俺と幼馴染みは約束していた
その、丁寧に手入れされていることが伺い知れる、艶やかな黒髪を、後ろで振り乱しながら、彼女は息を弾ませながらこちらに走ってくる。それにたいして、俺は揺れる胸などには目を向けず、青空を眺め、回りの視線から浴びせられるプレッシャーというなの現実から逃避していた。
「ごめんね、待った?神座」
だから、俺は、彼女の思い描いているシーンをぶち破り、現実を突きつける。
「あぁ。安心しろ一時間ほどしか待ってない」
「……そこは、今来たところって答えるべきじゃないの?」
嘘は泥棒の始まり。今だけそんな言葉を信じて榊に真実を告げたら、ブリザードもかくやといった、冷たい視線に晒された。可笑しい。俺は別に間違っちゃいないはずなのに。いや、むしろ正しいはずだ。事実をありのままに述べただけなのに、どうして俺はジト目で睨まれ、しかも責められているのだろう。解せぬ。
「それよりも神座、一時間前から来てたの!?」
「社会人は十五分前行動ぐらいが基本なそうだ。俺は部下はその更に一時間前から上司を待つ、つまり一時間十五分前から待ち合わせ場所で待つのが当然だと思うのだが、どうだろう」
「何言ってるのか、私には分からないし、私は神座の上司でもなんでもないよ……」
ここは駅前の噴水で囲ってある時計の下。時計の針は七時十五分を指している。七時三十分が待ち合わせ時刻だったので、どちらも遅刻ではない。俺が来たのは六時十五分頃。一時間は待ったわけだ。まぁ、早く来た俺にも責任の一旦がないとは言わないが。そもそも何故、俺と榊が駅前にいるのかと言えば、それは本日、俺のテンションを下げて止まない、班を組んでの遠足というぼっち殺しのイベントが俺を今か今かと待ちわびているからだ。いや、ぼっちなのは俺じゃないけどね?そう決して、俺じゃない。それをくれぐれも忘れないで頂きたい。俺には楔と言う友人がいる!
「大体、何で待ち合わせ場所なんて指定したんだ?お前にも他の女子との付き合いってもんがあるんじゃないのか?」
「うーん、断ってきちゃった」
まぁ、俺にはないが。楔と約束していたが、その約束の途中で嵐のように榊が割り込んできて、半ば強制的に今日の約束を取り付けさせられた。その時の楔の、なんとも形容しがたいような表情を俺の頼りない観察眼は捉えてもいた気がするが、今思い返せば、捉えていなかった気もする。俺は、暗記が余り得意じゃなくてな。
つーか、断ったのかよ。何?そんなに俺が心配なの?そんなに俺、友達少なそうに見える?まぁ、否定はしないけど。
話が逸れたな。そうじゃなくて、俺と榊が駅前で約束して、今に至るというわけだ。何故、家が近所なのにインターホンを押して、そこから一緒に行かない…… ! ! 何て思ったりもしたが、それを聞くなんて大それたこと、俺に出来るはずもない。所詮、男は何時だって、女の前では無力なのさ。決まったな……。
「え?何でしたり顔なの?気持ち悪い……」
「その気持ち悪いは、俺のしたり顔にたいしてなのか、それとも俺の顔に感情がでていることにたいしてなのか。返答によっては、今日の遠足をサボって心理外科か整形外科に行かなきゃいけないんだけど」
すげぇ、傷ついた。世の男子高校生は女子と話すたびにこんなダメージを食らっているに違いない。お前のイメージを押し付けるなって?そりゃそうだ。こんな会話が日常的にそこかしこで繰り広げられていたら、俺は一体何を信じればいいのか分からなくなる。
「えっ!?え、えーと、えーと。そうだ! 顔が気持ち悪いから大丈夫! !」
「そうか、今日は整形に行ってこいってことだな」
その返答は、屋上から見投げしてこいというサインなのだろうか。今日は何時になく、心にダメージを食らう。朝からこの調子で、今日は幸崎達(複数系なのにはあえて誰も突っ込むまい)に振り回されるだろうに。今からこんなに疲れているようじゃ、俺の命運、オワタ。整形にいこうと踵を返し(無音回転)て出発した俺の手が誰かに引っ張られる。言わずもがな、榊にだ。
「うわー、私が悪かったからちょっと待って」
「ええい離せ! ! 少し顔を整形しに行くだけだ!」
「そんなことしたら、神座じゃなくなっちゃうじゃん!!」
「え?あ、言われてみればそうかもな」
俺じゃなくなるのはちょっとなー。冷静に考えれば整形しても、お前誰?となるだけだろう。危ないところだったぜ。整形してなくても時たま、お前誰?と言われるが。やべ、目から涙は、出てこないけどちょっと悲しい。
「絶対、私の言ってる意図を理解してないよ……」
「ふん。何が言いたいのか分からないな」
「だから、私は――」
「おい!榊、なぁ、あれ、楔と須佐原じゃないか?」
「もうっ!私の話を聞いてよ! ! って、本当だっ!。楔くんと彗ちゃんだね」
榊が何か大事なことを言おうとしていたが、目に写った光景には反応せざる追えなかった。だって、楔と須佐原が腕組んで歩いてるんだよ?つーか、榊、お前のテンションの高さとテンションの変わる速度に、俺着いていけない。それにしても、あいつもリア充の仲間だったのか……。ま、楔の場合は聖人君子だから、素直に祝ってやろうじゃないか。それに、まだ決まった訳じゃない。そうだ、俺の早とちりかもしれない。ふっ、俺は昨今の漫画の主人公達の様に思い付きで行動したりはしないし勘違いもしないのさ!
「ね、ねぇ、神座、あの二人付き合っているのかな?」
「さぁな。けど、楔の性格を考えたら、俺達に言ってもおかしくない気がするが」
俺は思い付きで行動したりはしないのさ!大体、人間観察能力の低い俺が推測するに、楔は鈍感っぽいからな。どうせ、須佐原が一人で決めたんだろう。楔は苦笑しているようにも見えるし。だから、榊。お前はるんるんと瞳を輝かせるのを止めろ。他人のラブコメに割り込もうとするな。俺のモットーは諦観、静観、達観なんだよ。その三つが俺の心に建築された三本柱なんだよ。
「神座、あの二人に着いていこうよ」
「は?おい。俺はそんな昨今の漫画のように、カップルを見かけたらでしゃばる、といった過ぎた真似はしない――」
そう、俺は基本的には、思い付きで行動したりはしない。だが、手を全力で握られ、指の骨が悲鳴を上げている状態かつ、痛みに耐えかね冷静さを失った状態で出した結論を一体、誰が責めることが出来ようか。どれだけ俺が話そうとしても、離そうとしても、全然聞いちゃいないし、効いちゃいない。お、俺今うまいこと、痛っ!心なしか俺の手を掴んでいる榊の手にさらに力が込められた気がする。心を読んだとでも言うのだろうか。それとも全く動かない俺に痺れを切らして?出来れば、後者であって欲しい。
「ほら、早く!神座。さっさと行くよ!」
「了解した……」
俺の前に残された選択肢は一つしかなかった。
世の男性諸君。高校生の俺が言うのも何だが覚えておいてもらいたい。
……所詮男は何時だって女の前では無力なんだと言うことを……。
第七話目です。
なんか過去回想に入りそうなタイトル……だと思った?
残念!ただの出歯亀回でした!!
……すいません、自重します。
最近、人気が出てきて、荷が思いです……。
おい、誰だよ!!次回遠足(笑)編に行くって行ったやつ!!
はい、僕ですね。余り後書きで余計なこと言うもんじゃないですね。
では、次回!