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「ふわぁーあ。」
大きなあくびをする隆。
現在は6時間目の理科。給食が終わってからだと恐ろしく眠い。
「こらっ、山下、あくびするな!もう終わるから辛抱しなさい!」
「へーい…。」
理科の授業はオーバーヘッドプロジェクター…通称OHPを使って行われているために教室が暗く、寝る人が出てくる。
しかも今日のような雨の日はなおさら暗い。
「前よだれ垂らしてたんだからね。誰が拭いてると思ってんのよ。」
「…誰だよ。」
「麻衣だよ。」
「え、お前拭いてたのかよ。」
「…汚いし。」
こいつは笠島愛。と朝比奈麻衣。
前者の言動が粗い方が笠島で、後者のぶっきらぼうな方が朝比奈だ。
朝比奈は一応、小学校の時からの付き合いで5年間もクラスが一緒の腐れ縁。
どちらも同じ部活動に通うただの同級生で現在は俺の斜め後ろの席が笠島、隣が朝比奈。
まぁ、今は普通の部活仲間なんだが、後後キーパーソンになる輩である。
「はい、今日の授業は終わりにしよー!んじゃ、残り5分くらいうるさくしないで自由な!」
と、先生が言うと俺は席を立ち、電気を付けてカーテンを開ける。
そしてOHPを片付けて終了の準備をする。
「いつもありがとうな、山下。」
「いやいや、学級委員長の仕事はこれくらいですから。」
そう言いきって隆はOHPを教室の外へと運んで行った。
「(雨か。今日はランニングできないかなぁー…。)」
そんな事を考えながら廊下を歩く。
そうして作業中に丁度授業終わりを告げるチャイムが鳴る。
放課だ。
帰りの総合の時間になると、担任の熱血先生が言った。
「さて、お前ら6月になると修学旅行だ。そろそろ班決めをしなければならない時期が来た。
そこで、これを機に席替えをしようと思う。くじを作ってきたから廊下側と窓側から順に一人ずつ来い!!」
「よっしゃぁ席替えだぁ!!!」
と、男子は歓喜の声で満ち溢れる。
「…よーやくお前と離れられるな!笠島。」
「せーせーするよ!」
お互いに拳同士ぶつける。仲が良いんだか悪いんだか。
しかし、これがフラグだと言うことは誰も予想だにしなかった。
隆と笠島がくじを引く。
「…お、1番か。…うわ、前の席かよ…。えっと、隣は…30番の奴か。誰だ?」
「あ。30番。えぇー? 前の席かぁ…。隣は…1番の人かぁ。誰かなぁ…って」
『お前かよ!!!!』
お互いに指を指して叫ぶ。
教室はいきなり静まり返り、とたんにからかう声が聞こえてきた。
「ひゅーひゅー、お似合いじゃねぇか!!」
「腐れ縁だねぇー」
「う、うるせぇ!!ぶん殴るぞ!!」
と、最初の奇跡に繋がる何気ない席替えがこの後の未来を大きく変えたのだった。