9-1 友
「えー、というわけで、稲峰六之介、初魔導を祝って、えーっと何だっけ? ぷ、ぷら?」
「ぷれぜんとですよ、ぷれぜんと」
時折、六之介より教わっていた南蛮語の中にあった単語である。贈り物、という意味であると言う。
「ぷれぜんと。よし、六之介にぷれぜんとを皆で買うことになりました!」
華也、綴歌、五樹が大きく拍手をしている。囲まれながら反応に困ったように六之介は首を傾げる。
「はあ……で、なんでやしろさんの店に?」
「いや、だってほら、魔導を使えるようになったわけだしな。いるだろ」
翆嶺村での形成魔導をきっかけに、赤の放出魔導、緑の形成魔導、青の展開魔導が行使できるようになった。まさかこんなファンタジーなことが本当に出来るとは思ってもみなかったこともあり、正直なところ、喜ぶよりも動揺の方が大きかった。もっとも、とっくのとうに異世界転移などという経験をしているのだけれど。
「魔導兵装ねえ……」
今までは支給品や使い捨ての物、廃棄品などを用いてきた。不便というわけではないが、確かに何かしら一つ、愛用の品があってもいいかもしれない。
「こんにちわー」
綴歌が扉を開くと、店の奥から飛び跳ねる様にしてましろが現れる。子供にしか見えないけれど、二十歳は超えているという。
「おー、よくきたな。まっていたぞ。いなみねどののまどうへいそうだな?」
相変わらずの舌足らずな口ぶりである。
「えっと、まあ、はい、そうです。なんか良さげなのあります?」
「うちのみせにあるのはどれもよい。ごくじょうのしなじなだ。もうすこししぼってくれ」
「戦闘様式に合わせると良いですよ。私は肉体強化の魔導が得意なので、高速での一撃離脱に重点を置いています。あとは綴歌さんと組めるように、ですかね」
「なるほど……ん、でも綴歌ちゃんが直接斬ったりした方がいいんじゃ?」
相手の感覚を遮断して、動けなくしてから自ら首を断てば一撃必殺ではなかろうか。
しかし綴歌は首を横に振る。
「そうはいきませんの。私の異能は感覚を遮断して疑似的に時間停止をするものですが、この遮断を引き起こす物が私の魔力なのですわ。そしてそれを解除するためには、一定時間の経過、もしくは私の魔力に接触することが必要ですの。何故かと申しますと、前者は一定時間の経過によって私の魔力が相手のものと同化してしまい遮断効果がなくなり、後者は魔力が持ち得ている引力によって遮断をしていた魔力が私に戻ってきてしまうんです」
「なるほど……でも一撃なら」
「魔力は常に身体から溢れていますので、近付くだけでも解除されてしまうことがあるのですわ。魔導などもっての外。遮断中に用いれば意図せずとも一瞬で解除されてしまいます。私の魔導兵装の特性が衝撃波であるのはそれが理由ですのよ。ある程度遠距離から攻撃できると同時に、吹き飛ばしによって距離を取れる。ついでに対人戦で、殺傷するには至らない」
非効率的な武器だとは思っていたが、考えがあってのものだったようだ。
「うーん、組み合わせか……難しいな」
「今までどんな戦い方してたんだよ?」
「どうって……爆破」
あと銃殺、刺殺。
前の世界ではそんなことばかりだった。なんせ目視さえできればそこに移動もできるし、物質を移動させることもできる。ある程度大きさに限度はあるけれど、人間を殺傷するには拳大の爆弾で十分だった。わざわざ近接戦闘などする必要はない。
「お前、やっぱり爆弾好きなんじゃ」
「うっさいな、効果的なんだからいいだろ」
同じような能力者同士の戦いとなれば尚の事。どれだけ意表をついて、気付かれぬように、不意をうてるか。これが勝利の鍵だったのだから致し方ない。
「ばくだんかー、ばくだんのまどうへいそうはないな。なんせしゅういへのひがいがおおきいからな」
「でしょうね」
雪風が生産中止になった理由もそれである。
「いっそのこと、自分の使いたい武器ってのはどうだ? 俺は剣道やってたから日本刀だしよ」
「それが爆弾なんだって……やしろさん、例えば不足している分を補うための魔導兵装ってのはありかな?」
「おおありだとも。もともとはそのためのものだしな」
「じゃあ、不足している魔力、あと各色の魔導発動を補助してくれる魔導兵装がいい」
魔導に関しては、まだまだずぶの素人である。練度に関しては同僚の足元にも及ばない。
「ふむ、ではこんなのはどうだろうか」
取り出したのは冊子である。頁ごとに写真が貼り付けられている。
ましろが指さしているものは、脊椎のような形をした魔導兵装だった。
「これはまた、随分と……」
他の魔導兵装と比べると異色、そして禍禍しい。
「これって、医療用の魔術具ではありませんか?」
「うむ。じつはひとむかしまえ、いりょうようまじゅつぐをじょうびさせようといううごきがあったんだがな……ざんねんながらながれてしまったのだ」
「コスト……費用的な面でですか?」
「そうだ。りょうさんするにはぼうだいなひようがかかった。あとなにより、ぎじゅつしゃがたりなかったのだ」
完全に体制が整っていなかったというわけである。
「このまどうへいそうは、じこやびょうきでまりょくがけつぼうしたときにもちいるものだ。それと、これだ」
藍色の籠手を思わせる魔導兵装だった。金具から無数の布が複雑に伸び絡まっている。
「うっわ、『暁』だ」
「?」
「懐かしいですねえ……あ、これはですね、魔導官学校で一番最初に魔導を発動させる時に用いる魔導兵装なんですよ」
「へえ、入門用魔導兵装ってこと?」
「そうなりますわね。魔導ってものは一度発動させれば身体に馴染みますので。ですが、この『暁』は極めて優秀な魔導兵装です。六之介さんが求める魔導補助は勿論のこと、耐久性も高く、その上整備もしやすい。仮に壊れたとしても安価で容易に部品が手に入りますの」
初心者向けと言われるのも頷ける。
「どうする?」
「ああ、じゃあ、これらをお願いします」
「よしきた。すんぽうをはかる。おくにきてくれ」




