前は似合わないって事だろ?」
ああ、そういう事?
「何言ってるのさ、アリス!アリスはとっても可愛らしい女の子だよ!」
「なっ!?」
「こいつは・・・」
顔を真っ赤にするアリスと溜息を吐くミランダ。あれ?俺、またなんかやった?
「私が可愛らしい?クリスティーナ様にも言われた事はあるが・・・あの御方はお優しいからそう言ってくれたからであるし・・・」
「ああやってぶつぶつ言ってる姿も可愛いし、大慌てした時のアリスも可愛かったよな」
「それは確かに」
俺の言葉にミランダも賛同する。アリスの顔はさらに真っ赤になった。
「ば、バカを言うな!お前達、私をからかっているな!!」
「そんなつもりはない。実際に可愛い!なっ、ミランダ!」
「おう!アリスは可愛い!」
「「アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!アリスは可愛い!」」
「う、ううううがああああああああっ!!」
あ。アリスが壊れた
「貴様らあああああ!これ以上ふざけると牢屋にぶち込むぞおおおおおお!!」
「やべっ、逃げんぞカイト!」
「おう!じゃあ、アリス!またな!!」
俺とミランダは怒るアリスと城を背にして走り出した。振り返ってみれば城門でやれやれといった感じで少し微笑んでいるアリスと城の真ん中辺りのテラスで俺達に手を振るクリスちゃん。
俺はそんな2人に手を振りながら次の目的地である冒険者ギルドへとその足を進めるのであった。
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