俺と幼馴染みは別離する
「相変わらず、騒がしいこった」
新入部員(仮)である、並譜七瀬さんが仮入部に来た次の日の早朝、俺は朝の喧騒を幼馴染み共に聞いていた。幸崎のハーレムには三年の先輩も一年の後輩も含まれている。朝早いと言うことも手伝ってか、今の幸崎を取り巻いているハーレムは三人と、何時もより比較的に人数が少ない。それでも十分に煩いのだが。
「煩いねー。なんで、あれが異常だと思わないのかな?」
「さぁな?あの中に加わったら分かるんじゃないか?……そんなにあからさまに嫌そうな顔をするな」
うげーと言った感じで、榊はこちらに苦虫を擂り潰したような顔を向ける。美少女がそんな顔をするんじゃありません。それにしても、そこまであの環に加わるのが嫌なのか。ざまぁ、幸崎。学園の美少女は集められても、学園一の美少女は虜に出来ませんでしたね。っぷ、ざまぁ。大事なことなので、何度でも言おう。っぷ、ざまぁ。
「うん、神座もそんなあからさまに侮蔑の反応を向けないであげてよ……」
ちっ!
心の中で全力で舌打ちをする。嫌われているのに同情されるなんて、イケメンは得だな。俺も、そうやって同情されてみた……くはないわ。同情と言うのは、自分よりも下の立場の人間にすることであって、対等な人間にすることじゃないしな。惨めな気分になるのは別に構わないが、それじゃあ、何も変わらないし。大体、同情するなら金をくれ。この世の大抵のものは金で買えるし、金で変える。おぉ、俺、今うまいこといったんじゃね。
「まぁ、異常が常だからそれが正常だと思ってるんだろうな」
「異常事態が正常事態ってこと?」
「そういうこと」
言葉の上では矛盾しているような気がするが、逆説ってやつだよ、逆説。パラドックスとも言うらしい。一件、言葉の上では間違っているように聞こえるが、実はそれが一番的を得ているもんなんだよ。例を上げるなら急がば回れ、みたいな感じな。異論は認める。
「相変わらず、捻れてるなぁ」
「捻くれてるんじゃなくて、捻れてる、ね。まぁ、捻くれてるキャラは最近多いしな。余り意味は変わらないと思うが、少しでも差別化でも図ったのか?」
「まるで、自分が漫画のキャラみたいな言い方をするよね……」
「なんか可笑しいか?」
疑問符が頭から離れず、首を捻る。俺は何か可笑しなことでも言ったのだろうか?皆目検討もつかない。前も言ったように、人間は自分の人生の主役と言う言葉があり、それはつまり、人は皆物語を生きているということだろう。どうやら、俺は人とは少し違った感性をしているようだ――ってこれも前にも言ったが、それは当たり前だろう。この世に、同じ人間などいない。感性を共有することなど出来るはずがないのだ。
「それにしても、神座は屁理屈言うときだけは生き生きしてるよね」
「そうかなぁ……。気のせいだと思うが」
そんなの嫌すぎる。え、何。じゃあ俺は屁理屈言うときしか目のハイライト入ってないの?常に鈍い光を反射してるんじゃないの?俺の目はギリギリセーフでしょ?だって、俺の目は、死んだ魚の目とは違うからね。ギリギリ輝いてるか?あれ。レベルでは輝いているからね。つまり、俺の目は濁っていない。こんなところでも差別化が図られているとは。恐るべし環境。
「あれが可笑しいって気づけるのは、外の連中だけだってことだ」
「まぁ、それが最終的な結論になってしまうんだろうけどね……」
彼女は肩を落としたまま、俺の声に反応する。心底、俺に呆れているような目を俺に向けてくる。そんな、ゴミを見るような目で見られても、俺は全然堪えない。一応、誤解を解くために言っておくと、俺はMじゃないからな。それにしてもあのハーレムはいつまで騒いでいるのだろう。早朝から、よくあれだけ騒げるな。他の人間が迷惑そうにしているのに気付けないところ辺りがあのハーレムが嫌われている理由だろう。勿論、迷惑かけてなくとも、幸崎がハーレムを作っている時点で嫉妬されることに違いはないが。あんなんじゃ、幸崎が旅行に行くとき大変……だ。
「そう言えば、今日は班決めらしいな、こんなところで油売ってないで、他の奴に話しかけといた方がいいんじゃないか?」
今、思い出したのだが、今日はホームルームでは確か、来週の週末に行く、遠足か何かの班決めとかだったと思う。遠足と言う言葉に突っ込みたい気持ちは分からなくもないが、物は言いようである。遠出といえば少しましになるのではないだろうか。尤も、それでは少し意味が変わる気がしたりしなかったりするけど。遠足。俺は遠足には余りいい思い出がない。いっつも班から一人はぐれていた。回りが遅すぎて、俺に全然ついて来なかった。今でも、野原の一人取り残されたことは、軽いトラウマである。
「そうだね。男女は一緒じゃないわけだし。神座、私が居なくても大丈夫?」
「…まぁ、最低人数三人だろ?楔を誘って、誰か適当な奴に誘われるのを待つさ」
その言い方にちょっと傷ついた。なんで、幼馴染みに班決めの心配されてるの俺?そんなに俺、頼り無さそう?あ、違うな。友達少なそうに見える?……見えるな。俺も男で楔以外といるシーンが思い出せない。
よく考えたら、まず自分の心配をしなくちゃな。この幼馴染みは突っ立っているだけで、誘いの声がかかるが、俺は楔と一緒にいないとかからないからな。というか、楔と一緒に行く前提だが、もし断られたらどうしよう。まぁ、楔なら了承してくれるだろうけど。
「あぁ、そう。それがうまく行くと良いけどね」
「それはどういう意味だ?」
「適当な奴を誘えるのかって話。まっ、後になったら分かるんじゃないかな?」
彼女は慈愛の含まれた笑みを俺に浮かべるだけで、回答を述べようとはしない。その滅多に見せない笑みの理由に、俺は気付けないでいた。それから後は、何度聞いても、はぐらかされるばかりで、結局彼女が理由を俺に教えてくれることはなかった。
「なるほど、榊。お前が言いたかったのはこういうことか」
それでは、皆さんお待ちかねの、俺の班員を発表しよう。班員は三人。一人目は鈍くしか目が輝かない、中途半端なハイライトに定評のある俺、簪神座。二人目が俺の友人で、超絶滅危惧種な俺の友人(大事なことなので二回言った)、草撫楔。そして、最後の一人。これだけ勿体ぶれば、お気づきの皆様もいらっしゃるかもしれないが、そう、最後の一人は、イケメンにして、成績優秀で、運動神経抜群。大層な肩書きを持つ、ハーレム所持者、幸崎光輝だ。俺の幼馴染みは、この状況に目をるんるんと輝かせ(カタカナではなくひらがながポイントな)楽しんでいるかのように見える。いや、見えるじゃなくて楽しんでる。一体何が楽しいのか。俺からすれば、耳元で煩いハーレム達の甲高い声を聞かされて不愉快極まりないのだが。とにかく、この班で決定だそうだ。誰か、この班決めを無かったことにしてくれないだろうか。え?そんな超常現象起きるわけないって?それぐらい知ってるわ。
「よろしくな、簪くん」
「……あぁ、よろしく」
爽やかな笑みで微笑まれても、男である俺は何も感じない。人が只、笑っているだけだ。確かに女子だったら思うところはあるのだろうが。幼馴染みがテラ美少女だと、美形に体制がつく。しかも、榊は、学園一位二位を争うと思う。だから、そんじゅそこらの、美形では俺は靡かないし、そもそもこいつ男だし。俺は絶対こいつとは仲良くなれない。例え、そいつが元クラブメイトでも。
第五話。
少しだけ、主人公らしさが出てたかな……?って感じの回です。
次回、遠足(笑)編……か、それの一歩手前のはずです。
今日からクラブあるので、一時間早いです。