その一、悪は滅ぼせ。
∠( 'ω')/始まりっ
暗闇があった。静寂の中にいた。
目の届く範囲に形あるものは存在しなかった。
私がどこにいるのか分からない。
手を伸ばしてみた。何も掴めなかった。
歩いてみた。どこにも行けなかった。
目を閉じた。そこにも変わらず暗闇があった。
私を見つけられない。
急に不安になった。暗闇に押しつぶされそうだった。
体を抱きしめる腕に力を込める程虚しさはどんどん膨らんでいった。
私に届かない。
泣きそうになった時、目の前に立つ真っ白なものに気付く。それはこの暗がりの中で目眩がするほど鮮烈だった。
その輝きに目を奪われていると、「もう少しだよ。それまで待ってて」とても優しげな声で呟いて、私の肩を突き飛ばした。
「え?」
暗闇の中を落ちて行く。どこまでもどこまでも落ちて行く。伸ばした手は空を切り、投げ出した足は地面を求めがむしゃらに動く。それでも体は落ちて行く。
真っ白な何かの声が聞こえる。でも、何を言っているのか聞き取れない。誰に言っているのか分からない。
そんな事を思っている間にも私の体は深く、深く、沈んで――――――
――――少女は目を覚ました。
柔らかな朝日が頬を照らし、窓の外では小鳥が一日の始まりを告げている。
少女はベッドから起き上がりぐっと伸びをし、強張った体が解されていく心地良さにふぅ、と息を吐いた。
「朝よー。起きなさーい」
階下から母の呼ぶ声が聞こえる。ドアを開ければジュウジュウという音やベーコンの焼ける香ばしい匂いが漂って来て、少女のお腹を刺激した。腹の虫が何か寄越せと唸り声を上げた。
「優子ー?」
「はーい!」
少女――優子は急いで着替えを済ませる。清楚なセーラー服は去年より随分と体にフィットするようになった。しかし胸元が少々寂しいので、スカーフを大きなリボンにして誤魔化す。
「おはよー、お母さん! お父さん!」
「お早う」
「おはようー優子」
トントンと軽快な音を立てて階段を降りると居間には母と父がいた。
母はベーコンエッグと焼きたてのトーストを皿に盛り、父は新聞を広げながらコーヒーを飲んでいる。優子もテーブルに付き母の用意した朝食に舌鼓を打っていたが、勤勉な壁掛時計に現実を突き付けられ、急いで残りを口に放り込んだ。砂糖を沢山入れたコーヒーで腹に流し込む。
「急がなきゃー! あれ、髪飾りどこ行っちゃった!?」
「遅刻しちゃうわよー?」
「あーもう! 見つからないー!」
「だから使う物はいつも同じ場所に置いておけと言っただろう」
「うー。あ! 見つけた! よしっ、行って来まーす!」
「はーい、行ってらっしゃーい」
「あんまり急いで怪我するなよ、優子」
いつもの風景。いつもの会話。
優しい母と尊敬する父。
全てが完璧な訳ではないけれど楽しく過ごす毎日。
優子の愛する世界だった。
『ユウシャの心得』始まりです。
※この小説は度々書き直させてもらいます。すみません。
こうすればいいよー、この設定どうかなー、こういうのが読みたいんだけどなー、などコメントして下されば作者は喜びます。文章下手すぎ、話がつまんない、作者死ね、なんて言うのは、オブラートに包んでいただけると嬉しいです。ともあれ、どんなコメントでもいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。