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俺と幼馴染みは彼を傍観する

 自分の人生の主人公は自分だ。

 この世には、そんな都合のいい綺麗事が存在するが、しかしそれは、綺麗なだけではない。その言葉は他者の人生にとっては自分は脇役でしかないということを指し示し、どれ程強大で、強力であろうとも、その役割から逃れることは出来ない。どんな人間であろうと、他者の人生に花を添えるだけの人間でしかないのだ。

 つまり、例え主人公と呼ばれるような完全無欠なリア充野郎であろうと、敵役と呼ばれるような性根が腐りきってる奴であろうと、誰かの人生においては花を添えるだけの脇役でしかないということであり、綺麗事に裏側が存在するとすれば、それは逆説的にこの世の汚さを証明してしまうものなのかもしれない。


「いい加減、その何かを悟った風に振る舞うの止めてくれない?」

「何を言うか。諦観、静観、達観、が俺のモットーだ。そのスタンスを崩すということは、俺の個性の一つを否定することであり、個性を殺すということは、俺自身を殺すことに他ならないと思わないか?」

「相変わらず、そういう屁理屈だけは流れるように出てくるよね……」


 依然、俺が自分の人生についてどう思うかを力説するとその考えを三秒で否定したのがこの女。俺が唯一下の名前で呼べる女子であり、幼稚園に入る前からの幼馴染みにして、成績優秀、容姿端麗にして運動神経抜群と、この学校の中でもトップクラスのスペックを誇り、教師受けもよく、実家は嘘みたいなお金持ち。彼女に告白して何人もの男子生徒が玉砕してきた。この学校のスクールカースト最上位に位置すると言っても過言ではない女子。それがこの女、(さかずき)(さかき)である。

 そんな完全に近い彼女が俺の幼馴染みをやっているのか、俺には不思議でならない。とっとと俺などとは縁を切ってしまえばいいのに。彼女の、唯一の欠点は俺とつるんでいることぐらいであるが、しかし彼女は何故かそれを認めようとはしない。俺からすれば、彼女の考えていることなど計り知れないが、所詮、度の知れた優秀が計り知れない優秀を自らの物差しで図ろうというのが土台間違っているということだろう。


「大体、お前はどうして俺のところにくるんだ?人望の厚いお前ならどこに行ったって馴染めるだろう」

「うーん?どうしたって、あれがあるから行きづらいんだよ」

「……あぁ、あれか」


 彼女が指差した先にあるものは、人の集団。朝にも関わらずご苦労なことである。それは、男子が一人だけのなのに対して女子が多数という、男子が女子を侍らせているように見えなくもない光景で、中心にいる人物はこの学校でも榊と同様によく顔の知られている、 幸崎(こうさき)光輝(こうき)である。

 俺が一年の間入っていたサッカー部の現部長で、そのリーダシップは素晴らしいと、余り友好関係の広くない俺の耳にも届くぐらいで、かつ、イケメン。勉強面では、テストなどでも必ず10位以内に入っているという、万能という言葉が似合う男で、全世界の男子を敵に回すような男だ。

 しかしながら、その高性能さ故に、彼に恋い焦がれ惹かれるものは、自分との歴然とした才能の差に気後れを感じ、告白することができずにいるのである。そして、出来上がったのがあのハーレム。なんとか自らの魅力で幸崎を落とし、彼から告白される。それこそが彼女たちハーレム構成員の悲願であり、あのハーレムが成立している理由で、そこに所属する恋する乙女たちは、周りのことは省みず、彼に一途な愛を注ぐのだ。その結果、他人にどれ程の迷惑をかけようと。


「女子ってのは笑顔でライバルを蹴落とすんだから怖いよな。なぁ、そう思わないか?榊」

「うん。一応、私も女子なんだけど」

「はぁ?んなもん見たら一発で分かるだろうが。お前を見て女だと、もとい、美少女だと思わないやつはいないだろーよ」

「……えぇ、え?も、もう!!無表情でそんなこと言わないでよ!!」


 どうやら、俺は無表情らしい。

 俺は別段そこまで喜怒哀楽を、示す方ではないというのは気がついてはいるのだが、そんなに俺の表情筋は働くことを放棄しているのだろうか。本人の意思を越えて動かないとかもう仮面じゃねぇか。帰ったら、顔の筋肉をほぐそうと心に誓ったのだった。


「そ、それで!?彼のことどう思う!?」


 彼女は切り替えるように、俺に詰め寄ってくる。きょ、距離が近い……。動揺しているのか、普段の優秀さをありありと見せつける彼女とは思えないぐらい、なにか焦っているようだった。話題の切り返しの仕方もなんか変だったし。


「お、おい。ちょっと詰め寄りすぎだ……」


 つい、本音が漏れると彼女はバババッと俺から距離を取る。あまりの迅速な行動に、俺は嫌われているのかと、思ったが、それならばまず近寄って来ないだろうから、違うだろう。


「ちなみに、俺はあいつと俺は真逆だと思ってる。性格とかがな」

「ふ、ふーん。そうなんだ」

「反応が薄いな。」

「いや、そんなことはないけどね。ふーん、神座と真逆かぁ……」

「俺の主観で言ったらの話だがな。まぁ、俺にもあいつにも男友達がほとんどいないから、客観的に見たら真逆とは言えないと思うが」


 だが、逆だ。似たり寄ったりとも、言えてしまうが。むしろ、男子の友人の数ではほぼイコール。女子の数は圧倒的に敗北しているが。仕方ない。そういう女性を助けるイベントが俺にはやってこないのだ。まぁ、幼馴染みがいるけど。これで、五分五分だ。何の話だよ。ま、まぁ、ハーレムなんて俺の柄じゃないし。女性のドロドロとした面なんて、俺は見たくない。


「おはよう。神座、杯さん」

「おう。おはよう楔」

「おっはよー!楔くん」


 朝の登校する生徒が増える一歩手前の時間に教室に入室してきたのは、可愛らしいとも格好いいとも付かない、ちょうど絶妙なバランスの顔立ちをした少年、草撫(くさなで)(くさび)である。身長は男子にしては低めで、髪の毛が腰まであり、男子にしてはとてつもなく長い。性格は聖人君子さながらであり、友達が多く、誰とも基本分け隔てなく接する。俺のような、外れ者とも会話していることから、それは理解頂けるだろう。


「幸崎くんは今日も大変そうだなぁ……」

「そうか?俺には楽しそうに見えるが」


 あれだけ女子に囲まれて、楽しくない男子がいるだろうか。いるな。少なくとも、俺は楽しくないわ。緊張して、話すこともままならなさそう。俺が間違ってた。


「まぁ、笑ってるし、いいんじゃないか?」

「あれは苦笑いだと思うけど……。それよりも神座、宿題やって来た?」

「……あぁ、当然だろう。っと楔。お呼びのようだぞ?」


 俺と同じクラスに存在するもう一人の外れ者、幸崎は女子に囲まれながらも、視線はこちらに向けている。より正確に言えば、楔に向けられている。楔は先程も述べたように、聖人君子と言っても差し支えない人間で、誰とでも分け隔てなく接する。それは、女子に囲まれてハーレムを築く男とて例外ではない。


「そんな風に、からかわないでよ。僕だって、気疲れぐらいはするんだから」


 俺にそう言い残し、幸崎の元へと向かっていく楔。女子に囲まれている男子へと話しかけにいく、つまり、戦争の真っ只中にこれから入ろうとするその後ろ姿からは、何の気負いも感じられない。すげぇわ、楔。俺はお前を尊敬する。


「楔くんも大変だよねーー」

「その意見には同意する。俺だったらボロボロになって帰ってくる自信がある」

「そんな歪んだ自信要らないんだけど……」


 そりゃ、そうである。俺も無傷ですむならそれでいい。というかそれがいい。だが、俺が行ったら絶対に俺のハートに傷が入り、メンタルがボロボロになるまで傷つけられる気がする。まぁ、呼ばれることなんて万が一にも起こりうらないのだが。


「あいつは人がいいからな。何処かの誰かみたいに出来すぎていると言ってもいい」

「あっはっはーー。そうだね。楔くんは誰かみたいに本当にお人好しだよねーー♪」


 楽しそうに笑いながら喋る彼女との言葉のニュアンスに若干の違いを感じとりながら、面倒なのでそれは追求せず、俺は鞄から朝の宿題を取り出す。やったのはやっていたが、楔に言われるまで存在を忘れていた。職員室まで提出しに行かなくてはならないのだ。幸い、まだ一限目が始まるまで時間があるので、提出出来そうだ。


「あれ?神座まだ出してなかったの?」

「あぁ、出すの忘れてた。楔に感謝だな」


 彼女は俺のノートを見て一発で宿題だと見抜き、俺に疑問を投げかける。彼女に限って、出し忘れなどあり得ないだろうから、もうとっくに出しているのだろう。


「じゃあ、課題出しに行ってくるわ」

「うん。行ってらっしゃーい。楔くんは私が見とくから安心して行ってきていいよ」


 彼女は、職員室に行くために席を立ち上がった、俺に手を振る。俺は、それに答えるように、課題用の提出するノートを持っていない方の手で、後ろ手で彼女に手を振り替えし、教室に登校する生徒の流れに逆らうように職員室へと向かった。

目指せ、完走。

そんな感じで書き出しました。

更新は非常にゆっくりでしょうが、最後まで書き上げて見せるので、どうかお付き合い下さいませ。

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