魂、移住しました。
「ちゅーもーくっ!」
突然響いたその声に、驚いて目を開けた。視界いっぱいに広がる暗闇の中、色とりどりの無数の硝子珠が時々光を放ちながらふわふわと漂っているのが見える。
その硝子珠の向こうに立っている人が、さっきの声を出した人だろうか? 銀色にも見える腰まである白髪を背中で緩く縛り、ルビーのように紅く輝く瞳を覆う瞼を眠そうに手でこするその人は、天使か悪魔かと思うほどの美貌の持ち主だった。
ぼんやりとした思考の中その彼をボーっと見ていると、彼は一度大きく欠伸をしてから私にとってかなり衝撃的な言葉を放った。
「んー……、俺の眠さがMAXなので一度しか言わないからしっかり聞いておくこと。
まず、お前達は地球という星の死者だ。
今お前達には二つの選択肢がある。
このまま魂収容所に入り天国か地獄の人口が減るのを待つか、神が新しく創った星へ魂の移住をするかだ」
……移住? 魂の移住って何? って、え? 私って死んでるの?! ……というか、私……何も覚えてない……?
混乱している私を放っておいて言葉を続ける彼の話を要約するとこうだ。
今この暗闇の中にいる光る硝子珠はみんな魂で、地球上で同じ日に命を落とした者たちを集めている。ここ数十年、地球は死ぬ者と生まれる者のバランスが崩れていて、転生できない魂たちで天国も地獄も溢れかえってしまっていること。なのでこのままでは空きがでるまで魂収容所で数十年、もしくは数百年眠ったまま待ち、次に天国か地獄で更に数十年から数百年待って漸く転生できるらしい。
そんな溢れる魂を何とかしようと、神が新しい世界を創った。
彼が言うには、一度魂を新しい世界へ移住させてしまうと、その世界への影響を考えてもう二度と地球へは戻せないらしい。なので地球で関わりのあった魂たちとの結びつきはすべてリセットされてしまうみたいだ。ある時は夫婦だったり、または兄弟、友達、ペットなど、魂で結ばれた相手というのは何度転生を繰り返しても必ず出会えるようになっているけど、それをすっぱり切られてしまうらしい。
そこまで説明された後、彼はまた一つ欠伸をしてからふわふわ漂っている私たちに聞いてきた。
「今までの話を聞いて魂を移してもいいってやつは俺の所まで寄って来い。
ああ、後もう一つ。今ちょうど移住感謝キャンペーン中だから、今申し込んだやつはとりあえず人間として転生できることが決まってる。
このまま地球がいいって待っててもいいけど、お前達の次の生がどんな生き物になるかはわからないぞ。人間かもしれないし、ミジンコかもしれない。
まぁ、正直どっちを選んでも俺には関係ないから好きにすればいいけどな。
俺は今とても眠い。そして忙しい。
お前達を然るべき場所に収めたらまた別の仕事が待っているんだ。だから今から十数えるまでにさっさと決めて俺のところに来なければ、お前達は魂収容所に送る。
はい、いーち、にーい……」
数え始めた彼の元へ急いで向かった。彼の元へ早く行きたいと思ったら勝手にギューンッと飛んでったと言うのが正しいかもしれない。
別にすぐに転生したいとも次が人間がいいとも思わなかった。だって、今この場所にいる前のことなんて何も覚えてないのだ。人間だったら何かいいことあるのかな? ってくらいしか思わなかった。
……ただ、何となく彼と言葉を交わしてみたかった。綺麗な真っ白な髪と深紅の瞳に感じた少しの違和感は何なのか知りたかった。
そうしてギューンッと飛んでった私は、止まるにはどうしたらいいのかわからずに彼のおでこにベチッと音をたてて止まるという、なんとも冷や汗ものなことをしてしまった……。
彼のおでこにぶつかったまま動けなくなっていた私を、大きな手のひらがむんずと掴んだ。
わざとじゃないっ! わざとじゃないの~っ!
と、その手の中でぶるぶる震えていると、予想外に優しい声が頭上から降ってきた。
「お前は移住するのか?」
『は、はいっ』
「そうか……」
そう言って親指で私の天辺を撫でると、彼はまた数を数えた。
「じゅーう。
……お前らはこのまま地球にいたいって事でいいんだな?
今回はお前だけみたいだな、じゃあ行くか」
『行く?』
「移住するお前はこれから行く場所がある」
言いながら彼が手を振ると、視界いっぱいに浮いていた硝子珠がすうっと消えていった。どうやら皆は魂収容所に送られたらしい。
あれだけいたのに希望したのが私だけなのにビックリした。それを彼に言ってみると、彼曰く一人でも希望する者がいる日のほうが少ないそうだ。皆魂の縁が切れると聞くと、それは……と二の足を踏むらしい。それを聞いちゃうと私って薄情なのかな? とも思ったけど、まぁ気にしないでおこう。だって何も覚えてないのにそんなこと言われても正直ピンとこないんだもん。
彼にここに乗れと言われて右肩によいしょと座った。そのまま彼が一歩踏み出すと、一瞬にしてその景色が変わった。今までいた真っ暗な空間から一転、真っ白な世界が目の前に広がる。彼の足元にはふわふわな白い地面が広がり、雲一つない真っ青な空には光り輝く太陽がある。そんな光景をポケーッと見ていると、彼は歩きながら私にさっきの話の続きを話してくれた。
「実はさっきは言わなかったんだが、新しい世界もまだまだ生物の誕生が少ない。人間以外は神が馬鹿みたいにある力でぽこぽこ生み出しているから心配はないが、あのハゲは人間を増やす方法にこだわっていてこっちはなかなか進んでいないんだ」
『ハゲ?』
「ああ……間違えた。
神はなんとも馬鹿らしい物にはまっていてな、希望した魂移住者たちにそれをモデルにした状況で愛に生きて欲しいとなどという寒気のするようなことを言っているんだ」
『それってどんなものなんですか?』
「簡単に言うと恋愛ゲームだな」
『恋愛ゲーム?』
「ああ、前世のお前は知らなかったのかもしれないな。まぁ知らなくても大丈夫だ、これからそれを学ばざるを得ないから」
『どういうことですか?』
「説明するより見せたほうが早いからな。お前はこれからハゲが作った箱庭学園で、ハゲが理想だとほざいている恋愛観を魂に刷り込むことになる。ああ……見えてきた」
そうして彼とともに足を踏み入れた(現在足があるのは彼だけだけど……)箱庭学園の授業はとっても恐ろしいものだった――
◇◇◇箱庭学園・ヒロイン科の場合◇◇◇
「よろしいですかぁ~。皆さんに大事なのは、一に明るい笑顔、二に完璧すぎない能力、三に優しい心、最後に自分への好意や悪意にまったく気づかない鈍感さです~。
そして普段からどんな生き物にもどんな人間にも平等に愛を注ぐ事を忘れずに。
いいですか~、その場面をいかに効果的に人々に見せるかで皆さんの成果は変わってきますよ~。
では皆さん声を合わせて~、はいっ」
『目指せっ! 愛され鈍感ヒロインっ!!』
とか
「何か疑問を感じたときは頭を傾けて顎を引き、潤んだ瞳で見上げましょう~。
この時に頭を45度以上傾けてはいけませんよ~、効果が無くなってただのおバカさんに見えてしまいますからね~。
では皆さん声を合わせて~、はいっ」
『全てのいい男は自分の物っ! 目指せっ! 愛され鈍感ヒロインっ!!』
なんてことを語るふわふわウェーブの金髪のお姉さんは、瞬きをするとバサバサと音がしそうなまつげとプルップルな唇のビックリするほど可愛らしい方だった。少しだけ胸の辺りが寂しそう……なんて思ってませんっ。ええっ、まったく思ってませんから笑顔で威圧しないで欲しいっ!
ヒロイン科を見学した結果思ったのは、教師のお姉さんは可愛いし、生徒の魂仲間さんたちはピンクや水色など、パステルカラーの可愛い色をした子が多かった。
でも、ここは何か怖くて嫌。
◇◇◇箱庭学園・ライバル科の場合◇◇◇
「いいですかっ、皆さんがすることは、一に努力、二に努力、三四が努力で五に努力ですっ!
いい男は最初からヒロインの物だと決まっているわけではありませんっ、どうしても手に入れたいと思う男を見つけたら、どんなことをしても手に入れるのですっ!
そのためにはまず日々の努力がものを言うのですっ!
自らの容姿を最大限に生かせるように磨きましょう、敵が可愛さを武器にするのなら、我らは美貌を武器に出来るように磨くのですっ!
敵と同じ土俵に乗っては絶対にいけませんっ!」
『打倒ヒロインっ! 彼は渡さないっ!』
「その意気込みや良しっ!!」
……こちらの先生は、真っ黒な髪を腰の辺りで揺らしながら腰に手を当て、魂たちにビシッと人差し指を指し、そして先程の先生とは違うその爆乳が揺れている……。とんでもない美人さんだけど言ってることがその美貌を残念にしている気がする。
魂仲間は何となく原色系の子達が多い気がする。
ライバル科を見て思ったのは、さっきのとこよりは怖くないけど、ここも嫌。
◆◆◆箱庭学園・一般科の場合◆◆◆
「皆さんはとても大事な役割を持っていることを決して忘れてはいけない。
皆さんがいるから他の科の者達が輝くのです。
皆さんは時に彼らに助言し、時に邪魔をすることで、彼らの恋愛をより一層ドラマティックなものにする最高の功労者です。
もちろん皆さんも己の恋愛を大事にしなくてはいけません。
ヒロインに恋をし頑張るのもいいでしょう。
ヒーローに恋をし振り向かせる努力をするのもいいでしょう。
誰に恋をしてもいいのです。ただ、そんな中でも自分以外の恋愛への協力を惜しまないことが皆さんの役目です」
『はい、先生』
「他の科の者たちよりも大変かもしれません、ですが一番様々な可能性を持っているのはあなた達です。
是非とも素晴らしい人生を掴み取ってください」
『頑張りますっ!』
ここの先生は男性でした。
目の大きさと合ってないんじゃないかな? っていうちっさくて丸い眼鏡をつけた人で、綺麗な金髪をきらきら輝かせたビックリするほど無表情な人だ。だけどその目はとても穏やかで、きっととてもいい人なんじゃないかと思った。
生徒の数は今まで見たところの何十倍もいて、色取り取りの魂で教室は溢れかえっている。
私もここがいいなぁと思っていたとき、突然の侵入者が現れた。眼鏡の先生の隣にいきなり現れたのは、真っ黒なサングラスと顔半分を覆う大きなマスクをした人で、マスクの下からは収まりきらなかったんだろう白い髭が揺れている。そして……その頭はつるっつるだ。ピッカーと光る見事なハゲ……、これはもしや彼が言っていた神様だったりしないよね? と、彼の顔を覗き込むと、見たことを後悔するほど恐ろしいことになっていた……。
そんなことを気づいていないのか、突然現れたその人は、鼻息も荒く皆に叫んだ。
「ラブ&ピースっ!」
その瞬間、彼はすぐ近くにいたオレンジ色の魂をむんずと掴むと、その人に向かって恐ろしい速さで投げつけた。ドガッと大きな音をたてたつるつるの頭はそのまま背後の黒板にめり込み、ぶつかったオレンジの魂はよろよろしながら仲間の元へ戻り、その後も暫くプルプルしていた。
死んだ……あれ絶対死んだって、って声がそこら中から聞こえる中、「ほいっ」と言う掛け声で黒板から出てきた神様(多分)は、犯人を見て「ヒーッ」と悲鳴を上げた。
「こらハゲ、貴様何しに来た」
「生き抜きで皆の様子を見に……」
「新しい世界に力を注ぐので精一杯で、他の仕事に手が回らないなんてほざいておいてか」
「いや、ほんの一分前まではちゃんとやってたんじゃっ」
「もう一発くらいたくなければ今すぐ消えろ」
「わかったっ、わかったから。わしは痛くないがこの子らが可哀想だから投げるのはやめなさい」
そんな彼らの会話を聞いて、彼の周りにいた魂たちは一斉に反対側に非難した。体が変形するのも気にせずに皆で体を潰しあいながらも寄り添っている。なるほど、この体って柔らかいのか。硝子みたいに割れなくてよかった。
神様は最後に彼に向かって「いじめっ子~っ!」と叫んでから、これまた一瞬で姿を消した。そんな神様に彼と眼鏡の先生が深い溜息をついた。
何となく、生まれ変わったら女性になりたいなと思ったから、他にヒーロー科やサブヒーロー科があるけど見ていくか? ときかれた時に断った。なにより、ちょっともうお腹いっぱいです……という疲労感が半端なかったからだ。
そんなこんなで私の箱庭学園見学が終わり、彼に「どこがいいか希望があるか?」と聞かれたときに、すぐさま一般科にして欲しいとお願いしておいた。……にも拘らずっ! 私はライバル科へ入れられることに決まってしまった。なんで~っと彼に詰め寄ったけど、「まぁ頑張れよ」で流された。
酷いぃぃぃぃぃぃ~っ。
箱庭学園、そこでこれからみっちりと恋愛ってものを魂に刷り込まれるそうだ。そして切れてしまった魂の縁をここで出会った仲間達と新しく紡ぐ。人口を確実に増やしていくためにも、転生してから恋愛に無関心にならないために神様が決めたことらしいけど、神様、ただ楽しんでるだけのような気がしてる……。
これからのことが正直不安で仕方ないけど、嬉しいこともあった。
彼が、私が転生するまでは時々会いに来てくれると約束をしてくれたのだ。何でこんなに彼が気になるのかはわからない。でも彼と一緒にいたい、彼と話をしたい、そんな気持ちが溢れてくる。この学園で恋愛を刷り込んだら……、この気持ちに核心を持って名前をつけられるのかな?
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あの日から始まった私の学園生活は想像以上に色々と大変なものだったけど、友達や彼に助けられ何とか先生から合格点を貰って無事に転生することが決まった。会いに来てくれた彼にそれを報告すると、とても嬉しそうに笑ってお祝いの言葉をくれる。
「よく頑張ったな、転生おめでとう」
『……ありがとう……』
最近のお気に入りである彼の膝の上に乗り、そっとその赤い瞳を見上げる。その瞳の中に少しでも寂しさを見つけられたら……。でもそこには喜びしかなかった。
『ルウは……私が転生するの嬉しい?』
「それはそうさ」
『そっか……』
それ以上彼を見ていられずに目を逸らしてしまった。今の私はもう自分が彼、ルウを好きなことに気づいている。ルウが喜ぶから学園の授業に必死についていった。ルウが頑張れと言うから、たまに先生から飛んでくる愛の鞭(本当に良くしなる皮の鞭が飛んでくる)にも逃げずに受け止めてきた。
そうして先生の教えの通りに、ルウに好きになってもらえるようにいっぱい努力してきた。もっと時間があればもしかしたら……があったかもしれない、でも私にはもう時間がないのだ。私が転生すると聞いてルウが寂しそうにしてくれたら告白しようと思っていたけど、こんなに喜ばれてしまっては心が折れてしまった。
そうしてうつむいたまま何も言わなくなった私をそっと手のひらに乗せると、ルウが私の天辺をつついてきた。拒否するようにプルプルと体を振るわせるのに、ちっともやめてくれない。
『あーもうっ、何っ!?』
「俺はお前が転生するときには長期休みを取るとハゲに言ってある」
『休み?』
「ハゲのせいで俺はもう278年4ヶ月と11日不眠不休で働いている。しかもせっかくお前に会いに来ても時間がなくて10分もいられない。
ハゲは毎日三時間の昼寝をするのにだ。これはいつ俺があいつを殺してもおかしくない仕打ちだろう?
それを我慢してやっているんだから当然の褒美だと思わないか?」
『休みを貰って……何をするの?』
「さて何をしようか? ……まずは体を手に入れたお前と、キスをするのもいいかもな」
えっ!? っと驚く私に、ルウがチュッと軽いキスをした。嬉しい、嬉しいけど、ルウ……私の感覚ではそこは顎なの……。ここっ、口はここだからもう一回やってっ!
「俺はお前が地球から離れたときから、もう離さないと決めていた」
『私、私ルウを好きでいてもいいってこと? 転生してもルウを好きでいていいの?』
「もちろん。次のお前の生が終わるまで、いや……終わっても、俺を好きでいればいい」
『ルウっ』
歓喜にルウの顔にビタッとくっついた私を、彼は笑いながら撫でてくれた。
魂の移住で、私は永遠の魂の伴侶を手に入れたのだった――
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ライバル科に入ることになったと告げた途端、猛烈に抗議をしてきた彼女を箱庭学園の寮に押し込んでから、ルウはまっすぐに目的の場所に向かった。
そこでは山のように詰まれ、今にも雪崩を起こしそうなゲームソフトと、それに埋もれニマニマ笑いながらゲームをしているつるぴか頭の爺さんがいた。
「おい神~、あ、間違えた。おいハゲ~」
「間違えてないっ、最初ので合ってるぞ!」
「今度俺の溜まっている休みを百年分ほど取るからお前きちんと仕事しろよ」
「わし神っ、お前の父っ! 父をお前とか言わないっ……て、や、やややや休みを取る!?」
「始まりの少女が地球から離れた」
「なんじゃとっ!?」
「これで彼女は自由だ。俺だけの彼女に戻ってこられる」
「それは……」
「ああ、彼女の転生にはこのゲームをモデルにしろ」
そう言ってルウに渡されたのは人間の少女と天使達の恋愛ゲーム。神が最近全ルートをクリアしたばかりのお気に入りの一品だ。そのパッケージを見つめながら、戸惑ったようにルウに言葉を返した。
「これだと彼女と恋をするのは天使達になるぞ?」
「問題ない、彼女はヒロイン科じゃなくライバル科に入れた。それに俺だって天使さ、頭に堕が付くけどな」
……始まりの少女、彼女は最初に神が創った人間だった。世界にまだ他に仲間がいなかった頃、彼女はいつだってルウと一緒にいた。他の天使達も彼女を気にかけていたが、彼女が一番懐いたのはルウで、彼もそんな彼女が愛おしくて仕方がなかった。そんなある日、神は彼女に仲間を創ると言った。彼女の体の一部から創られたのは、どうみても彼女の番として創られた男。神に頼まれて男の面倒を見ていた彼女が……ある日胎に新しい命を宿したとき、二人は魂の伴侶になった。そうして彼女はどんどんルウから離れていった。
転生を繰り返す彼女はその繋がった縁をどんどんと強固にしていき、次第にルウは彼女を感じられなくなっていった。
愛した少女がいなくなり、その鼓動も感じられなくなったルウは泣いて泣いて泣いて……そして荒れた。その深い悲しみで、誰よりも美しいと称えられていた黄金に輝く髪が真っ白に変わり、涙を流し続けとうとう流れる水分がなくなり、真っ赤な血を流してなお泣き続けた結果、少女が「空と一緒ね」と言っていた瞳は蒼から深紅へと変わった。そうしてルウは、結果的に彼から彼女を奪った神に盛大な親子喧嘩を吹っかけた。
ルウに同情していた天使達も味方し、人の世界にまで語られることになった天界大戦争は、ルウが神をきっちり半分殺したところで終わった。ついでに永遠に神の頭から毛が消えるようにしたのは、今でも良くやってくれたと神のサボり癖に発狂しそうな元部下達に言われている。
「もう離さない……、次の世界の彼女の魂の伴侶は俺だ。わかったな、ハゲ」
「じゃ、じゃが彼女は次の生もその次も、限りある命を繰り返すんじゃぞ?
それをお前は耐えられるか?」
「何を今更。彼女が繰り返すなら、俺はその度見つければいい。繋がったままなら彼女を見失うことはない」
「それならもう何も言うまい……」
いつか来るだろうチャンスを、神の仕事を肩代わりしながら待っていた。気が遠くなる程待っていたのだ。
今日、自分に向かってまっすぐに飛んできた真っ白な魂。恋焦がれたその魂の出現に固まるルウの顔に張り付いた彼女を、手にした時の気持ちをどう彼女に伝えようか……。
自らの手をジッと見つめるその姿は、神が久しぶりに見た、穏やかに微笑むかつての彼そのままだった。
神の最初の子と、神が最初に創った人間である始まりの少女は、絶対に諦めなかったルウのおかげで、新しい世界でまた、絆を紡ぐことになる――
読んで頂きありがとうございました。




