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俺と幼馴染みの地雷

「だから、簪、杯、風紀委員に入らないか?」


 昨日の綴世先生の言葉が原因なのか今日は風紀委員による朝の取り締まりがなかった。多分、明日からもないし、これからは行われないだろう。

 他の生徒も取り締まりには辟易していたのか、真実を知らない彼らの中には、普段一切関係ない人間であるのに、俺に礼を言う人間まで表れた。こう言うとあれだが、榊と話す時間を奪われてついキレてしまいそうになった。俺に対しては無関心で良いよ。手のひらは裏返さずそのまま静止させたままでいいよ、本当。むしろ、いきなりお礼を言われたら、何か裏があるのではないかと疑ってしまう。関係ない奴に関わると、調子が狂うし、相手にするのがめんどうくさい。榊がいなかったら発狂するレベルである。

 まぁ、今回は思い当たる節があったから、そんなに怯えたり、狼狽えたりしなかったけど。

 とにかく、俺にとって。

 無償で与え続ける愛とか。

 善意による奉仕活動とか。

 そういうのは、いまいち理解できない。

 働くなら対価がほしいし、御恩があるからこその奉公である。人を救うのは見かけで判断する。正義感は押し売りするものではない。

 そういう考えの俺には分からない類いの気持ちなのだろう。

 だから、成績も素行もそれなりに優秀で、内申点に加点を貰う意味のあまりない俺には、その申し出は見知らぬ生徒に対する無償の何かに等しいものであった。


「――いや、悪いが俺の中では風紀委員長編は終わってるんだ」

「うわぁ相変わらず、自分の人生を小説に例える、痛々しい比喩表現」

「うるせぇ」

「あ、今の痛々しい比喩表現は、風紀委員になんて入らねぇよ、バァカっていう意味ね」


 昨日の今日で、またしても昼休みに教室に来た阿澄。ただし、今日は昨日のように敵対的ではなく、友好的な雰囲気をもって向かってきたので、逃げずに(元々逃げる理由がないが)話を聞けばこれだよ。なんだよ風紀委員に入らないかって。そんな途中から簡単に入れるもんでもないだろうに。大体、正義とかから一番遠そうな俺を誰が認めるんだよ。

 後、榊の口が悪すぎて俺は気が気じゃないよ。なんでそんな喧嘩腰なんだよ。なんで挑発してんだよ、和解したばっかだろうが。俺の努力無駄にする気か。俺まだ昼飯食ってねぇんだよ。先生に呼び出されて飯食う時間なくなるだろうが。


「……そうか、それは残念だ。――だが、私は諦めない」


 いや、諦めろよ。本人が嫌って言ってるんだから。

 阿澄は、榊の挑発を軽く流して残念そうに肩を竦める。普段はそんなことしなさそうなので、きっとこれは誰かの入れ知恵に違いない。しかし、後半の言葉は彼女の本心なのだろう。半分目が死んでいるとよく比喩される俺を風紀委員に何故、率いれたいのかは理解できないが。俺は、絶対に風紀委員には入らない!

 あ、これなんか入りそうな台詞だ。

 頭捕まれたりしそう。

 急に頭を抑えた始めた俺を、怪訝そうな顔で見つめる阿澄だったが特に何かを言うわけでもない。


「そっ、じゃあ私たちは昼御飯食べるから、もう五組に戻ったら?」

「昼食を一緒に食べるのも駄目なのか?」

「……うん、駄目だよ。だって、神座人見知りが激しいから。だから駄目……」


 榊は阿澄の質問に少し考えるそぶりを見せてから、そんな風に答える。その言葉にはわずかながらも寂しげな思いが籠っていて、俺をdisる為だけに、その言葉を選んだ訳ではないようだった。そのあとも少し口元で声が籠るようにしてなにか言葉を呟いていたようだったが、俺のところまでは届かなかった。

 そんな、どこか祈るようにして呟かれた榊の言葉を受け取った阿澄は、そうか、と言って自分の教室へと戻っていった。あいつ、何がしたかったんだ。


「じゃ、じゃあ、邪魔者も消えたし、さっさとお昼ご飯食べよう」

「お、おう」


 邪魔者とはまた物騒な言い方だな。

 そんな風に言おうとするのをすんでのところで言葉を飲み込む。飲み込んだ理由は簡単だ。何故かは分からないし、理由もちっとも全く理解できないのだが。


 ――榊の目のハイライトが消えている。


 遠目で見たら、見た目がヤンデレに見えなくもないところが恐ろしい。そう、あの何となく俺の中では包丁両手持ちのイメージがあるヤンデレである。

 しかし、榊にそんな属性は存在しないはずである。大体、ヤンデレというのは好意を持っている人間がなるものだろ。榊にそんな相手がいるとは思えないし、なら、気のせいであろうか。


「大丈夫、榊さん?」

「?なんでそんなこと聞くの楔くん。私は全然普通だし、大丈夫だよ?心配するところなん全然ない」


 目のハイライトが消えていることに気がついたのだろう、良心である楔が榊に心配の言葉を投げ掛ける。返答の言葉が若干おかしい気がするのは俺だろうか。楔は、こちらを見てどうしようという顔をする。そんな風に見られても俺にはどうしようないんだが……。

 でも、確かに大丈夫そうな雰囲気には見えない。なんというか、地雷を踏んだときみたいな、そんな緊張感。


「本当に大丈夫か?榊」

「……、あっ、うん!大丈夫だよ?」


 俺が榊の顔の前で、手を振るとはっとしたみたいになって、目のハイライトを取り戻す。一瞬で治ったので安心である。全く何の問題もない。むしろ、ハイライトの有無を決定できるその能力を俺にくれ。この中途半端に定評のある目のハイライトをどうにかしたいんだ!

 まぁ、何て考えは隅の方に置いておいて、何を考えておいたのかを聞いた方がいいよな。本当に地雷を踏んだんなら、阿澄の尻拭いは癪だがアフターケアが必要だろう。


「榊、さっき何考えてたんだ?」

「んーん。なんでもないよ。本当」


 笑みを浮かべて、頭を振る榊。弁当を取り出して準備を始める。

 榊がなんでもないと言っているのだから、今度こそなんでもないないのだろう。目のハイライトも戻ったし。嘘はついていないと信じたい。

 ただ、榊が隠れヤンデレであろうとなかろうと、俺には全く関係のないことである。というよりも、そんな対象がいるのならば、その相手を根に持つレベルである。

 数年幼馴染みをしてきたが、榊がそんな目をしたことは一度もない。俺の知る限り。


「神座、榊さん今、変じゃなかった?」


 俺の耳元に小声で話しかけてくる楔。うん、俺もそう思った。俺は楔に同意するように小さく頷く。

 しかしながら、あんな目をした榊は初めて見るため、俺にも対処のしようがない。どうしようもない状態なのである。


「……そうだ、神座」


 榊は弁当を広げそれはそれは美味しそうに食べている。美少女なので、その部分だけを切り抜いたら、正に一枚の絵のようだ。俺と楔も食べながら小声で話す。あの不安定そうに見えたあの状態を打破するために、聖人君子、草撫楔は俺にある提案をする。


「今日の帰りにでも、榊さんとデートしてきなよ」

「…………はぁ!?」


 理解不能、意味不明。

 そんな言葉が楔から放り込まれる。

 いや、だってそうだろう。目のハイライトがない。だからデートさせようって意味が分からなさすぎる。それとも、この友人は榊があの状態になった理由に検討でもついたのだろうか。だとしたら俺も教えてほしいものだが。

 そんな俺の様子を見て、俺の内心を悟ったのだろう楔は苦笑をする。そして、何事もなかったかのように昼飯を食い始める。時間も時間なので、そろそろ昼飯を食わないと昼休みが終わってしまう。


「……今度は一体どんな地雷を踏んだんだよ」


 つい先月の地雷を踏んだときを思い出して、俺は苦い思いをする。ああいうのは、もう二度とごめんなんだがな。そんな思いを込めて呟いた言葉は、授業五分前を告げる予鈴によってかきけされた。

第40話。

一月中に投稿する予定だったのに随分遅れました。

次の投稿も、未定です。

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