6-9 剣祇祭
「さて、では『剣祇祭』における我々の行動を説明します」
実里が片手の資料を声高らかに読み上げる。耳障りの良い澄んだ声である。
「明日の七月二十一日から二十三日までの三日間、姫殿下はお忍びで祭りをお楽しみになることになっています。これを知るのは、ここにいる我々と魔導機関総司令部の一部のみです。他言はしないようにしてください」
小首を傾げた五樹が挙手し、問う。
「質問です。今更ではありますが何故秘密にするんですか? 公表してより厳重な警護をつけた方が良いのでは……」
警察や彼女らだけではない他の親衛隊を着けた方が安全ではないかという考えだった。
「我々もそれを推奨したのですが、姫殿下の意思を尊重しました」
「意思、ですか」
「ええ。『公の場に妾が出向いては、祭りを楽しめなくなるだろう』と」
「民衆を気遣ってのこと、ですか」
感銘を受けたように頷く仄だが、実里は眉を寄せながら首を横に振る。
「違います。先ほどのお言葉の『楽しめなくなる』は民衆のことではありません」
「?」
「……姫殿下ご自身が、です」
「…………ああ、なるほど」
仄も風の噂では聞いていたことだ。姫殿下、扶桑第二皇女は相当なやんちゃ且つ気ままである、というものだ。しかし、民衆が目にする皇族は、どこまでも高貴で尊い存在である。その立ち振る舞いは優雅で清廉なものであり、噂とはまるで合致しない。おそらくは、元気の有り余る幼少な姫殿下の素行から尾びれのついたものだろうと考えていた。しかし、彼女らの顔を見ていれば分かる。
「扶桑姫は、大変……その、溌剌と申しますか」
こめかみを抑えている。苦労している様子がありありと目に浮かぶ。視線を向けると、他の親衛隊員もまた乾いた笑い声を零している。
「なんというか、その……お疲れ様です」
察した五樹の言葉に、実里は小さく謝意を示す。
「さて、それともう一つ、公にしたくない理由があります」
「暗殺か」
雲雀である。実里が重々しく頷く。
「その通りです。所謂、天皇制を反対する左翼団体が何らかの動きをする可能性が示唆されるというのが大きいです」
左翼団体、彼らの主張は市民は平等であり、階級や階層は無く、個人は自由である、というもの。皇家という存在を特別視することを良しとしていない。
「彼らの主張を悪だと言うつもりはありませんが、皇家に危害を加えさせるわけにはいきません。暴力的な手段に出るのならば、全力で妨ぎます」
そのための皇家直属魔導親衛隊である。
「話がそれましたね。以上の理由から、今回はお忍びという形になり、姫殿下は一般人あるいは貴族の娘ということで剣祇祭に参加することになります。その際、我々のうち二人が組となり姫殿下に付き添う形をとります」
「二人一組というと、魔導官と親衛隊から一人ずつ、ということか?」
「はい。魔導官の皆さんは街の見回りも並行して行っていただければと思います。よろしいでしょうか」
皆の顔を見ながら、実里が確認する。反対する理由は無かった。




