俺と幼馴染みの問答
現実とは一体なんだろうか。
俺はそんな哲学的な質問を聞かれても焦らずに返答することができる。しっかりと自己を持っている人間ほど、哲学的な質問にはあっさりと答えることができる。当然、俺はブレず、揺るがず、たじろがずをモットーとしているので余裕で返答できる。ちなみにブレず、揺るがず、たじろがずは今月のモットーだ。
さて、そんな俺だが、先程の自分に向けた質問には、俺だったら何と答えるだろうか。非情なもの?残酷なもの?いいや違うね。
――現実とは逃避するものだ。
目の前の光景を前にして、俺は甚だしくそう思う。俺の前には可愛らしく口を開け、俺がスプーンに掬ったパフェの一部を口の中に入れて欲しそうにこちらを見ている榊の姿がある。俺はパフェを掬ったスプーンを左手に持っているが、俺の理性と本能――つまり、全俺が彼女の口元まで左手で持つパフェの乗ったスプーンの先を運ぶことを拒絶しているのだ。それをしてしまうと俺の中の何かが終わる、そんな気がしてならないのだ。これは周りの若い女性たちが俺達を微笑ましいものを見るような目も大いに関係している。ここで榊にあーんとすれば榊の感情は収まるが、俺達を眺めている女性たちの話の種になり面白おかしく話されるのは明白である。逆にしなければ、榊の不満を駆り立て、周りの女性たちには雰囲気によって不満の感情をぶつけられるだろう。どちらを選択しても俺が特をすることがない。なんという理不尽、不条理か。俺に退路はなく活路すらないというのか。俺に残された道は話の種になるか不満を買うかのどちらかである。少なくともそれ以外の選択肢は俺の脳では考え付かない。さぁ、どうするか。先に述べた通りどうにもならないのは分かっているが、それですっぱり諦めて話題提供をするほど、俺はお人好しではない。諦観の意味は諦めて観ることではないのだ。
「な、なぁ榊?」
「何?」
「何でこんなことになっているんだ?」
俺がしたのは、震えた声で榊にこうなった理由を聞くことだった。一体全体、どうしてこんなピンチに陥ってしまったのかを確認しておく必要があると感じたからだ。冷静に考えてもらえば分かるが、俺がパフェをスプーンで掬い榊の口に運ぶ義務など何処にも発生していないのだ。故に、俺はどうしてこうなったのかを確認する必要があった。そう、俺に義務はないということを確認する為に。
「……早くパフェ食べたいんだけど」
「いや、でも俺が榊にあーんする必要性が分からないし。それに、二人分頼んじゃったから、分ける必要もないし。まして、俺のパフェをお前に分け与える理由がない」
やれやれといった風に、開けていた口を閉じ、大袈裟にため息をつく。わりとやられる仕草だが、呆れたように目蓋を半分ほど下ろし、肩をすくめられてもいらっとくる。それは美少女でも、幼馴染みでも変わらない。まして、長髪から、ショートカットに髪型が変わったくらいで、俺のイライラが収まるはずもない。その動きが洗練されているのもムカツク理由であろうか。
「全く、神座は乙女心が分かってないね」
「平気で他人を蹴落とせる女子の心情な分かりたくもないわ!」
苛立ちを込めて、普段より少し強い口調で榊の言葉に反抗する。周りの女性客には聞き取れない程度で。女子なんて、みんな非情だ。笑顔と言うなの仮面を張り付け、見た目がいい男子にすりよっていく。ちょっと傷つけられれば泣き出し、数倍にして報復する。輪から外れたものを悪と見なし、正義の行いとして平気で陰口をたたき、自分よりも優秀すぎる者には徒党を組んで堂々といじめを行う。勿論、全ての女子がそうであるとするには俺は人と関わり合いがないが、それでも実体験も含めて言えば、俺は多くの女子はそうであると言わざる終えない。
「いや、うん。だからさー、私も女子なんだけどね?いやいや、それよりも早くパフェ。あ、もしかして先にして欲しかったの?」
「……俺の質問はスルーなんだな」
「えー?別にやってくれてもいいじゃん、減るもんでもないし」
「俺はこの羞恥に耐えられるほど、鈍感じゃないんだよ……!」
忌々しい者をみる目で榊をみる。俺がこの羞恥プレイにも等しきに何も感じていないと思ったのだろうか。楔、あるいは真の鈍感野郎である幸崎ならまだしも、極々一般ピーポーの俺がこの雰囲気に精神力がゴリゴリ削られていることが分からないのだろうか。普段の俺ならば既にちょっと発狂しているレベルだぞ。ちなみに、発狂しそうになるのは店に入った辺りである。だが、そんな俺をよそに、俺の手元からスプーンを奪った彼女は、それを食べた上で自らのパフェから一口分を掬った。まだ、スプーンには一度も口をつけて居なかったとは言え、なんたる暴挙だろうか。俺は無様に気付かず関節キスをして赤面する等という失態は起こさない。そういうのは、全部ハーレム男に任せてしまえばいい。
「神座は、十分鈍感だと思うけど?」
「バカ言え。捻くれてる奴は大体敏感なんだよ」
「へぇーそうなんだ。どうでもいいけどね。はい、あーん」
「チョット、ナニイッテルノカ、ワカラナイナ」
「片言で喋る日本人って、たいてい都合が悪いときになるよね」
俺の片言の言葉を一刀両断する榊。俺がつきだされるスプーンに対し、口を閉じ続けていると、彼女はそのパフェを食べて、新しくパフェを掬い、ニヤリと笑う。
「そっかー、どうしても食べたくないのかー」
いつになく棒読みで、えらく感情がこもっていない。だが、その表情は何やら悪巧みを考えているように見える。彼女の浮かべている笑みが、俺には悪魔の笑みに見える。
「じゃあ、仕方ないねー。あっ、そういえばー私達って何でここにいるんだっけぇ?」
妙に甘ったるい声で、先程俺がしたように何故、こうなったのかを俺に確認する。首をかしげ、尋ねてくるその姿は、可愛らしいという他ないだろう。目が据わっていなかったらの話だが。彼女の質問に俺は答えようとするが、喉元まで言葉がでかかったところで再び考え直す。俺が先程確認したのは、榊へのあーんしなければならないという状況を打破するためである。それに則って考えると、彼女もこの状況、俺があーんをしないという状況を打破するために聞いてきたことが推測できる。そんなものを聞いたところで一体何の、メリットになるというんだ……?それが推測出来なかった俺は、仕方なく答えた。どうせ黙っていてもあの笑顔だ。俺の敗北を予測しているのかもしれない。
「榊が勝手にテストの点数で勝手に賭けを始めて、不正に俺のプライバシーを覗き見して、俺が負けたから」
「言葉に棘あるね神座。でも、おおむねあっているからいいや。その時、私は何て言った?」
「……俺にパフェを奢れと言った」
「そう、その後、パフェを私に一口来れと言った。まず、これで私が榊にあーんってしてもおかしくないよね。そしてこうも言ったよ
。――俺が勝っている教科もあるのだからと」
「あ、あぁ、言ったな。それがどうかしたのか?」
どうかしたのか?
と言いながらも背中を伝う嫌な汗、冷や汗が止まることはない。椅子に腰かけている俺だが、もし今立ったところを後ろからみられると汗で色が変わっていることだろう。それほどまでに、榊の言葉に嫌な予感を覚える。いや、既に予測は出来ている。
「勝っている教科もある――つまり、私の勝っている教科あと三つ分は、私は神座を好きに出来る――そういうこと、だよね♪」
榊の台詞の最後に音符が見えた気がするが、普段語尾に、音符等つけない奴がつけるのは焦ったときに片言の喋りが出る奴と同じくらい、分かりやすいキャラ付けで、それは性格的にSに属する人間がそうだと思った。
第二十九話。
次回も、二週間以内が目標です。
サブタイトルを変更するのを忘れていたので、変更しました。




