6-41 剣祇祭 おまけ 終
しばしの無言。雲雀が乱暴に髪をかきむしる。
「……んで、お前はどう見てるんだよ」
「はっきり言うとね、この『機械』と『超能力者の出現』、そして君の元にいる『稲峰六之介』、これらは間違いなく全て繋がっていると考えている。君からの報告では、稲峰君は二年前にこちらの世界に来たそうだね」
「ああ、そうらしい」
「同じなんだ」
「あん?」
「『機械』は魔力を持たない物質で出来ているんだけど、表面部分のみ魔力が見られた。これはしばらくの間、魔力のある場所に晒されていたためと考えられる。そしてその蓄積された量と大気魔力量から計算すると、二年と半年ほどになる。これは『稲峰六之介』がこちらに来てから『機械』の発見に至るまで時間とほぼ等しい」
「つまり、『機械』と六之介は一緒に来たってことか」
「うん、まず間違いなくね。そしてそれと同時に、君とすずちゃんの報告からすると『超能力を与える超能力者』も来ており、彼女と仮定しようか、彼女は魔導機関ではなく『此世』に所属している。そこで脅迫されているのか、あるいはこの世界での生活の保障と言う等価交換か、いずれにせよ、超能力者を増やしている」
窓の外の景色が変わり始める。民家が増え始め、人の姿もちらほらと見られる。
「『機械』は回収されてるのか?」
「もちろん、八坂にあるよ」
「なら一旦、行かせるしかねえな。それが何なのか、どうやってこちらに来たのか、明らかにせにゃなるまい……お前、わざわざこの話をしに来たのか」
「うん、そだよ?」
「電話で良くねえ?」
確かに重要な話ではある。しかし、わざわざ八坂からご足労をかける用件であるだろうか。個人の電話はいまだ普及していないが、魔導官署のものを用いれば連絡を取ることは可能である。
「いや、そうでもないんだよね。なんせ魔導官の中に『此世』との内通者がいるからね」
「は?」
「内通者がね、いるんだよ。三人……あ、もう一人かな」
あっけらかんと言ってのける。珍しく雲雀が驚愕の顔を浮かべる。
「分かってるなら、しょっぴけよ」
「駄目に決まってるでしょ。泳がせなきゃ」
「なんでだ?」
「向こうはね、自分たちが情報戦で上位に立っていると思ってるわけ。だから魔導機関との抗争で常に有利だと思い込んでいる。浮足立っていると言ってもいい。でもこちらからすればそれはすこぶる有利なの。なんせ嘘の情報を流せば簡単に操れるってことだからね」
「そんなもんなのか?」
「もちろん」
確固たる自信が感じられる。
「まあいいや。とりあえず内通者の件は任せる。そういう面倒なことは願い下げだ」
「あいよ。ただ、僕も全員は把握してないんだよねえ。情報の流出と『此世』の動きからすると、もう一人がいるのは間違いないんだけどなあ」
「とっとと見つけろよ。書類眺めてるだけだろ、仕事の大半」
「あのねえ、事務仕事って大変なんだよ! 質は勿論だけど、量が半端じゃないの! 一日何百枚の書類に印を押してると思ってるんだ!」
「お前が改革して作り変えたんだろ?」
「そうだけど! そうだけどさあ……」
大きなため息をつく。ため息で幸せが逃げるというのが本当であるならば、今の一呼吸で搾りかすのようになってしまったであろうと思わせるほど深いため息だった。
「お、着いたか」
白矢木唯一の駅が姿を現す。木造二階建ての小さな建物で、機関車の往来も一日に片手で数えられるほどしかない。しかし、これでも以前よりは増えている。
「亜矢人はどうするんだ、鉄道で帰るのか?」
「いや、生憎お仕事でして。潮来で会議がね」
白矢木から潮来となると陸路より海路の方が早い。理想を言うならば飛行機を用いたいが、遺物の保存状態を考慮すると多用は控えたい。
「ふーん、じゃ、適当に頑張れや。あと、送迎ありがとな」
「へえ、君の口から感謝の言葉が出るなんて……嵐が来るかな」
「おう、潮来は島だろ? 嵐を呼べばお前が苦しむだろ? だから口にしたんだよ」
「…………ひどい」
積み荷を降ろし、ひょいと担ぐ。車が軋むほどの重量が嘘であるかのような軽やかさだった。
「ひばりん、また近いうちにね」
「おう」
別れを惜しむ様子はない。雑に後ろ手で手を振り、そのまま駅の中に消えていく。道行く人たちよりも頭二つ分はあろう巨躯を見送りながら、亜矢人は笑みを浮かべる。
相も変わらず、口も性格も態度も悪い。いつも雑な扱いをされ、からかわれる。傍から見れば不敬などという言葉では片付かないだろう。だがそれでいいのだ。魔導官学校時代を共にした友人である彼は、気の置けない相手である。向こうもそう思ってくれていると、こちらの異能を使わずとも伝わってくる。
「さてと、彼はやることをやったんだし、僕も頑張りますかね」
英気は充分に養えた。自分の為すべきことを為そう。
余談ではあるが、亜矢人が潮来に到着した直後、巨大な台風が発生した。近年まれに見る大きさのそれは、潮来のみを狙いすました様に通過し、彼におよそ一週間に及ぶ滞在を余儀なくした。その間、魔導機関総司令部では書類の山が出来上がっていた。ようやく魔導機関総司令部本署にたどり着いた亜矢人は、文字通り寝る間もないまま地獄を見たという。




