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第五ノ十四話 精彩に翔ぶ

「さて、どうしたものか」


 洞窟の中で考え込む。今六之介たちは閉じ込められた形になる。この宮島の形状については、敵の方がよく分かっているだろう。出口が二つあることなど把握していると考えるのが自然だ。

 敵は少なく見積もっても、行方不明とならなかった漁師の数、十人以上だろう。しかも相手に地の利があり、銃器まで有している。瞬間移動の能力で逃げるという手もあるが、複数人の移動には溜めが必要だ。その隙に攻撃される可能性は十分にあり、加え、住良木村に戻ったとしても更なる数の敵と遭遇することもあり得る。遭遇せずに、四人の魔導官と一人の幼女で逃げることになっても、これだけの人数の瞬間移動は六之介の技能では不可能である。応援が来るまでどこかに隠れるという手も現実的ではない。


 つまりは戦わなければならないのだ。


 美緒は、あの後感情が爆発、そのまま泣き崩れて、眠りについている。華也は彼女を抱きしめたまま優しく頭を撫でている。 


「華也ちゃん、敵は何人いた?」


「目視できたのは二人です。まだ数人はいるかと」


「ふむ」


 全員が銃器を有していると考えべきだろう。


「華也ちゃん、自分が外に出るから、撃たれないよう壁を張ってくれるかい?」


 生憎、未だに魔導は使えないのだ。


「わかりました、硬度は任せてください。決して通しません」


 美緒をそっと寝かせ、入口に向かう。入口の先には悟が立っているのが見て取れる。しかし、他に人影はなく、隠れていることが予想される。手付かずの自然が残っているのだ。隠れられたら見つけることは至難の業である。


「どうもどうも。やはり貴方でしたか」


 何食わぬ顔で話しかけると、木々の間から青年が姿を見せた。予想通りの人物、悟は怪訝そうに口を開いた。


「いつから気付いていたんだ?」


「今朝、貴方に会う直前ですよ」


 美緒からの証言と今まで得た情報、状態を統括して導き出した結論であった。


「それはそうと、一つ取引をしませんか」


 話題を変える。


「言ってみろ」


「自分たちは貴方たちのしたことを口外しません。なので、ここは穏便に引いてくれません?」


 現状、六之介たちが不利であることは言うまでもない。六之介が場所を指定して瞬間移動するより、弾丸の届く速度の方が速い。何発かは防げてもすぐに限界は来てしまう。となれば、行うべきは、平和的解決である。幸いにも相手は人間であり、話ができる。


「聞き入れるとでも?」


 予想通りの返事である。今度はこちらから攻め入る。


「聞き入れないと大変なことになりますよ」


 魔導官というのは、巨大な組織の一部である。そのうちのたった一人に対してでも敵対するという事は、全体を敵とみなすという事につながる。

 まともな思考をしていれば、この行為がいかに愚かであるか分かるはずである。しかし。


「はっ、大変なことね。お前さんに気付かれた時点でもうなってるさ」


「ちぇっ……だめか」


 視界の隅で、ぎらりと光るものがあった。自然物ではないと判断、身を翻し洞窟へと駆け出す。

 この時代の銃器なら、連射性能はさして高くない、そう高を括っていた。だが、その考えは甘かった。


 土煙を巻き上げながら、地面が抉られていく。銃弾をかすめた小石が吹き飛び、頬をかすめる。


「はあ!? なんだその連射速度は!」


 右に左に、右に右に、左に左に、乱雑に動き回りながら、射手に予測されないよう駆ける。草木の陰で、二人の男が立っていた。彼らが抱えてるものに、思わず目を見張る。


 そんなものが何故存在するのか。いったいどこで手に入れた。どこで使い方を習った。数多の疑問が脳内を巡るが、今はそれどころではない。


 飛びずさり、文字通り、洞窟内に転がり込む。あちこちを擦りむくが、撃たれるよりはましである。 


「だ、大丈夫ですか?」


「当たってはいない……でもそれよりも……」


 金属の板を思わせる形状、無数の突起が背びれのように並ぶトップレール、細長くL字を回転させたようなストック。そしてあのふざけた連射性能と破壊力は見間違るはずもない。


「クリスベクターだと……いったい、どうしてあんなものが……」


「くり、す……?」


「アメリカ軍が開発中だった試作型サブマシンガンだ。連射力はあるし、破壊力も十分、その上反動も小さいという銃器だよ。くっそ、なんだってそんなもんがあるんだ……いくらなんでも文明レベルが違い過ぎるぞ……」


 前の世界でも試作だったものだ。どうしてそんなものがこの世界にあるのか。旧文明があるということは雲雀や仄から聞いていたが、あれはその遺物だとでもいうのか。

 しばしの混乱。だが、それはすぐに収まる。今考えるべきことはクリスベクターについてではなく、ここを無事に脱出することである。

 

「……華也ちゃん、あの連射性と威力で、壁はどのくらい維持できる?」


「三秒が限界かと。別方向からの攻撃もあればもっと短くなるかもしれません」


 瞬間移動し、相手を気絶させ、無力化するには短すぎる。加え、相手の数は不明で、どこにいるかも分からない。これでは勝ち目など無いに等しい。どうするべきか。せめて相手の位置さえ掴めれば話は違うのだ。


「……!」


 洞窟の奥で丸くなり眠る美緒に目が留まる。そうだ、彼女がいた。


「美緒ちゃん、起きてくれ」


 肩をゆすると、涙で腫れた瞼がゆっくりと開かれる。状況を掴めていないのか、あどけない顔をしている。


「美緒ちゃん、君の力を貸してくれ」




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