俺と幼馴染みは部活をする
俺の幼馴染み、杯榊は美少女である。
いや、何を今更と思われるかもしれないが、これは結構重要なことなのだ。彼女はその才覚もさることながら、実家がお金持ちということも手伝って、よくモテる。彼女に告白する大抵の男子生徒は彼女の容姿を目的に。その次に彼女の実家の権力や、財産を目的として近寄ってくる。小説風に言うなら、皆彼女のオプションに目が眩むばかりで、彼女自身、彼女の本質とは誰とも向き合ってないってな感じで表記されるんじゃないだろうか。実際、俺も何度か偶然その現場を目にしてしまった訳だけど、酷かった。他人が評して曰く、俺の目は鈍い光しか返さないらしいが、だとしたらあいつらは目が淀んでる。
この年齢で欲に目がいってしまっているのだ。勿論、彼女は誰とも付き合っていない。彼女の本質と向き合えないと付き合えないみたいな?お、俺ちょっと上手いこと言ったんじゃね。
「神座は何を考えているのかなー?」
「はっ!!」
なんか冷たい目で、榊に見られてる。え?もしかして、口に出てた?いや、まさか俺に限ってそんな筈がない。大体、口に出していたとしても、幼馴染みを心から心配している幼馴染みの図が出来上がるだけで、俺にはなんの損もない。むしろプラスに働く筈。……そもそも、俺のことを見ているやつがいない。俺のほうを見ているかと思えば、それはおおよそ俺の横のいる人物を見ていると言っても過言ではない。そもそも、榊の存在が強すぎて俺が目に入らないレベル。決して、俺の空気が薄いというわけではなく、幼馴染みの放つ空気が強烈なだけである。
「いや、はっ!! じゃなくて、何を考えていたのかなーと思って」
「楔が聖人君子な理由」
「それは深い命題……。」
放課後の教室で、腕を組んで考え出す榊。俺は考えていたことを誤魔化す為に適当に言ってみただけなのだが、言われてみれば、確かに深い命題かもしれない。他人の個性を考えるという命題だけで既になんか深そうで、頭良さそうだもんな。何故、俺が生まれてきたのか、とか。まぁ、他者の考えを推し量るなど俺には無理なので、俺は楔が聖人君子な理由など考えたことはないが。頭のいい人の考えることは分からないってよく言うが、それは逆にも言えることで、頭のいい奴は、頭の悪い奴の考えることが分かんないだろうな。それを拡大解釈すると、他人の考えは自分には分からないし、自分の考えは他人には分からないということだ。漫画などでよく見かける、俺のことなんてお前に分かるわけがない!! 分かる!! 、のくだりは間違っているということだ。以上、証明終了、QED。俺にしてはなかなか成り立っている証明である。
「まぁ、育ってきた環境が違うんだろうな」
「……はっはー。神座と同じ環境で育っている人間なんているのかな?」
「 そりゃいるだろう。もしかしたら、俺より酷い環境の奴もいるかもしれない」
「いや、それこそないでしょ。だって、神座は――」
「神座、杯さん、クラブ行かないの?僕は彗ちゃんを待っとくけど」
榊が何かを口にしようとしたとき、タイミング良く、丁度話題に上っていた聖人君子の楔が俺たちに話しかけてくる。どうやら、幸崎ハーレム(俺命名)から逃げ出して来て、幼馴染みの諏佐原彗を待っているようだ。あの戦場から抜け出してきて、さらに俺たちの気遣いをして、なおかつ幼馴染みを待つなんて、なんていいやつなんだ。
「あ!そうだった。今日から新入部員の仮入部だよ!!」
「入学式から、もう三週間も経つのか……」
万感の意を込めて呟いたのだが、誰も反応してくれない。べ、別に聞いて貰おうとなんて思ってないし。ちょっと独り言を呟いただけだし。
「さぁ!行くよ神座。我らが本拠地に!!」
「本拠地つったって、すぐそこじゃねぇか……」
教室から歩いて5分のところに、部室はある。俺たちの学校は三棟ある校舎が川の字のように並んでおり、俺が今いる校舎がB棟で、俺達二年生の教室が三階。部室がC棟の二階にあるので、B棟の中央階段を降りて、B棟とC棟を繋ぐ渡り廊下を渡り、右に曲がればそこに部室がある。部活動名、帰宅部。……センスがないとか言わないでくれ。俺だってそんなこと重々承知なんだ。去年の五月の半ば頃に、設立したと思う。部員数は、四人。
「さて、と。神座……」
「うん?どうした神妙な顔して」
「……鍵、取ってきて?」
「最初から取っといてくれよ!?」
面倒臭いことこの上ない。ここに来るまでに鍵とってきてないことに気づいていない俺の間抜けさにも呆れるが。 俺は来た道を戻り、A棟の職員室で鍵を貰う。
「失礼します。二年二組の簪です。綴世先生はいらっしゃいますか?」
「ふむ、簪か。部室の鍵かな?」
「あっ、はい、そうです。有り難うございまーす」
俺は顧問の先生である、綴世先生から部室の鍵を貰い、待っている榊の所へ行く。因みに、綴世先生は俺たちが部活動で何をしているのかをあんまり詳しくは知らない。俺の所属するクラブ、帰宅部の表向きは、帰り道をいかに短い距離、かつ短時間で帰ることが出来るかを目標としており、通学者の安全の向上に役立てるために、それぞれの時間帯の校門前の混み具合などをデータ化するクラブである。 この部を設立したと部長の榊曰く、『この部活動は、自転車通学者の安全性を底上げし、遅刻者数を少なくする』という、やけに長い理念からきているらしい。
「確かに、合ってるけどさ……」
本当のところは、部室でだらだらしているだけのクラブだ。というのも、朝の登校時間を調べたり、下校時間をカウントしたりするだけで(それも結構大変なのだが)それ以外の目立った活動などはしないのだ。一応、週に一回、先生にレポートを書いて榊が提出しているが。役立てられたことなどあるのだろうか。
「神座、早く早く!!」
「あ?分かったからそんなに急ぐなって」
俺はポケットに入れていた鍵を取りだし、部室の鍵を開け、扉を開く。
中に入ると、いつも通り散らかっているお菓子袋と、部室の中心にはガラス張りのテーブルがおいてあり、その横にはテーブルにかければ、こたつに早変わりする布が畳んである。部室の隅の方にはロッカーが置いてあり、その横にはカーテンのかけられた窓が存在している。余り使うことはないが、ポットとカップの類いが置いてあり、部室ないは、半分ほど私室と化しているのだった。
「さてと、誰も来ないと思うけど!一応部室の片付けはしておかないとね」
入学式から三週間たった今日から、一年生には一週間の仮入部期間が設けられる。俺の学校では、生徒は一度は必ずクラブに所属しなければならないという、決まりがありその、一週間を過ぎてしまうと、何かしらの罰を受けなければならないらしい。校則でも決まっているので、反省文とか書かなきゃいけないらしい。何処にも入部したくなかった、榊と俺が作ったのがこのクラブ。先程も言ったが、活動自体は真面目にやっていたりもするので、去年のクラブ会議の時も潰されたりはしなかった。榊が部長をやっているというのも大きかっただろうが。基本的に俺はレポート書いたりもしてないし。基本、部室でだらだらしてるだけだし。
「もう、一年かー」
「そうだな……」
去年、このクラブを作ったのが五月の半ばで、現在が四月の下旬。よくもこんなふざけているようなクラブが認められたものだと思うけど、それで俺はサッカー部に戻らなくても良かったし、居場所が出来た。あの場所は居心地が悪かった。けれど、こんな部活に入部する物好きなんていないだろう。俺だって、例の校則がなければ入っていなかっただろうしな……。俺達が感慨に更けていると、ドアをノックされる。俺が榊を見やると、彼女は顔を扉の方に向ける。俺に行ってこいと。俺は、テーブルから立ち上がり、ドアへと近づいていき、開ける。
「神座、杯さん、こんにちは。えーと、この部に仮入部したいって子がきてるよ?」
……そんな物好きも居た。
記念すべき三話目です。
クラブ名には突っ込みをいれないで下さい……。
次回は、いつ投稿出来るのだろう……。




