俺とギャルゲー主人公は対立する
「簪神座。言い訳を聞こう」
目の前に立つのは、生徒の間では、何かが残念な先生という称号を欲しいままにしている、綴世月夜先生。独身である。チェックポイントであるにも関わらず、先生が俺の前に立ちはだかる理由など、一つしかない。俺は、昨今の鈍感主人公のように先生の怒っている理由が分からないなどと抜かすつもりは毛頭ない。榊と繋いでいるこの手が原因なんだろう。実に不本意ながら繋いでいる手だが、それを享受している俺にもまぁ、責任はあるだろう。けど。
「先生。言い訳とは一体なんですか?何に対して言い訳するんですか?」
「……君が杯と手を繋いでいる理由だ」
それは、先生が結婚できないことの八つ当たりですか。異性と手を繋ぐことすらままならないのですか。そのレベルでさえも、不純異性交遊となりますか。俺は、先生に反論を試みる。
「何故……ですか。そりゃ、はぐれたら駄目だからに決まってるじゃないですか」
怒気を含んだ声を軽く受け流し、言い訳を続ける。そろそろ、あれを発動しなければならないかもな……。
「それに、俺と榊が二人班になったのだって、班員が勝手な行動をとったからでしょう?先生だって見ていたはずです」
「む…………」
俺の必殺技である責任転嫁を発動する。失態?そんなもの他人に押し付けてしまえの姿勢での望むことがこの技のキーポイントだ。あと、本人がいる前で使えないのと、全く責任がない人には押し付けられないという弱点もある。つまり、責任が両方に等しくかけられている場合にのみ使用が可能であると言うことだ。決して、使いどころを間違えたらダメだぜ。
「じゃあ、俺と榊はもう行きますね。チェックもしたし、あとは自由時間かー」
じゃあ、あとは任せたぜ、楔に幸崎クン。後は任せた先にいく。俺はニヤリと(表情筋は例によってニートしてるので)心の中で笑った。ざまぁみろ幸崎。周りに流されて、優柔不断だから、怒られるんだ。もっと、幸崎はきっぱりとした態度を取ることが必要だな。
ああいうのが居るからこの世には悲しみに明け暮れる男子が生まれるのだ。俺は違うけどな。榊がハーレムに入ったら別だけど。全力で狩りにいくけどリア充ハンターとして覚醒するけど。
「さて、どこ行こっか」
「適当にぶらぶらしようぜ。どうせ、集合まで後二時だろ……二時間!?」
二時間って長すぎるだろう。いや、そうでもないか?大体、俺は家族に何か買って帰るようなことはしない。金ならわりと沢山あるのだが、家族が欲しがらない。買って帰っても、え?みたいな顔される。何故だ。もっと別のものを持ってこいって行っていたが一体何を持っていけばいいんだ。分からん。
「ねーねー、そこの女の子、俺と少し遊ばない?」
何度も言うが、榊は俺のみる限り学年一の美少女だ。それゆえ存在感が半端ないし、横にいる俺などかすれて見えるだろう。いや、アウトオブ眼中かも。つまり、俺が何を言いたいのかと言えば、それは榊がよくモテるということであり、町を歩けば、声をかけられるほどの美少女っぷりであると言うことだ。
俺は、どうしようかと考えていたが、榊が明らかに嫌がっているので、止めに入る。相手は、髪が短髪で右側にそりこみを入れており、厳つい顔をしている。あっ、これは助けを要請しなければならないやつだ。
俺は、携帯である番号に電話をかけ、そのまま放置する。そして、俺は男を睨み付ける。
「ちょっと、やめてあげてもらえますか」
「あ?なんだてめぇは?」
ひぃ!怖い。なんて言わねーよ。思ったけど。俺は無感情ではないが、無表情ではあるのだ。それを最大限に利用するべきだろう。こういう相手の場合、露骨に怯えた雰囲気を出してしまうのはマイナスにしかならない。故に、俺の無表情はここでは有利に働く。
「こいつの幼馴染みですよ」
「はっ!彼氏でもない、幼馴染みなら黙って見とけよ」
……こいつは馬鹿なのか?複数人でナンパしているならまだしも、こいつは一人だ。こいつの生い立ちなど興味はないが、どうせ、ろくでもないに決まっている。だから、俺は敵対するのだ。
「榊さん!」
男の横の方から声がして、男がそちらに気をとられ振り向いた瞬間、男は殴られて吹っ飛んでいった。ギャルゲー主人公のお出ましか。その隣では、楔が苦笑している。俺を置いていったことを俺は忘れはしないぞ。まぁ、今回はタイミングよく現れたからチャラにしてやろうとは思うが。それにしても、絡まれているところを見たのかも知れないが、幸崎の行動が急すぎる。暴力的だな。
「簪、なんでお前がいながらナンパされているんだ!?」
榊の心配をしながらも、俺に説教じみたことをする幸崎。うん、榊がナンパされようがされまいがお前には関係ないだろうが。少し、俺に的外れなこと言い過ぎじゃないか?だって、どう見ても俺悪くないだろう。
「ナンパしてるやつをいきなり殴り飛ばすような真似を俺にしろってか?」
「ぐっ……!けど、お前は何もしていなかったじゃないか」
え?俺、何もしてなかった?マジで?榊の方を見てみると、首を横にも縦にもふらず、肯定とも否定ともつかない。どっちだ。俺的にはやっていたのだが。
「主観か客観かの違いだな。遠くから見ているから何もしていないように見えただけかも知れないだろう?」
「だって、お前は携帯いじってたじゃないか!!」
「幸崎くん。それはね……」
「榊さんは少し黙ってて!!おい、なんで弄ってたんだよ!?」
榊の言葉を遮って、俺の胸ぐらを掴み、叫ぶ幸崎。なんか、イケメンが怒ると妙に迫力があるな。俺がやっても、半分ぐらいの迫力しかでなさそう。そんなに出ないか。俺は、そんな風に、彼の言葉をどこか他人事のように捉えていた。だって、実際そうだろう。喧嘩なんて、小学生以来の俺よりもこいつの方が腕っぷしが強いのは当たり前だし、俺は、暴力を奮いたくないし、奮われたくない。痛いのは嫌いなんだ。勿論、俺の大事な幼馴染みが俺が傷つくことで助けられるのなら、いの一番にそうするけど、今回はそんなに大事には至らない。相手が一人で至るはずがないので、余り積極的には関わらなかっただけだ。
「……神座、いこう」
榊は自分の話を聞かない幸崎とは、話にならないと思ったようだ。彼女は踵を返して先にずんずんと進んでいく。ちょ、待って!早い早い!俺は、胸ぐらを掴んでいる幸崎の腕を叩き落とし、彼女の後を追いかけていく。
「簪!お前には負けない!」
一体、何を負けないというのだろうか。俺には分からないが、幸崎がその気でも俺はその気にはなれない。だって、俺とあいつはどこまでも平行線で交わらないのだから。ハーレムを作っているだけでは飽きたらず、何のことかは分からないが俺に勝つと出たか。なんとも贅沢な奴だ。だから、俺は幸崎光輝という男が嫌いなのだ。
「お前みたいに、他者に与えられているばかりの人間には負けねーよ」
幸崎から離れ、榊の背中を眺めながら呟いたその一言は、誰にも聞こえることなく、人混みにかき消されていった。
第十話目。
歯切れ悪さもあるけれど、これで一章は完結。
次のイベントは一体何にしようか……。
次回の投稿は一ヶ月以内を目標としています。




