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6-25 剣祇祭

「……使ってるな」


 魔力の上昇を感じ取る。

 華也に渡したものは、自身を始めとする『降臨者』が装着を義務付けられる拘束具である。降臨者の魔力量は超膨大であり、その量は一般的な人間の数千から数万倍であるとも言われている。その量が故に、肉体に大きな影響を及ぼすことが懸念され、それを避けるため、魔導機関の研究開発部が全力をとして開発したのが『封魔錠』であった。


 あれには唯鈴の魔力が封じられている。まだ限度まで納まってはいないが、それでも常人の手に負えないほどの量であり、魔力の扱いに慣れた魔導官であっても苦労するだろう。しかし、今は華也を信じるしかなかった。


 唯鈴は、燈の隣に立ち尽くしていた。そこで目を瞑り、神経をとがらせている。何もしていないようにも見えるが、違う。彼女の周りには、目視不可能な程の極細の糸が伸びていた。これは形成の魔導によって創られたものである。それを周囲十数メール、格子状に張り巡らせている。糸と言っても柔軟性は皆無であり、物質に触れればその繊細さからすぐに切れてしまう。それも折った本人すら気が付かないほど無抵抗にである。

 唯鈴は、糸が切れる際に生じる振動から敵がどこにいるのかを探知していた。そして、六之介達が攻撃を受けそうになれば遠距離より盾を形成していたのである。


 『鉄壁の降臨者』、涼風唯鈴。その名の由来は、彼女が形成魔導に特化している為である。先ほどの黒い半球、あれこそが鉄壁たる所以。形成魔導とは、自身の魔力を固形として実体化し、押し固めるものである。多くは盾、足場、時に武器として用いられる。修練を積み、極めることが出来れば精密な銃器のようなものですら作ることが出来るといい、この魔導を多用する魔導官は精密さに重点を置く。


 一方で、唯鈴が極めたのはその形成速度と硬度であった。

 魔導官となる為の実技試験における形成の項目は、四方一メートル、厚み二センチの壁を作るというものである。合格にはこれを五秒で成し遂げることが要求される。これは実技試験中でも最難関とされ、三秒で完成させることができれば、超一流といわれる。

 唯鈴は、これと全く同じものをコンマ一秒未満で形成することができた。六之介と華也を守ることが出来たのもその速さが故である。人間の反射速度はコンマ二からコンマ三と言われており、それよりも速いというのだから、もはや人外の領域である。


 もう一つは硬度である。彼女が全力で形成したものは、黒い。本来の形成魔導は緑であるのだから異質と言える。だが、これは特異な魔導というわけでも異能というわけでもない。本来、形成魔導によって創られるもの――形成物質――は無色透明であるが、内部にある効子と魔力が反応し緑の光が生じ、形成物質を透過する。それによって緑に見える。唯鈴の魔導も同様であり、緑の光は存在している。ただ、彼女の場合、その光がほぼ漏れていないのだ。つまり、光でさえ遮るほどの高密度の形成物質を生み出しているということになる。

 その硬度は、絶対的である。斬ろうが、叩こうが、爆撃しようが傷一つつかない。文字通り、びくともしない。


 最速で、最硬の盾を生み出す。故に彼女は『鉄壁の降臨者』であるのだ。


「……きた」


 張り巡らされた針が折れる。敵は唯鈴から攻撃することに決めたようである。

 不敵に笑う。


 形成していた針が数本が折れる。その微細な振動から、敵の動きを読み取る。


 ――――構えた。


 方向と距離を把握。防壁を形成。

 

 矢が放たれ、風となる。人体を傷付けるのには十分すぎる威力を持ち、精度の低い壁であれ貫通されることもあり得る程の威力だ。しかし、相手が悪い。鉄製の鏃が壁にぶつかり、弾かれる。黒化するほどの密度ではないが、その硬度たるや、やはり常軌を逸する。響き渡る金属音。


 間髪を置かずに、射られる。が、歯牙にもかけない。どこからくるか分かれば、怖くなどない。


「……もっと全力でかかってきなよ、『お二人さん』」


 敵の動きが止まる。動揺かそれとも連携の前振りか。

 足跡が二つあったと六之介から聞いていた。彼は片方が攻撃、もう片方は扶桑の見張りではないかと推察していたが、どちらも攻撃であった。


 通信機が振動した。敵のいる場所に意識を向けながら通話する。


「どうしたの?」


「瑛良から連絡がありました。一班の場所には姫殿下は発見できなかったそうです」


 ならば扶桑のいる場所はこちらと考えられる。


「それと、さきほどより精密な探査をしました。それによると、姫殿下は高い場所にいるようです」


「高い場所?」


 この工場は平屋である。二階などは存在しない。

 見たところ、宙づりになっている風でもない。ということは。


「……屋上?」


「はい、そうかと」


 探しても見つからなかったわけである。


「佐奈、よくやったわ」


「ありがとうございます。では、通信終わります」


 必要な情報のみを告げる。こちらが戦闘中であると、分かっていたのだろう。

 優秀な娘である。あとはもう少し自信を持ってくれれば良いのだが。


「ま、それは経験を積ませていくとしますか」


 矢が二方向から放たれる。どうやら近接攻撃につとめていた方も、攻撃手段を切り替えたらしい。唯鈴の周囲を回りながら、互いに装填する間を埋める様に攻撃してくる。並大抵の魔導官が相手であれば、文字通り、手も足も出なかっただろう。動きにぎこちなさはあるものの、戦略は考えられている。素人のものではない。おそらくは、裏に組織があり、命令を受けている。

 左翼団体と反魔力団体が手を組んだとは聞いていた。どちらも暴力的かつ反社会的存在であり、手を組むことは十分に考えられる。今回の件は、この存在が根幹にあると唯鈴は見ている。根拠はない。ただの勘だ。だが、確信がある。そして、自信もある。


 今必要なのは、敵について知ることだ。ここにいる敵を殺めることは容易いが、それでは意味がない。捉える必要がある。




「なんだ?」

 

 栓に全体重をかけ、締める。ぎしりという音。これで排水管の中を流れる水が外に排出されることはなくなった。 

 確認しうる最後の栓を締めていた時に偶然触れた配管が熱を帯びていた。元々、この気候の影響を受け生暖かったが、明らかに違う。明らかに熱くなっている。配管内を流れているのは水である。ここまで温度を上げるのは何か人為的なものが必要であるはずだ。

 思い浮かぶものは、一つ。鏡美華也である。

 彼女の異能であれば、可能かもしれない。しかしこれほどの水量となれば話は別である。水量にして、数トンはあるだろう。これほどの質量の温度上昇など、彼女の魔力量で可能なのだろうか。

 

「いい予感は、しないな」


 彼女は良くも悪くも、お人好しで頑張り屋だ。今回の事件を解決するために、無理をすることは十分に考えられる。

 急いで合流した方がよさそうである。瞬間移動をしようと構える。が、ここで一つの大きな弱点が浮上する。


「……暗い」


 六之介の瞬間移動は、いくつかの条件が必要である。まずは目視可能範囲であること、次に移動先に十分な空間があることである。


 瞬間移動には三つの種類がある。


 一つ目は対象を高速で移動させるというもの。これは引力と斥力を操ることで生じる。瞬間移動系において最も発現しやすく、応用力に富んでいる。デメリットとしては、移動経路に障害物がある場合、衝突してしまうという点である。ただし、これを利用して攻撃することも可能であるため、一概にデメリットとは言えない。また、これは瞬間移動系の能力ではなく、慣性制御系の能力であるともとれる。


 二つ目は対象を転移させるものだ。これは移動経路の障害物の有無に関係なく、対象を自在に移動させることが出来る、応用力は高く、攻撃にも防御にも回避にも使える。こちらのデメリットは対象の選別が非常に困難ということである。例えを言うならば、ここに飛行機の模型がある。これの翼のみを移動させる、ということが出来ないのだ。対象の大小に関係なく、それ自体を動かしてしまう。大したことがないと思えるかもしれないが、戦闘においてはそうではない。接敵し、武装のみを奪うということが出来ない。


 三つめは、二つ目を類似しているが、やや異なり、これは空間同士を入れ替えるというものだ。発現は稀少であり、ほぼ存在しない。二つ目の上位互換であり、デメリットであった対象の選別も可能である。これは互いの空間を認識し、取り換えることで生じるため、不要な部分を除くということが出来る。空間の入れ替えであるため、障害物の有無も関係がない。その上、空間はそこにある物体そのものであり、生物、無生物の隔たりはない。対象の空間に生物がおり、その一部を空間として選別し、移動させる。結果、生物の一部を抉り取るということも可能なのである。強力無比、防御不可能の攻撃だ。しかし、当然デメリットもある。一つ目は、対象の空間を目視しなくてはならないこと。もう一つは動きである。微細な動きであれば問題ないのだが、対象の空間内で大きな動きがあると、転移にずれが生じてしまう。それによって自身を巻き込んでしまうこともあり得るのである、強力だが、その分、精密といえる。


 六之介の能力は、この三つ目にあたり、自身の能力について理解している。

 夜間戦闘がすこぶる苦手なのだ。前の世界では暗視ゴーグルを装備することで対応していたが、そんなものはここにはない。誤って、無造作に転がっている資材の中に移動しようものなら窒息することもあり得る。加え、華也や唯鈴を巻き込む恐れもある。


 これでは、使えない。


 舌打ちをしながら駆け出す。幸い、燈の明かりで唯鈴がどこにいるのかは分かる。

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