俺は幼馴染みを止められない
結局、デートは今週の土曜日にすることにした。
これは先延ばしではなく、放課後帰りだと榊が自分で設定した門限まであまり時間がないことが原因である。
俺がヘタレ?ちょっとなに言ってるのか分からないなぁ。まぁ、楔にも同じことを言われたのだけれど。
しかし、短い時間のデートってなにすれば良いのか分からない。デパートで時間を潰すだけなら、やっていることがあまり普段と変わらないのである。
やはり、わざわざデートと言っているのだから普段と違うことをしたいと思う。
俺は悩みながら、榊たち二年生の帰宅部部員を連れて、職員室へと向かう。理由は簡単、部室の鍵を貰いに行くのである。楔と須佐原が着いてくるのは珍しいが、俺がそのまま帰ろうとしないかを見張るためらしい。なんでそんなに信頼ないんですかね……。
確かに、今までの発言を省みると、若干否定しづらいところもあるが、何を隠そう俺は今まで、俺はクラブに一切参加しないということはなかった。
とそんな事を考えていると、いつの間にか職員室に着いたので、俺はドアをノックしてからスライドする。扉からガラガラと、音がする。
「失礼しまーす。綴世先生はいらっしゃいますか。帰宅部の鍵を取りに来たんですが」
「ん、あぁ、簪か。なんだ、一年生達とすれ違ったようだな。先に来て鍵を持っていったよ」
「あ、はい。分かりました」
俺は失礼しましたーと行って職員室から出る。職員室に居た時間、僅か十五秒。もはや早業のレベルである。こんな事誰も誉めてくれないので、自画自賛しておこう。凄い!俺。はぁ……虚し。
基本的に俺ばかりが鍵を取っているので、一年生が鍵を先に取りに来たというのは珍しい。たまにあるので、今日がそういう日だったということだろう。俺は、扉の外で待っていたマイパーティーに声をかけ部室へと向かった。
「あ、そうだ榊。今度の土曜、どっか買い物いかね?」
「それって、デートのお誘い?」
俺が榊に話しかけると、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ反応する。楽しんでいるような反応から察するに、楔から事情を聞いていたりするのかもしれない。しかし、そんな伏線は今日のどこにも思い至らない。……ふむ、楔のテレパシーか。
明後日の方向に飛んだ思考を戻すために、榊に対する返答を考える。この表情を見る限り、別に嫌という訳では無さそうだ。授業中以外、基本一緒にいる幼馴染みに拒否られたら、俺は立ち直れないかもしれない。というか、絶対に立ち直れない。ショックで爪を噛むという自傷行為にはしってしまうかもしれない。
俺は勤めて冷静に返答する。
「お前が、そう思いたいならそう思えばいい」
「ふーん……。じゃあ、そう思っておこうかな。期待してるよ」
「失望されないように精々、頑張るよ」
榊の期待に肩が重くなった気がする。期待とか、するのはやめてほしい。そういうのはもっと真面目なやつにするべきだろう。幼馴染みであることを差し引いたとしても、俺が期待できる結果をだすことなど出来ないと分かっているだろうに。
しかし、されてしまったものは仕方がない。出来るだけ、答えられるように頑張るかな。
俺はそんな風に決意を固め、部室の扉を開ける。
扉半ばまで開けたところである光景が眼に入り、扉を開けていた手が止まる。
「あっ……、邪魔したな」
俺は思わずといった体で出た言葉と共に、平常時とは比べようもない速度、つまりとても早い早業で、扉を閉める。
後ろの人間には見えないように超スピードで閉めたので見えていないはずだ。
人生の中で五本指に入る動きの軽やかさであった。
俺の呟いた言葉と、早業を訝しんだ榊が、俺の気を抜いた隙に扉に手をかけ思いっきり引き開ける。
「おい!バカやめろ!」
俺の必死の静止も虚しく、扉は力の加わった方向にスライドされ俺の見ていた光景と殆ど変わらない光景が再びその視界に写し出される。
「……古幡くん何やってるの?」
「あ、いえ!これはその……」
凍えるようなブリザードを吹雪かせ、榊は俺達より先に部室入りしていた古幡後輩に話しかける。
俺達二年生の視界に写し出されていたのは、古幡後輩が、波譜さんを押し倒している(ようにも見えなくない)姿だった。
床に背中をつけて、仰向けの体勢でいる波譜さんの顔の両隣のスペースにそれぞれ手を置き、彼女に覆い被さるような姿をしている古幡後輩。
これは言い訳出来るはずもない。榊のブリザードも良くわかる。折角、俺が七秒弱も時間を稼いだというのに。
ただ、俺は古幡後輩は無理矢理そういう行動に出た訳ではないと信じてはいるので、合意の上だろうと思う。場所は考えて欲しいものだが……。
そんな感じで見ていたら、古幡後輩が顔を真っ赤にして否定している。
「古幡くん、流石にそれはどうかと思うよ?」
「ち、違います!?誤解です!足がもつれて倒れこんでしまっただけで他意はありません!」
「…。古幡くん、私、嘘はいけないと思うよ」
「信じてください!!そうですよね!並譜さん!」
「ふ、ふるは……え?」
「駄目だ、脳がショートしてる!?」
前から思っていたことだが、こいつ突っ込みの時は生き生きしてんな。それが面白いかは別にして。
なんというか、突っ込みがありきたりで誰にでも言えそうな事のオンパレードだ。そんなのじゃ一生笑いとれないぞ。
いや、俺は誰に対して言ってるのだろう。古幡後輩の突っ込みキャラはわりと前から定着していただろう。今更だな。
「で、一体何があったんだい?」
ここで、楔が動く。
いまだに腰を着いたままだった並譜さんを然り気無く立ち上がらせる。余りにスムーズな動きで全く動くことが出来なかった。楔の紳士っぷりを久しぶりに見た。いや、昨日の俺と榊を見て何も言わずに立ち去ろうとしたのも紳士的かもしれないが、結局そのままだったしな。
俺が過去に思いを馳せていると、古幡後輩が救世主を見つけたような目で、楔を見る。
「えーと、俺がポットのお湯を淹れに行こうとしたら、足がもつれて倒れこんでしまいました」
「それは本当?並譜さん」
「ぅう…古幡君が……うぅ?な、何ですか?」
若干トリップ入ってた並譜さんが、楔の言葉で我に帰る。手を頬っぺたに当て、左右に振る姿は小動物のようで可愛らしい。我に帰った並譜さんは小首を傾げ小動物のように可愛らしい(二回目)。
これは、古幡後輩が押し倒したくなくるのも理解できる。まぁ俺はしないけどな!
「うん、僕達が入ってきたとき古幡君が君を押し倒しているように見えたんだけど、どうなのかなと思ってさ」
「古幡君が私を……はぅ」
「あぁ!? 並譜さんが意味深な事を言って倒れた!?」
古幡後輩が言った通り、何か呟いてバタッと倒れてしまった。顔が真っ赤だが一体何を想像したのだろうか。残念だが、俺にはわからない。
しかし、その言葉は榊の創造力を働かせるには十分だったようで。
「榊、古幡後輩は?」
「当然、ギルティ」
「……こんなの理不尽だぁー!!」
榊は俺の言葉に反応し、古幡後輩に有罪判決を下す。判決を下された古幡後輩はラノベ主人公の如く力一杯に叫ぶが、その判決が覆ることはない。俺は彼が可哀想に思えてきたので肩を優しく叩き、慰めてやる。慰めの言葉も必要だよな。仮にも副部長だし、フォローしてやるのは必要だろう。
「落ち込むな、そして諦めろ、古幡後輩。ここでは、榊がルールだ」
「せめて慰めて欲しかったです! 先輩!」
俺はどこ吹く風とばかりに、その言葉をスルーして休日の榊とのデートプランに思いを馳せるのだった。楔?最後までニコニコしてたよ。あいつ、本当に同年代なのかな。
第四十一話。
次回は、多分デート回予定。
例に漏れず、予定は未定ですが。




