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精霊牛

作者: 美村 羽奏

初短編。うりぼう杯参加作品。

連載中作品『田舎暮らし』の番外編として。

 今年の夏休みは和志・友美夫婦揃って取ることができた。盆休みはカレンダー通りに取れるのだが、夏休みとなると上手く合わせて取ることが難しい。特に職場が同じとなると。

 9月も間近な8月28日から31日まで土日を入れて4日だが、これでも合わせるのに苦労した。

 盆休みには和志の実家のある二人が住んでいるところよりも、さらに山深いところに久しぶりの里帰りに行って来た。ゆっくりする時間などない。いわゆる宴会だ。同じ県内に住んでいても、里帰りのたびに宴会になってしまう。山の幸の懐かしい味や近況を肴に長々と飲んでいる。昔なじみが集まるお馴染みの風景だ。酔いが回るまでは良いのだが、酔ってしまえば同じ話がグルグルと回り、和志には苦痛となる。かといって、年に1,2度の帰省では文句も言えない。つまり、休めないのだ。だから、盆休みとは別に休みが欲しい。

 和志の実家のあるこの地域は山深い証拠に、平家落人伝説が残っており、方言に京の昔訛りとも言うような雅な訛りがある。那須家はこの地域にはありふれた姓である。何せ平家の落人を追討に来た那須某が、ひっそりと農耕を営みながら暮らしている平家一門を見て哀れに思い、追討したとの報告を幕府にした後、この地に住み着き、平家一門と共に暮らしたという伝説がある。その那須某の子孫が那須家の人々だというのだ。那須姓は現在もこの地域には多い。

 

******


 夏休みには心行くまでのんびりと過ごした。近場の考古博物館で展示品をじっくりと眺めたり、360度空が広がる場所で過ごしたり。ただひたすら、心を無にして2日間を過ごした。休みを取ったからとあちこち遊びまわるよりも、今回の休みは心と体を整えるための時間。それが特に必要だった。


「休み、明日までだね。」

「だな、今晩はゆっくりと飲むか?」

「うん。じゃあ、まったり家飲みの日という事で、準備するね。」


 この夫婦は、後は寝るだけと完璧に準備して、心置きなく寛いで飲むのを楽しみにしている。風呂も入り、後はいつ寝てしまっても大丈夫なように準備して、何の憂いもなくゆっくりと二人の時間を過ごす。晩酌で飲む事もあるし、夕食後に酒を飲む事もある。今日は、リビングで夕食のおかずを肴に飲む。


「実家ではごめんな。」

「なにが?」

「いや、子供がどうとか、煩くて・・・。」

「う~ん、煩かったね、確かに。」

「これだから実家帰るの嫌なんだよね、口煩くて、お節介で。」

「だね、マジで。ウゼ~。」

「おい、少しは反論しろよ、同意だけか。」

「事実でしょ、謝ったのは口だけなのね。」

「いや、そうではないけど、そうあっさり頷かれると」

「知ってる、だから反論してないんだから。」

「という事は、気にしてないということか?」

「うん、全然。だって子供は授かりものだもの。思った通りにはいかないわよね。」

「良かったぁ。しつこくて俺でもイライラしたから。気になってたんだ。」

「そう?呑み助の戯言には付き合わないことにしてるの。」

「さすが。友美さん、恐れ入りました。」

「はい、恐れ入られました。」

二人で、大笑い。


「友美、茄子の精霊馬(しょうりょううま)みたいだな。」

「うん?」

自分の姿を見て友美は首を傾げる。

「服の色だけでしょ?」

今日の友美は、風呂から上がって紫色の着丈が長めのノースリーブに短パンを合わせている。

「いや、茄子に割り箸刺して、人型(ひとがた)にしたみたいだから。」

「え? それって・・・どうせ幼児体型ですよ。」

「いや、そうじゃないよ、茄子は括れもあってなかなか色っぽいぞ。」

「取って付けたようなことを言わないでよ。」

「いや、本当に。手足も細いからそんな感じに見えたんだって。

 本当にスタイルが良いと言いたかっただけだよ。

 表現下手でごめん。」

訝るように友美が見ている。


急に思いつき立ち上がり、和志は懐中電灯をもって庭の畑に出て行く。

丁度手頃の茄子を収穫してくる。

何をしているのかじっと見ている友美の前で、割り箸を探し出し、1膳の割り箸を太い方を若干長めにして折る。茄子の下の部分に2本を1cm程間隔を開けて刺す。そして、細くて短いほうをヘタの下辺りに斜めに左右1本ずつ刺し人形のようにした。

茄子人形の出来上がりだ。

そして友美の目の前に黄門様の印籠を見せ付けるかのごとく、手を突き出した。


「どうだ。」

「どうだと言われても・・・」

返事に困るのは当然だ。

茄子で出来た人形もどきを見せられてどうだと聞かれて、とっさに何か答えられるわけがない。

色っぽいというような形でもないし、思っていたよりも幼児体型には見えない。

「分った、手足が短いと言いたかったのね。」

何か感想を言わねばと見当違いの答えを導き出す。

「そんな言葉を得るために、茄子人形を作ったのか・・・」

盛大な溜息と共に言葉を吐く。


和志はそれではと割り箸2膳を使って、先ほどと同じように茄子人形を作り出す。割り箸1膳で腕を作り、もう1膳を脚にする。こうなったら、友美の同意を得るまでやる事になる。

もう1度作り直した茄子人形を突き出し

「これでどうだ。」

「う~ん。手足は長くなったわね。」

見たままを答える。

「どうだ色っぽいだろ。」

「どう見ても色っぽいには程遠いわね。」

「じゃあどういうのが友美には色っぽいんだ?」

「そうねぇ。」


和志の作った茄子人形を手に取り眺めながら、精霊馬を2体作る。

そして

手足の長い精霊馬と短い精霊馬が出来上がった。

それを見ていて徐に二つを重ね合わせる。


まるで精霊馬が交尾しているように・・・。



横目で和志を見遣り、「こういうの?」とさらりと言う。

色っぽいというよりも交接を表わすそのままの姿なのだが・・・。


これには和志も反論できず

「参りました。」

素直に頭を下げるよりなかった。


翌日、精霊馬を作った茄子は二人でおいしく頂きました。

ご馳走様でした。



ちなみに胡瓜で作った精霊馬はあの世からご先祖様が早く帰って来られるようにといわれる。

茄子で作った精霊馬は牛を象った物とされて、精霊牛とも言う。この牛はご先祖様をゆっくり荷物を乗せてあの世に送るといわれている。

あくまでも一説ですが・・・。


この精霊牛に乗ってきた新しい命にこの夫婦は恵まれる事になるのですが、それはまたいずれ。




拙い作品をお読みいただきありがとうございました

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