表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユウシャの心得  作者: 桜もち
ねぇねぇ しってる? きょうはねぇ…………
8/13

その七、案外最初にもらうアイテムが重要だったりする。

前回のあらすじ



服がベトベトだよ!でもわりかしすぐ乾いた!


「だからどうして貴方まで付いてくるのよ」

 高校入学以来通い続けている、学校から優子の家への帰り道。

 春の陽気が心地良く、空を仰げば桜のピンクと青空のコントラストがとても美しい。

「俺はこいつから離れるわけにはいかねぇんだよ。黙ってろ、市松人形」

 橋の上から川を眺める。ずっと遠くの方で魚が跳ねて波紋が広がった。

 道端の菜の花畑には小さくひらひらとチョウチョが舞っている。

「……呪ってやるわよ」

「おう、やってみろ」

 暖かい日に照らされて道のど真ん中で睨み合う背の高い二人。

「もう、二人とも仲良くしてよ!」

 とうとう堪忍袋の緒が切れた優子が二人を怒鳴りつけた。せっかく一致団結して魔物を倒したばかりだというのに、どうして喧嘩ばかりするのか。

「そうだよ。これから長く旅を共にする仲間なんだから」

 どうどう、となだめすかし、手綱を握ろうとするアベルだが、

「貴方、彼を連れていく気なの!?」

 仲間という言葉が引っ掛かったようで、斎は冗談じゃないとばかりにアベルに詰め寄る。

「彼は特別な力を持っている訳じゃない。只の一般人よ! そんな彼を魔物の蔓延る世界に連れて行ったらどうなるかなんて火を見るより明らかだわ。どうかしているとしか思えない!!」

 剣也が無力なただの人間である為、連れて行くのに反対しているようだ。魔王封印の旅には足手まといだと言外に言う。

 一見、剣也の身を案じているようにも聞こえるが、剣也を刺す視線には敵意が篭っていた。

「んだとテメェ……」

「そうやってすぐ頭に血が昇る短気さも不必要だわ」

「やめてってば二人とも!」

 青筋を立てて詰め寄る剣也を抑えようと優子は駆け寄る。

 その時、剣也の体に優子の右手が触れた、その瞬間、赤色の光が放たれる。

「ッ! なんだ!?」

 その光は脈動し、まるで血液のように剣也の体を這う。全身をかけ巡る熱い光。剣也はその光が右手に集中していくのを感じた。

 光がパチンと弾けた時、剣也の右手には黒曜石の輝きを放つ大剣が握られていた。

「……! これは!」

「【勇者の剣】と同じ……?」

 まばゆい輝き。突如現れた剣。形は違えどそれはまさしく優子の手にした【勇者の剣】と同様の『力を持つもの』だった。

「?? ……えっと、これで剣也くんも一緒に行けるのかな?」

 優子はニッコリと笑う。

「…………」

「これでカレはキミの言う、力の無い人間ではなくなった。一緒にいても何も問題ないよね?」

 斎は少しの間剣也と、剣也右手に握られる大剣を睨んでいたが、やがて根負けして言った。

「わかったわ。私達の旅に同行することを認めましょう。……だからそれを早く仕舞って頂戴。立ち話なんかしている暇ないもの。行きましょう、優子」

「あ、待ってよ斎ちゃん!」

 早口でそういった後、ツンとした態度で先に行ってしまった。優子もその後を追う。

「良かったね、剣也。さぁ、ボク達も行こうか。ソレ仕舞うことはできるかい?」

「ああ」

 夜の様に底無しの黒さを誇る大剣がシュンとどこかへ消える。

「ちょっと急ごうか。予定より時間が押してる」

 そして全員は、春風に見守られながらまた優子の家へ歩き出した。




♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢




「これが私の家だよ!」

 機能的な家々が並ぶ道をしばらく歩くと優子が一つの家の前で立ち止まった。

 ドアノブに手を掛ける優子が何故か偉そうにする。

「ふふん。ようこそ我が家へいらっしゃいました。歓迎いたしましょう」

 優子がドアを開けると、掃除の行き届いた温かい配色の玄関が客人を迎え入れる。

「へぇー、中はこうなっているんだね!」

「あら、綺麗じゃない」

「……邪魔する」

「どうぞどうぞー!」

 アベルが土足のまま上がろうとしたのを日本では靴を脱ぐのが常識だと説得し、スリッパに履き換えさせ家に上がる。

「へんなの」

 玄関を上がってすぐに居間があった。そこでは一人の女性が紅茶を片手にお昼のワイドショーを見ている。

「おかあさーん、ただいまー」

「あらぁ、おかえりなさい優子」

 にっこり笑って応えるが、まだ学校にいるべき時間なのは気にしないのだろうか。

「あらぁ? そちらは優子のお友達かしら? こんにちは?」

 優子の後ろにいる三人に挨拶する。アベル達も軽く頭を下げた。

「うん! そうだよ! えっとね、この人が斎ちゃんで、こっちが剣也くん。で、こっちは――」

「はじめまして、アベル・カサルティスと申します。今日はアナタ達にお話があって来ました」

 このボンヤリとした母娘にイニシアチブを取られないように、アベルは優子の紹介よりも早く自ら名乗り上げる。

 優子の母親はもの珍しげにアベルを見た。

「あらぁ、外国の方かしら? 綺麗な目ねぇ」

「……できればお話は一度で済ませたいので全員一緒に話したいのですけど、他のご家族は?」

「聡さんならお仕事よー。帰るのは八時くらいかしらね?」

 壁に掛けてある四角い時計の針は午前十時を指していた。優子達には夜まで待てるほどの時間は残されていない。

「仕方ないわね。お母様だけに話しましょう」

 アベルがそうだね、と口を開きかけた時、ガチャ、玄関を開ける音が聞こえた。居間からはその姿を見ることができる。

 入ってきたのは眼鏡を掛けた中年の男性。優子と、その他知らない三人組を見て驚いた表情をしている。 

「おかえりお父さん! ……あれ、大学はどうしたの?」

「ただいま……いやお前こそどうした。その三人は誰だ、一体何をしている!?」

 優子の父親、聡は三人を、特にガタイが良く、眼つきの悪い剣也を睨んだ。

「……優子、どういう事だ」

「えっとね、これは、そのぅ……」

 説明するのが苦手な優子はモゴモゴと口の中で言葉を噛んでしまう。

「ボクから説明させて頂きます」

 見かねたアベルが優子の言葉を引き取る。

「奥様には先程名乗らせていただきましたが、ボクの名前はアベル・カサルティス。一応、優子の友人です。こっちの女の子が舞姫斎。向こうにいるのが内藤剣也です」

「名前はいい。何の用があってきた」

 緑色の上着を着た少年を睨む。

 人懐こい笑顔を浮かべてはいるがあんな悪そうな奴と一緒にいる男だ。こいつもまともじゃないだろう。こんな奴らとどんな関係があると言うんだ、優子……

「じゃあ、手短に説明しましょう。ボク達の事と優子の事、この世界とあちらの世界について」




♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢




「つまり優子は勇者として異世界に行き、魔王を倒す必要がある、と」

 ソファーに深く座り、背もたれに寄りかかった。目頭を押さえ、揉み解し、必死に頭の整理をする。にわかには信じがたい話だ。

「あらぁ、かっこいいじゃない」

 手を合わせて喜ぶ妻は全く当てにならない。

「そんな夢物語みたいな事ある訳無い、と言いたいが……」

 聡は今しがた掛かって来た電話の内容を思い出した。掛けてきた相手は優子の通う高校の教師で、学校に突如として化け物が現れたこと、カメラで確認したところどうも優子を主として数人の生徒で倒したらしいこと、その内一人は金髪碧眼、緑色の上着を着ていたこと、優子が校内にいないといった旨を述べた。

 優子は家に居る、とだけ伝えて聡は電話を切った。

「実際にこんなことが起こってしまってはな……」

「まだ足りないなら今ここで証拠を見せることもできますよ」

「いや、遠慮しておく。……優子、こっちに来なさい。英恵、お前もだ」

 聡はソファーから立ち上がり、優子と英恵を連れて別室へ移動する。

「君達はここで待っていてくれるか。少し話をしてきたい」

 そう言ってバタンとドアを閉めた。




♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢




「わかってくれるかなぁ、あの人」

 父と母という存在に馴染みの無いアベルは少し不安そうな顔で扉を見つめる。

「さあね、別に分かってくれなくてもいいわ。無理矢理にでも連れて行けばいいもの」

 英恵から出された紅茶を飲みながら斎が言う。

「そうか、ならボク達はボク達でやれる事をしておこう。斎、ヨロシク」

 斎は紅茶のカップを置いて立ち上がる。

「……ふん」

 壁に寄りかかる剣也が窓から差し込む光に目を細めた。




♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢




「優子」

「なぁに、お父さん」

「怖くは、無いか」

「私一人だったら怖かったかも。でも、みんながいるからへっちゃらだよ」

「覚悟を決めているんだな」

「もちろん。だって私勇者だもん」

「……立派になったな。怖いと言ったら無理にでも辞めさせるつもりだったが」

「駄目よ。この子はもう子供じゃないわ。自分のことは自分で決めるの」

「いつの間にか大人になってしまったな。もう私達が口を出す必要もない」

「行って来なさい、優子。何かあったら帰ってきてもいいから」

「私達は何時でもお前の帰りを待っている」

「ありがとう、お父さん、お母さん……」




♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢




 ガチャ、

「あ、どうでした?」

 テレビに夢中になっていたアベルが顔を上げて扉から出てきた三人に振り向く。

「優子の好きなようにさせる。だが、見送りぐらいさせてくれ」

「どうぞ」

 爽やかな笑顔のこの少年が憎い。艷やかな黒髪の少女が憎い。窓辺に立つ背の高い少年が憎い。大事な娘を奪う者達が憎い。

「……娘を、優子をよろしく頼む」

「もちろんですよ」

 アベルは頷いて返した。

「優子、早速だけどこっちに来て」

「うん。お父さん、お母さん」

「何? 優子」

「私ね、お父さんとお母さんの子供に生まれて良かったよ」

「……ああ、私達もお前の親になれて嬉しかった」

「優子は私達の幸せそのものよ」


「……時空を司りし神よ――」


「泣くな、優子。世界を救う勇者がそれでどうする」

「ほら、顔を上げて」

「ぅ……うん、わかった。それじゃあお父さん、お母さん」

「行ってらっしゃい。優子」

「きちんと役目を果たすんだぞ」


「……世界を繋ぐ門となれ!」


 視界が光に包まれる。


「行ってきます!」

投稿遅くても許してちょ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ