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俺と先生は対談する

 幸崎光輝は王道ハーレム系主人公である。だが、男子生徒からは、嫌われている。勿論、サッカー部でその才能をいかんとなく発揮しているし、素晴らしいリーダシップを誇っているらしいが、そんなものは彼が嫌われない理由にはならないのだ。

 それはそうだろう。こういう言い方をしてはなんだが、共学の高校における女子生徒とは男子生徒にとっては共有資源のようなもので、その気はなくても、その貴重な資源を独占している彼が男子生徒に好かれることはずがない。さらに、彼のその飛び抜けた才能に嫉妬するものも多い。確かに能力は凄いのかもしれない、けれどそれらは嫉妬を打ち消すほどのものではなく、むしろ増長させているのだ。

 この学校で彼の友達とは、絶滅危惧種と言い換えることもできる。

 因みに、俺と友人やっている奴も多分絶滅危惧種扱いになる。つまり、俺と幸崎の両方と友達である楔は超絶滅危惧種だと考えられる。そもそも、楔はその性格と人間性からして絶滅危惧種のようなものだが。もう、あいつが主人公でいいんじゃないだろうか。


「まぁ、あいつにハーレムは似合わないから、純愛ものかな」


 そんなことを考えながら、独り言を誰にも聞こえないように呟きながら、職員室まで歩いていくのだが、俺と同様に課題を出していないやつが数名いたので、俺は彼らの後ろに並ぶ……のだが。なんというか、喋れる相手がいないため、気まずい雰囲気を自分一人で感じる。分からないだろうか。見知らぬ人と一緒にいる時のあの空気。あんな感じだ。課題を出しに来ているのは俺のクラスだけの筈なのに、気まずい。同じクラスなのに知らないとか、俺はどれだけ他人に興味がないんだ。いやいや、俺が興味ないんじゃなくて、幸崎達ハーレムの存在感が強すぎて覚えていられないだけだろう。気まずい空気がどんなものか分からない人は、相当空気の読めないやつか、回りが勝手に話しかけてくれる幸せものだ。味わいたいなら、朝早く教室に行くといい。それが寝暗系男子ならば、丁度今俺が言った言葉を理解できるはずだ。自分と違う人種みたいな人間と一緒にいると味わいやすいかもしれない。

 俺が提出する番まで回ってくるのを待っていると、他の人は提出したのか先に教室へと戻っていく。俺もさっさと出さないとな。一応、楔が心配ではあるし。俺は、目の前に立つ、担当の女性教諭に課題を差し出す。


「おっ(かんざし)、今日は一人で課題を出しに来たのか?」

「なんですかその、俺は常に誰かと一緒に出してきているみたいな言い方は……」

「だってそうだろう?君は基本的に幼馴染みと一緒に宿題を出すじゃないか」


 担任の綴世(つづりせ)月夜(つきよ)は、そう言って、笑いながら俺の課題ノートを受けとる。だが、その目には微かに冷たさが入り交じっており、目だけは確実に笑っていない、と人間観察能力の低い俺でも理解できる。この目は、彼女が同じクラスの幸崎を見るときと同じ目だ。独身だからだろうか。別に榊とは幼馴染みなだけでいつも一緒な訳じゃないんだけどなぁ。一緒に来るのだって、都合がないときだけだし。先生には幼馴染みがいるというだけで目の敵にするのは止めていただきたいものだが。


「君も、そう言ってちゃっかり幼馴染みにフラグ建築をしているんだろう?あぁ、やだやだ。」

「君もって、他にもいるんすね……」


 綴世先生は、虚空を見つめぶつぶつと呟く。ついその姿に反応してしまったが、俺の呟きは全くもって聞こえていないようだ。誰が幼馴染みにフラグを建築してんだよ。俺ごときが、出来るわけないだろう。先生の虚空を見据えながら何かに語りかけるような、その様子は、先程の冷たい目を見せた時よりもさらに恐ろしい。なんというか、先程のあれは、本能的に怖いだけだが、こちらは原始的に恐い。課題ノートを出し終えた俺は先生の様子から危険を感じとり猛ダッシュで先生から離れようとする。しかし、その行動を読まれていたのか、進行方向を阻まれる。あの距離を一瞬でつめるだと!?驚きの余り声がでない。


「ちょ、先生退いてください!!」

「いや、まだだ。まだ、私の話を聞いて貰ってないぞ!!」


 先生は半狂乱して、叫ぶ。そんなもの知らん!!俺はさっさと教室に戻りたいんだ!!とは流石に先生には言えないので、オブラートに包んで伝えることにする。頑張れ俺、理系なのに漢検二級を所得したその語彙力を見せてやれ!!


「なんで俺が先生の話を聞かなきゃならないんですか!?」


 語彙力は余り関係なかった。ついでに言えば、漢検も関係なかった。オブラートに包んで言うのは、もっと別の能力な気がする。漢検じゃあ、短所を長所に言い直す言葉なんて習わないし。


「私が独身だからだ!!」

「訳が分からない上に、俺を巻き込まないでください!!幸崎のところから、俺は楔を回収しなきゃいけないんですよ」

「……ふむ」


 そこで綴世先生は動きを少し止め、考え事をするように、手を顎に置く。


「君は幸崎のことをどう思っている?」


 綴世先生が俺にそんな風に尋ねてくる。折角の逃げるチャンスだが、ここで答えておかないと、逆に後々面倒になってきそうなので、回答を考える。とはいえ、先程、偶然とはいえ榊にも同じ質問をされたので、答えを考える必要はない。


「その質問、今流行ってるんですか?榊にも聞かれましたよ」

「ほう。杯も私と同じことを?まぁ、それはいい。で、簪、君はどう思う?」

「まぁ、榊にも言いましたけど。俺と真逆だと思いますよ、マジで。根本的な何かが違うんでしょうね」


 俺は先生の質問に答えると、綴世先生はしきりに頷き、感心したように振る舞う。真逆のところで特に大きく反応していたと思う。そうですか、先生には俺がそんなに成績低レベルで、運動神経なくて、顔が残念だと見えているんですね。そうかそうか……俺に泣けってことか。


「じゃあ、俺、もう行きますね」


 出そうになる涙を抑え、俺は教室へと歩を進める。


「あぁ、そうだな」


 先生も気がすんだのか、いつのまにか掴んでいた俺の腕から手を離してくれる。あれ、いつの間に捕まれていたのか気付けなかった。気配遮断のスキルでももってんのか?いや、手を捕まれていることに気が付けなかったということは、こ手から視線を逸らさせるようなものの筈だから、手品で使われるよな、視線誘導の技術である。ごめん、実は適当に言ってた。それに触られている感覚すらなかったし。大体、視線誘導の技術とか知らん。別に俺は手品師を目指している訳ではないからな。というか、綴世先生の能力が高すぎる。気付かれずに腕つかむって、どんな技術。暗殺者にでもなれんじゃないの。


「そういえば、簪。幸崎にも課題の提出のことを伝えておいてくれ!!」


 後ろから、綴世先生の声が聞こえてくる。成る程、幸崎もまだ課題だしてないのか。それが分かるってことは、ちゃんとどの生徒が課題を出したか、一々手渡されたときに、チェックでもつけてんのかな。

 ……まぁ、俺はあいつには知らせないけど。関わりたくないし。課題を出していない幸崎が悪く、出していないことに気が付かない幸崎が悪い。また、誤解されそうだから言っておくと、俺が誰かの使いっぱしりをやるのが決して嫌なわけではなく、嫌か嫌じゃないかで言えば、勿論嫌だけど、先生の頼み事を聞くぐらいの度量くらいは流石に俺にもある。けど、先生からの頼み事を聞くのだって、印象を良くするためで、悪く言えば媚を売るため。俺は、自分にメリットがないことは基本的にしないのだ。今回は、伝えても、幸崎の中の俺の印象が上がるだけのような気がする。俺は伝えることを了承していないし。そうだ、楔にでも伝えて、楔から伝えて貰おう。俺と幸崎は関わり合いがないし、何より、関わりたくない。もし、楔から伝わっていなかった時の言い訳は、先生の言葉なんて聞いてない、だな。俺は、何も掴んでいない手をブラブラさせながら教室へと向かった。

第二話です。

おい、誰だよハーレム主人公傍観するつった奴!!

すいません僕です。いきなり、傍観してねぇ……。

何気にこれが初めての予約投稿です。

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