俺と幼馴染みは登校する
ゴールデンウィーク終了。
鬱になりそうなマイハートを叱咤激励しながら、榊と共に学校に向かう。俺と榊の住むマンションは、俺の通う高校にめっちゃ近い。物凄く近い。つまり、自転車通学が許可されている高校なのに、許可されない範囲に住んでいるということだ。何が言いたいのかと言えば、歩くのが非常に面倒くさい。だが、今まで、キャラに似合わず無遅刻無欠席を貫いている俺の辞書に、学校を休むという言葉は掲載されていない。たとえ、それが榊の監視の元、成り立っているものだとしても、誇れることではないのだろうか。誇れるよな。
「はぁ、今日から体育球技だよー」
丁度、交差点の信号が赤になり、俺が信号機の色が青になるまで立ち止まった時に、榊はそう話しかけてきた。球技選択。体育の授業の形式で、年に三回選択することが出来る。榊が言っているのは今日から始まる球技、つまり一回目の球技選択で選んだ授業である。因みに、男子の選択肢はサッカー、バスケ、ハンドボール。女子がサッカー、バレー、ハンドボール。体育館球技だけ、男子と女子が違う。俺は、サッカーを選択した。まぁ、元サッカー部がサッカーを選ばない訳にはいかないだろう。先生もそんな雰囲気を醸し出していたし。
「どうした榊。お前は運動得意だろ?」
「うん。私はじゃなくて、神座もだけどね」
青になった信号機を、俺と榊は渡り歩く。こいつは何を言ってるのだろう。去年、一年間けいけんしゃ帰宅部でニートし続けた俺が、運動が得意だと?馬鹿な、あり得ない。そもそも、俺は運動が苦手だ。だって、運が動くんだぜ?それってつまり漢字的に見たら、運によって、変わってくるってことだろう。運動神経が才能に左右されることを考えたら、十分に納得できるけどな。才能ない奴は、運動するなっつーことだ。
「俺はブランクあるから無理だっての。精々、サッカー経験者レベルだ」
「中学時代、あれだけ他校に簪神座の名を轟かせた神座は何処に行ったのかな……」
「……あれは、言っちゃ悪いが周りがヘボかっただけだ。高校になってからついていけなくなっちまったのが、良い証拠だ」
「神座は、そう嘘を付くんだね…」
「…………」
榊は寂しげな顔を附せ、悲しそうに呟く。別に、俺の台詞は嘘じゃない。ただ、真実の一部を少しライトに言い換えているだけだ。それに言ってないだけで嘘ではない。今言ったのも事実だからな。高校に入ってから着いていけなかったのは本当だ。目的語を言わなかったのは、勿論わざとで意図してやったことだけど、それは榊を傷つけない為に、俺が勝手に判断して言わなかっただけ。一部を隠すのは、改竄ではあるけれど、嘘ではない。ゆえに、俺は嘘をつかない。大体、嘘なんて泥棒の始まりだし、それを土台にしてできた真実など何の価値もないからだ。俺は、彼女のその返答に答えを返すことはなく、そこで会話のキャッチボールは終了する。そもそも、俺はコミュニケーションというものが酷く苦手なのだ。知り合いなら、そこそこ続くが、それでも見知らぬ人とは五分も話せる自信がない。会話の種みたいなのを俺はほとんど持っていないからな。……自分で言ってて悲しくなるわ。
「はぁ、別に良いけどね」
「ま、お前も体育球技頑張ってくれよ。お前にライバルは多いからな」
うちのクラスの体育のレベルが高すぎて困る。まず、榊、諏佐原に、それから幸崎の幼馴染みの空谷。彼女達の運動能力は、そこらへんの男子にも負けないレベル。俺を戦闘力五のゴミか……って笑えるレベルで運動能力が高い。一応、俺はこれでも中学時代は、榊曰く他校のサッカー部に名を轟かせてたらしいぜ。俺は知らないけど。おそらく、でまかせだろう。
「うーん、彗ちゃんはバレー、空谷さんはサッカーで一緒だけどねー」
「あー、そう言えば、楔はバスケするって言ってたな。……あれ?じゃあ、俺は誰とペアを組めば良いんだ?」
「神座、ガンバ」
「ちょっと待て榊。お前、なんでそんなにワクワクしながら応援してんの?」
そこまで言って、脳裏を掠める一つの想像。サッカーの体育のペアは確か、授業中に自分達で決めるはず。俺たち二組の体育は一組との合同ではあるが、その男子の合計人数は四十二人。そのうちサッカー選択者は十八人。これには当然サッカー部も含まれている。偶数であり、誰かが休まない限りペアの欠落が生まれることはない。さらに、今回の球技選択、俺と楔は同じではない。俺には友達が楔以外にほとんどいない。くどくどと、前置きが長くなってしまったが、結論を言おう。
今回のサッカーのペアで、俺と幸崎の外れ者の二人がペアになる可能性が限りなく高いということだ……!!
「くっそ!こんなことになるんだったら、出来なくてもバスケを選んどくべきだった!!」
「あははー。普段の行いが倍になって帰ってきたね」
畜生、と内心で悪態を吐きながらも、しかし俺の表情筋が働いている様子は微塵も感じられない。笑顔の仮面じゃあるまいし、こんなにも情緒豊かな俺に反して、顔の筋肉は一切働くことがない。無理矢理、頬をつねったりしてほぐそうかと思ったこともあるが、効果はなかった。
「はぁ……。不運だ」
「ここまで来ると、関わらないといけない運命なんじゃないの?」
「えぇ……何その嫌すぎる運命、そんなのお断りだ」
「既に関わってるもんね☆」
榊のドヤ顔にイラッとくる。まぁ、俺は紳士なので、幼馴染みにウザい台詞をドヤ顔ではくヒロインの兆候が現れ始めても、決して暴力を振るったりしない。別に、彼女の父親の鎖鎌さんが怖いからじゃないんだからね。自分で言ってて気持ち悪い。
榊の台詞が完全に否定できない自分が悲しい。最近、彼との接触率が随分高い。楔が要るから心の平穏を保っていられるが、いなかったら既に血ヘド吐いてる。今更だが、なんだあれ。なんであんなに女子に囲まれて平気なんだ?榊を除くこの世の全ての女子は、笑顔という名の仮面を張り付け、下心をもって近づいてくるというのに。あ、俺の場合は悪意を持ってこられるけど。一瞬で態度を切り替える女子怖い。軽くトラウマものである。つまり、これ以上幸崎と関わると、女子の悪意というの名の剣にグサグサと刺される。決めた。これ以上は関わらない。そのためには。
「決めたぞ榊。俺は心の壁を習得する!!」
「もう既に習得していると思うけど?」
「嘘だろ!?じゃあ、俺はこれかも女子の悪意に晒され続けながら生きていかなきゃいけないってことか!?……なんだ何時も通りか」
「どうしてその結論に至ったのか過程を聞きたいんだけど……」
ちょっと気が動転して、意味不明なことを口走っていたようだ。知らない間に心の壁のスキルを所得していたのか。気がつかなかった。これだから三次元は。スキル管理が大変で困る。
「ま、出来るだけ頑張ってみるかな……」
「言葉は前向きなのに、後ろ向きにしかとれないよ!流石、神座」
「ふっ、そうだろう。もっと俺を誉めても良いんだぜ?」
「う、うわー、ちょっと乗っただけなのにその反応はないよ……」
榊にすごい引かれた目で見られた。
結局、学校につくまで、彼女が俺に対してその目を向けるのを止めることはなかった。
第十七話目。
ちょっと、展開が思い浮かばなかったので、少し時間がかかってしまいました。
ネタが思い浮かばねぇ……。
次回、体育の授業風景をお送りする予定ですが、もしかしたら変わるかも知れません。




