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11−17 彼方にて

「第一から第四までの大通りに大型輸送車両を三台ずつ、合計十二台確認! 積載されているマガツは一車両四体と見られます!」


 多法塔の直下に本陣を構える。地図を広げ駒を並べるのは飯塚亜矢人であり、その隣で第六十魔導官署署長、川合均が『千里眼』の異能を以て状況を伝える。


「合計四十八の人工不浄か。まったく、笑えないね」


 総人口の九割以上の避難が完了していることがせめてもの救いだろう。

 敵の狙いは見せしめ、ないしは脅迫である。はやくエクステンダーと六号、二十四号を渡せ、そうしないとこの御剣のように都市部を攻撃するぞ、というわけである。六之介が元の世界に戻り、三十時間が経過している。未だに戻る気配はない。

 彼は決して馬鹿ではない。戻ったのなら、必ず通信機による連絡が入る。

  それまで、もしくは、三日経つまではこちらからは攻撃が出来ない。だが、戦えなくとも足止めは出来る。


「大型車両、更に侵攻。目標の地点に差し掛かります!」


「よし、発破」


 塔に急増された半鐘が鳴り響くと、御剣の動脈である四つの大通りの建物、一番通りにあるのは御剣資料館、二番通りには時計塔、三番通りは集合住宅、四番通りは土建会社が爆破され、崩れた。避難と家具などの運び出しは終わり、どちらに倒れるかを計算してある

 あらかじめ魔導官服を脱ぎ民間人を装った工作員を配置、建築物の爆破するように命じてあった。鉄と煉瓦より成され、土嚢や鉄材、岩を建物内に詰められた瓦礫の重量は計り知れない。前回の御剣侵攻の折りに、何かしらの輸送車両を用いることは分かっていた。ならば、そこから不浄を出られないようにすればよい。 


「……いずれの車両も埋まったようです」


「よし、では、次の準備だ」


 半鐘が鳴り響く。

 時間は稼げても、敵は不浄。いつまでも瓦礫の下にいるはずはない。もって一時間、早くて三十分もすれば区内に四十八もの不浄が放たれるだろう。


 懐の通信機より、さざ波のような音が聞こえた。


「亜矢人だ。ひばりんかい?」


「お、聞こえた聞こえた。八坂へ侵攻していた運搬車両は、『偶然』にも赤橋が落ちていたせいで谷底へ転落した。もう一両あったみたいだが、これまた『偶然』にも線路が破損しており立往生しているな」


「おや、『偶然』かい。そりゃついてるなあ」


「普段の行いの良さだな。んで、転落した鉄道を見に行ったが、乗組員は全滅、マガツは無しだ」


「クリスベクターは見つかった?」


「三十三丁だ。全体のうちのどんなもんかは知らねえけどな」


「ああ、五十丁ほどだよ。日ノ本中に鉄加工業者、および此世の総本山へ斥候を出して調べさせておいたからね」

 

 あれほどの精密な武器を、この世界の技術では大量生産は出来ない。故に全体数は決して多くはない。ただ、数が少なくとも強力な武器になることは明らかである。

 大型輸送車両の中に兵が紛れ込んでいる可能性が高い。警察の協力を仰ぐべきだろう。


「こちらから以上だな。そっちにすぐ行けるように準備はしておく。六之介が戻ったら連絡をよこせ」


「帰ってくるか分からないよ?」


「はん、俺は帰ってこいと言った。あいつは「はい」と返したんだ。帰ってくるに決まってんだろ」


 その言葉には確信と、願望が混じっているように聞こえた。


「……そうだね。じゃあ、こっちは何とか凌ぐよ」


「ああ。じゃあ、連絡終わる」


 ぷつりと音が消える。

 

「手が空いているものは至急、大型車両の元へ。クリスベクターを発見したら回収を、なければ即撤退してくれ。あと、魔導官服はしっかりと脱いでおくんだよ」

 

 メンゲレはこの作戦の後に元の世界に帰るつもりでいる。未開と罵るこの世界に未練も愛着もないだろう。ならば、当然全てを投入し、散々荒らしていくはずだ。

 クリスベクターの脅威は分かっている。あんなものが数百と出回れば、この国の均衡が崩壊するのは目に見えて明らかだった。魔導機関が動けない今、警察を頼るほかない。認可されていない武器を製造することは差し押さえの対象となるため、各地の工場に警察が踏み込んでいるはずだ。

 今は、出回っている分をすべて回収することが最優先である。




「華也さんがいなくなった!?」


 病院には動かせない患者が何人もいる。そして、医師、看護師も然りである。そのため、避難の完了が確認できたのなら病院を防衛するように命じられていた。

 担当する範囲に人の姿はないことを確認した綴歌は、御剣中央病院に足を踏み入れた。しかし、眠っているはずの友人はそこにはいなかった。


「は、はい、怪我人の処置に追われていたら……申し訳ありません!」


「……いえ、職務を全うしていただけ。謝る必要はありませんわ……今、私が探しに行きます。皆さんは決してここから出ないように!」


 慌てて飛び出す。上からの指示で、魔導官の戦闘は禁じられている。故に、まず向かうべきは松雲寮だった。

 病院からは決して遠くない。車に飛び乗り、走り出した。


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