その四、パーティー編成は慎重に。
前回のあらすじ
なんか女の子が一人でめっちゃ厨二臭いこと叫んだら男の子が出てきたよ!不思議だね!
「私を? 迎えに?」
優子は驚いた。自分は普通の女子高生だ。異世界から使いが来るようなことをした覚えがない。
「そう。キミをね」
「ここからは私が説明するわ」
今まで聞き役に徹していた斎が説明役を引き受けた。
「あちらの世界で、ある異変が起きた。それは地を揺るがし、湖を枯れさせ、人々を混乱させたわ」
「異変……? それって一体……?」
優子はゴクリと喉を鳴らしながら真剣な表情で聞いている。
「魔王が目覚めようとしているのよ」
魔王、と言う言葉に窓の外を眺めていた剣也が反応する。
優子は昔に流行った子供向けのアニメに出てきた、角を生やしマントを着ているおじさんを想像していた。
「……貴方の考えているものとは違うと思うのだけれど」
「舞姫さん考えていることわかるの!?」
心底驚いた様子の優子に斎は溜息をついた。
「……はぁ、本当に貴女なんかで良いのかしら」
「キミがそう言ったんだろ。自分に自信を持ちなよ」
アベルが何かを促すように瞳を覗く。斎はもう一度溜息をついて話を続けた。
「各地に散る魔王の封印が次々と解かれている。もし全ての封印が解かれ、魔王の復活を許してしまったら……魔王は強大で、悪意の塊の様な存在よ。その目的は人類の抹殺のみ、アニメや漫画の様に生ぬるい事はしないわ。それを阻止するには、貴方の力が必要なの」
「私の力が? どうして?」
「それは」
長い黒髪を手で払う。
「貴方が唯一魔王に対抗できる存在だからよ」
口を半開きにしてアホ丸出しの顔を見つめながら、殆ど投げやりな気持ちで言葉を吐く。
「かつて魔王に打ち勝った勇者。その力が、貴方に宿っているの」
斎がそういった後、待ってましたと言わんばかりにアベルが続ける。
「だからボクは迎えに来たんだ。勇者の力を受け継いでいる少女、その力で世界を救ってもらうために! いきなりこんな事言われても迷惑だろうけど、どうかボク達に力を貸して欲しいんだ!」
「わかった! 私が世界を救えばいいんだね!」
世界の命運を託された小柄な少女が叫ぶ。
間髪入れずに了承の意を示した少女に二人は目を丸くした。
「貴方ちゃんと考えてものを言っているの? 世界を救うなんて、並大抵のことではないのよ?」
「ボク達が全力でサポートするし、危ないことはなるべく避けて行くけど……良いのかい?こんなにカンタンに決めてしまって。いや、ボクとしてはありがたいけど、うーん……」
斎は優子に警告し、アベルは腕組をして首を傾げる。
「でも、困っている人がいるんでしょ? なら私やるよ!」
胸を張り、息巻いて言っているが、実に頼りない。
(大丈夫かしら……ううん、迷う必要なんてない。迷ってる暇なんてない。信じるしかないの)
「そう……じゃあ、これから宜しく。頼むわよ」
「流石だね、歓迎するよ! 優子!」
その時、校舎全体が地震のように揺れる。とてもじゃないが立っていられない。
「おおっ、と、大丈夫? みんな」
「……魔物が暴れているみたいね」
「そうだった! 魔物いるんだった!」
「…………クソ」
しばらくして揺れが収まった後、斎がゆっくりと立ち上がって服に着いた塵を払う。
「説明は後にしたほうが良かったわね。まずはアレを片付けなくては」
「そうだね。さぁ行こう優子!」
アベルが壁に寄り掛かっていた優子に手を伸ばし、優子はその手を取って笑顔で応える。
「うん!」
歩き出した2人の後を斎と剣也が追うが、
「あら、貴方は付いて来なくても良いのよ」
剣也を見上げながら斎が不機嫌そうに言う。
「何でだ」
「貴方の力は必要ないの。寧ろ邪魔だわ」
黒髪の二人の間に火花が散った。
「ついて来てもらおうよ! 剣也くんはとっても強いんだよ!」
優子は先程目の当たりにした剣也の能力を拙い言葉で語った。
「それでも只の人間である事に変わりは無い。彼を連れて行く気は無いわ」
斎はバッサリと切り捨てたが、アベルは違ったようだ。
うーんと唸り、悩んだ様子を見せたが、やがて顔を上げて言った。
「彼をここに一人置いていくのも危険だし、連れて行った方が良いんじゃないかな」
斎は嫌そうな顔をしたが、
「……わかったわ、ただしあまり出しゃばらないで頂戴ね」
了承した。了承せざるを得なかった。
「よし! パーティ結成だ!」
アベルの声に合わせてみんながおー! と腕を振り上げる。
ここに一組の勇者パーティーが誕生した。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「グゥウウォオォォォォオオオオ!!」
「優子! 前!」
「クソッ……また……!」
「何をしているの! 早くそこから退きなさい!」
「優子ぉーーー!」
「私……私は――――」
少し短いですが、次回に続きます。