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ツバサに乗せた想い  作者: 与茂内 翼
First: 出逢い
4/15

003

夏期講習の授業時間。

既に1時間目は終えていて次がラストの2時間目。

午前中で終わるとは、案外部活動真っ盛りの中学生には優しい塾である。

…その分、朝は普段の学校と大差ない時間帯から始まるんだが。


この時は何日か講習が過ぎた日で、杉山とも仲が良くなっていた。

休み時間はお互いに話したりする程度で、とくになんとも思わない、普通の友人だった。

…俺は異性の友人というのは信じている方なので、何とも思わなかったが、秀などに色々と言われることもあった。


「んじゃ、次数学な。教科書出してー。」


先生が言うと、皆が教科書を出して授業体制に入る。

…しかし、杉山だけは違っていた。


「…えっ…うそ…えぇー…」


と、小動物みたいにあたふたしながらカバンの中を探す。

しかし、お目当てのモノは無いようで、仕方なく前を向いて普通に授業を受ける。


「(…あいつ、教科書無しで授業受けるのか。…まぁ、頭は良いみたいだしなんとかなるか。)」


…しかし、そんなごまかせるような時間は無く、すぐに悪魔が襲ってきた。

数学だけにラプラスの悪魔? 

…そんなに難しい問題ではなかったけど。


「んじゃーここの問い1の問題を杉山。読んでくれ。」


「ふぇっ」


ふぇっじゃねぇよ…


とか思いつつも俺の顔が紅潮して行くのが分かった。

…あぁ、俺、萌えたんだな。今ので。


「どうした?杉山。」


「えぇ、あ、8xです。」


答え言っちゃったよ…

問題言ってからみんなで解く奴だよそれ!!

頭良いのな!


「いや、あー、うん、正解なんだけど分からない人もいるから問題読んでくれるか?」


「いや…その…」


と、杉山は慌てる他なかった。

どうやら忘れたことを恥ずかしがって言えないらしい。


「(…柄にもねーけど。)」


「ほらよ。使え。」


ほらよ。じゃねーよ!!

めーっちゃ偉そうじゃん俺!!


俺は見るに見かねて教科書を杉山の方を見ずに突き出した。

…えぇ、すごい厨二病。これがカッコ良さそうに見えたんでしょう。

杉山は満面の笑みを俺に向けて、


「ありがとっ!」


と、言った。

照れくさくて、返事もしないままその数学の授業は終わった。

…先生とかに茶化されたのは言うまでもない。



その日の授業終わり、杉山が俺に話しかけてくれた。



「さっきは、ありがとね。入れたと思ってたのに間違えてナンクロのテキスト入れちゃった…」


…ナンクロと数学を間違える奴が何処に居るんだ

いや、俺の目の前にその一人が居るんですけども。

神レベルの天然さんか?こいつは。


「良いって良いって。んじゃ、俺部活あるから先帰るわ。」


「奇遇だね。私もこの後部活なんだよ!」


この会話が、新しい未来の分かれ道を決める鍵となった。


「へぇー。なんだ?待って、言わないで。俺が当ててやる!」


「分かるかなぁー?」


悪戯っぽく笑った杉山は、一層可愛く見えた。

…笑顔が似合う奴だなぁ。モテルンダロウナキット。


「吹奏楽部?いや、美術部!」


「はずれー。文化系じゃないよー。」


「あぁ?じゃあテニスとかバスケ?」


「ぶっぶー。マイナーなのかなぁ。このスポーツ。一応オリンピックにもあるんだけど…。」



…この状態で既に絞られた。


今まで言ってない中でオリンピックにもある。


まさか…まさか…



「バドミントン?」


「正解!!面白んだよバドミントン!」


「…俺も、バドミントン部だよ。」


「…え?」



カチャン と、


二人の距離が、縮まったような音がした。

それは未来へと続く扉の一番最初の扉のカギ。


鳥で言うと羽。


ツバサにはまだ遠いけど、ひとつだけ小さな卵が産み落とされたような…

そんな感覚だった。

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