011
5月中旬なのにも関わらずものすごく暑い体育館の中。
二人の少年が、引退を掛けて…もしくは、次の大会の出場権をかけて闘っていた。
パァンッ
「あっ…やべぇっ!!」
バックハンドでクリアを返す山下。
だがネット間際にいた白馬の不気味な笑顔がこちらの目に飛び込んでくる。
コォンッ
ネットすれすれに、シャトルを落とされた。
「ドンマイ、頑張!次集中っ」
「…ハァ…ハァ…くっ…」
シングルスでは珍しく、相手がロングサーブを打ってきた。
わりとサービスラインより下にいた山下は機転を利かせ、ドロップショットで返す。
だが、ネット間際に落とされるのは分かっている…
「コォンッ」
「しめたっ!!」
素早いフットワークでネット間際まで瞬時に移動し、落とされるシャトルをヘアピンで落とし返す。
コツンッ
「ナイスショット!いいぞ!もう一本!!」
しばらくこの試合が続き、
お互いが1セットずつ取った最後の3ゲーム目。
第2試合にもかかわらず異例の試合で、既に30分は彼らの攻防で使い切っていた。
山下が汗をマネージャーに拭って貰ってる際に、同級生の寺岡が声を掛けてくれた。
寺岡は既にCリーグでの決勝進出が決まっていた。
「山下、Bリーグの試合はお前らのせいで遅れてるぞ?どうしたんだよ。」
「うっせー。なかなか相手も粘ってるんだよ…。」
「…いいや、相手はそこそこ疲れている。俺は2ゲーム目からしか見てないが、
お前と互角くらいの強さだ。体力はお前の方が勝ってるようにも見えるぜ?」
「そうだったら良いんだけどな…。何か秘訣はあるか?」
「お前のやり方で良い。朝比奈や笠島とやってるときを思い出してみろ。
特に、あの時のお前の根性には俺も勝てねぇよ。このノウサギが。」
「俺のやり方ねぇ…」
山下はラケットのガットをポンポンと叩きながら考えた。
…そうか、ウサギ…
「分かった。俺のやり方で頑張って見るぜ。ありがとな、寺岡。」
「良いって事よ。じゃ、決勝で待ってるぜ?」
「おう!」
お互いにウインクをして、拳をぶつけ合ってから山下はコートに、寺岡はロッカールームへと戻って行った。
「3《サード》ゲーム、ラブオールプレイ!!」
審判の掛け声とともに、最終ゲームが開始された。
最初は山下のサーブ。軽く山なりに上げた後に、白馬にドロップで返される。
しかし山下も負けじとドライブで打ち返す。
「くっ…!」
パァン
「はっ」
白馬がハイクリアを上げてきた。これはチャンスだ!
「いっけえ!!」
後輩たちが叫ぶ。その応援と共に山下がジャンピングスマッシュを撃つ!!
バシィッ!!
カンッ
コート内にシャトルが転がり、1点を先取した。
「ナイスショット!いいぞ!もう1本!!」
「山下ァ!!行けるぞぉ!!」
「…いや…まぐれだ。あいつが今のを返せないわけが…」
パァンッ
弾けるような音と共にとても高いサーブが上がった。
油断していた山下は球を見失った。
「しまったっ!」
闇雲に後ろに走って行って、かろうじて白く見えた物を前を見ずに頭の上で返す。
「なっ!?」
「あいつ、レベルが上がってる…」
しかし、それは甘かった。
簡単にネット間際に落とされて1vs1にされる。
その後、ただひたすらに撃つだけではなく、試合中にも着々とレベルが上がっている山下を見て
先生までもが応援に乗り出した。
しかし、アドバイスなどはせずただひたすらに見ているだけ。
「…先生、山下…」
「あぁ。あいつはやってくれるかもしれんな…。」
白雪中学校のバドミントン部は、決勝戦でもないにもかかわらず、全力で応援し続けていた。
そしていつしか、昼の時間にまで喰い込み、他の中学校からも人が集まって会場は大いに盛り上がる。
2人の選手はほぼ互角の状態のまま18対17を迎えた。