俺と幼馴染みは謝罪される
綴世先生が口喧嘩を仲裁してくれた次の日。
俺は非常に気まずい沈黙に包まれていた。
阿澄の申し訳なさそうな表情と、榊もピリピリとした雰囲気の仕業である。
朝早くに部屋のチャイムを連打され榊に起こされた俺は、寝ぼけながらも榊を部屋に招き入れ、リビングで朝食を一緒に食べた。そして、俺は朝食を食べたあとで自分の部屋に戻り制服に着替えてから、テレビでニュースを見ている榊に声をかけて、学校に向かおうとマンションを出た。そうしたら、何故かそのマンションの入り口の側にいた阿澄が俺と榊を発見。そこから現在に至る。
「……お、おはよう。簪、杯」
重い雰囲気の阿澄から挨拶の言葉を聞き取る。
彼女の言葉を聞いた瞬間に、俺の右隣からおぞましい程の寒気を感じる。発生源は我が麗しの幼馴染み、榊である。夏だと言うのに、吹雪が吹いているかとも勘違いしそうなほどで、一斉に鳥肌がたつ。半袖の先からでている腕の鳥肌がたっているのがありありと見てとれる。思わず腕を手のひらで二、三回撫でてしまった。
阿澄もその迫力に押されているのか、表情が歪む。
「……一体、何のようですか?」
榊の口から放たれたその言葉の声音は酷く冷ややかなもので、氷柱のように阿澄に突き刺さる。ブリザードもかくやという、榊の視線を受けても、阿澄は動かない。昨日はあんな簡単に引いたのに。何か、譲れないものでもあるのだろうか。
「……昨日の事を謝りたい」
阿澄のその言葉に、俺は僅かながらに驚く。阿澄が一人で謝りに来るとは思っていなかったし、こんなに朝早く来るとは思っていなかったからだ。まぁ、阿澄がこの時間に俺の家に来ている時点で理由は察することは出来るが、その事に気付かなかったのは朝早い訪問に動揺していたということにしよう。
「……申し訳なかった。貴方を貶めるような発言をしてすまないと思っている。……どうか、許しては、くれないか」
阿澄が頭を下げたのを見て、俺は榊の方に視線を向ける。阿澄は俺に謝っているから、許すのは当然、俺である。けれども、その事に怒っているのは俺ではなく、榊である。ならば、許すのは俺ではなく榊ではないだろうか。俺がここで安直に許して、榊との関係がギスギスするのは御免だからな。榊は表情に多少の不満を滲ませてはいたが、及第点ではあったらしい。重々しく頷いて俺に意思を伝える。
「……頭を上げてくれ、阿澄。通行人に見られたら、俺が悪いみたいになるから」
俺が阿澄にそういうと、彼女は言われた通り顔を上げる。俺を見上げる彼女の瞳は涙らしきもので若干潤んでおり、随分と可愛らしさが演出されている。これがもし狙ってやっているのだとすると、彼女には小悪魔系ヒロインが狙えただろう。鈍感系量産型ラブコメ主人公ならば、陥落していたかもしれない。だが、俺は超美少女の幼馴染みという、特別仕様――言わば、そこいらの量産型ラブコメ主人公とは違い、俺は特別機のようなもの。例えるなら早さが量産型のに比べ三倍だったりするあれ並の特別仕様なのである!
……誇張しすぎた気もするが、人間、自分の成した所業を千倍ぐらいに引き延ばすし、それの延長線上みたいなもんだろう。
「そ、そうか!許してくれるのだな!」
「あ、あぁ」
俺が謝罪を受けとる旨を伝えると、顔をバッと上げて、表情を綻ばせる阿澄。流石、幸崎にピンチを助けられただけで落ちたチョロイン。おい、こいつ反省してないんじゃねぇの?許したの誰だよ。……表向きは俺になるだろうから、真犯人を問い詰めることもできない。
「それで?もう用事はすんだでしょう?さっさと学校に行ったら?」
「いや、一緒に行ってはダメだろうか?」
「……断る。俺は昨日の敵は今日の友を実践できるほど、人間できちゃいないんだ」
阿澄が用事を伝えた瞬間、隣から放たれる吹雪が熱風に変わったので、榊の代わりに俺は答える。俺の口をついて出た言葉は紛れもない俺の本心だけどな。さっきまで敵だった奴を信じれるのはそれこそ純粋なやつだけだろう。俺がパッと思い浮かぶのは、リアル聖人君子な楔ぐらいだ。あとは、癪だがハーレム主人公、幸崎だ。癪だがな。癪だけど事実だから仕方ない。
「……そうか、いや、それも普通の反応だな。すまない、さっきの言葉は忘れてくれ」
そう言い残して阿澄はきれいにターンを決め、本当に決まっているのが若干腹にたつが――踵を返し学校へと向かって行った。
……幸崎の敵対者である俺と一緒に学校に行きたいってどういうことだ。はっ、敵対している俺と一緒にいることで、幸崎に嫉妬させようとしていたのではないか。阿澄は俺を俗に言う当て馬的扱いをしようとしていたのではないか……?
ま、阿澄の目論見は俺のポリシーにより打ち砕かれたがな。河川敷で殴りあって和解とか、謝罪したらすぐ仲直りとか、そんな簡単に打ち解けられるのは二次元の中だからだ。複雑な人間が、シンプルな行動で仲良くできるのなら、それはうわべだけ。人間関係は込み合った事情で結成されるものだ。それが友情って言う、三本柱に代表されるような1つなら尚更な。
「全く、何がしたかったんだか」
「いや、それを俺に聞かれても困るんだが」
「じゃ、私達も行こっか、学校にね」
と、榊はそう言って俺の右腕をとってくっついてくる。柔らかな感触が腕に当たるが、気にしたら負けだ。煩悩よ去れなんて言うのも無し。それを口に出して言う、あるいは心の中で思ってしまった時点で煩悩は心の内に渦巻いているのだ。煩悩だって本能だからな。
「さ、早く行こう神座。風紀委員に捕まる前にね」
俺は榊に右腕をがっつり持っていかれながら、学校まで歩いていった。
「おっ、おはよう楔。それに諏佐原も」
「おはよう、神座に榊さん。今日も早いね」
学校の門を通り抜けると、仲良く登校する楔と諏佐原の姿を見かけたので、声をかけると楔の温和な笑みが返ってきて少しほっとする。そうだよな、朝の挨拶って爽やかなもんだよな。言ったり言われた瞬間に寒気がするのなんて朝の挨拶じゃ無いよな。うん。
朝の学校は朝練やらなんやらで外はわりと音がするが中は静まりかえっている。
「やっぱり、早く登校するとじゃまが少なくていいねー」
「だねー。楔君と二人きりの登校の邪魔なんてされたくないもんね」
「な、何言ってるのか、私にはさっぱり分からないね!」
いや、バレバレだろう。
呟きそうになるのを堪える。楔だって分かっていて言わないのだ。あれだ、物語的に言うのなら、この関係が壊れるのが怖い云々の話である。まぁ、分からん話でもない。バンジージャンプで縄が切れないのは分かっていても飛び降りのは怖いみたいなそんな話だ。失敗する確率が低いと分かっていても、万が一が起きるを恐れる気持ちはよく分かる。そう考えると、バカの方が上手く言ったりするのかもしれない。
あくまでも、付き合うまでを限定した場合の話だが。
まぁ、とにかく楔が諏佐原の気持ちを分からないはずもないので、案外アプローチの仕方を考えているのかもしれない。もしそうなら、手荒に蹴り出してやらないとな。別に、前の事を根に持っている訳ではなくて。男だからな。
「ま、現状維持が一番楽っちゃ楽なんだが」
俺は溜め息を一つつくと、榊達と共に教室へと向かっていった。
第三九話。
なかなか話が書けなかった…。
そろそろ、生徒会の人なんかも出したかったりするのになぁ…。
次回の投稿も未定です。




