007
「あんたと闘う時が来るとはね…油断しなけりゃよかった」
「…俺もこのまま勝ち進めば団体戦だ。負けないぜ…。」
二人は闘志に満ち溢れていた。
しかし…
「あ、あの…二人は別に…」
後輩が物を言いかけたとたん、
『審判よろしくっ!!!!』
「は、はいっ!!!」
後輩も二人の勢いに負けて、言いかけていた事を廃棄処分し、主審をやらされた。
他の同級生も試合があったりで、主審、線審は後輩たちが引き受けてくれたようだ。
「絶対負けねえ!!」
「それはこっちのセリフよ!!」
「じゃ、じゃあじゃんけん…」
『じゃんけんしょっ!!!!』
後輩が言い終わる前に俺らはじゃんけんで先攻後攻を決めてしまう。
笠島がパーで俺はチョキ。
先攻は俺だ。
「あ、で、では試合開始します…ラブオールプレイ!!」
「お願いします!!」
「お願いしやッす!!」
確か練習のときには奴は中途半端な位置のロブに弱かったはずだ…。
パァン
カァンッ
「なっ…!」
やはりだ。今のは打ち損ねてフレームに当たった音だ。
この位置からか…っ
「せぇい!!」
パシィッ
「んっ!!」
パァン
「何!?」
遠くにクリアを打たれてしまった。
いやこれは… ハイクリア!!
俺の最も苦手なバドミントンの技。
クリアの最上位技で最も遠くに羽を飛ばすこと。
男子ならばスナップの利かせ次第で出来るが女子となると相当力を必要とする。
と、すると奴は相当な練習をして筋力を付けたとみられる…
「届くか…!!」
ガッ
コトンッ
「サービスオーバー、1vs0!!」
1点、先制されてしまった。
しっかし…1点1点の争いが長すぎる…。
さっき試合したばかりの俺の体力がもつか…?
「…最初から激しすぎませんか隆先輩…」
「…団体戦掛ってるんだからな、そりゃそうだ!」
俺は後輩の方を見ずに応える。
「いや、そうじゃなくて先輩h…」
「いくよっ!!」
パァンッ
後輩の言葉は羽の打たれた音でかき消されてしまった。
【しばらくして3セット目】
「ハァ…ハァ…やるわね…山下…」
「…ハァ…くっそ…お前も随分と…体力が…」
現在は3セット目の試合。
笠島が20点、俺が19点を取っている。
1セット目は笠島に取られてしまったが、2セット目は俺が取り返して3セット目だ。
しかし、あと一点で俺の方が負けてしまう。
…ここで負けるわけにはいかない。そんな気がした。
「サービスオーバー、20vs19!! マッチポイント!!」
「さぁっ!!」
パァン
…なっ!?
まずい、油断してショートサービスライン間際に打ったと思っていたがロングサービスラインまで打っているだと…!?
「くっそぉー!!!」
俺はシャトルランで鍛えたその脚力でコートの後ろ側ギリギリまで飛び、バックハンドで必死に返す。
しかし、その飛距離はそうでもなく、ネット間際にいた笠島の元へ返って行き、笠島が冷静にヘアピンでネット下へシャトルを落とす。
…間に合わない。
いくらなんでもこれは間に合うわけがない。
兎のように飛ばなければ…
…兎のように?
俺は一心不乱でその身を空中に投げだした。
草原を駆け抜ける野兎の如く、足の筋肉をフルに使って身を投げ出した。
「届けぇぇぇ!!!!!!」
「無茶だ!!いくらなんでもそれは先輩が危ないですよ!!!」
そんな後輩の叫びも俺には届かなかった。
カァンッ!
渇いた金属音がコート内に響いた。
シャトルがラケットのフレームに当たった音だ。
ギリギリで、間に合わなかった。
しかし…
「そこまでぇ!!!」
顧問の声が体育館内に広がる。
そりゃそうだ。メガホン使ってるもん。
滑り込んだ俺はネットを通り越して笠島の足元まで飛んでいった。
…え、足元?
「…ヘンタイ…。」
「え」
「変態!!」
ガスッ
一発、軽やかな蹴りを入れられて俺はコートの外へ飛んでいった。