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仲間たちは、これまでに続けてきたトレーニングを活かして体力や技術を身につけてきた。
そして、この自分だって冬の間めげずに勉強とトレーニングを両立させてきた。
ランニングのタイムも向上し、テクニックだって前より上手くなったはずだ。
そして何より、さっき杉山に「頑張れってね!」と言われた。
…ん?
なんで杉山に言われたからって頑張れるんだ?
あ、いや頑張ってねって言われたら頑張るしかないけど…
…もやもやする。
そんな事を思いながら、俺は試合に臨んだ。
「山下ぁーッ!!これに勝てば準決勝まで進めるぞ!!」
「おうよ!任せとけって!サンキュ!」
軽く笑いながら山上や五嶋に感謝する。
「…だがよ、相手はあの白馬守だろ…?
勝てるのかこの試合…」
「諦めたらそこで試合終了ですよ…」
「うるさいよ安在先生。」
白馬守。鏡野中学校最強と呼ばれているバドミントン選手。
当然、昔の山下なら勝てるような相手ではない。
そして、今も互角に戦えるような相手ではない。
「…ヤケクソだな。引退試合がここで終わりとは情けない…」
と、呟いてコートの中に入る。
すると相手側コートの応援席に、杉山の姿が見えた。
そしてこちらの方を見て、ガッツポーズをしていた。
「…へっ。あいつ、呉越同舟じゃねぇか。」
山下も、杉山にガッツポーズを返した。
「白雪中、山下隆 対 鏡野中、白馬守の試合を開始します。
ファーストゲーム、ラブオールプレイ!」
「よろしくお願いします。」
「お手柔らかに…ッ」
ショートサーブから始まった1セット。
線ギリギリに落としたが、やはり見切られて高くロブを上げられる。
「くっ、届け…っ」
パァンっ
「…ッ」
1ターンが非常に長い。
お互いに負けられない試合なのだろう。
と、ここで山下がミスをする。
スマッシュを失敗してネットに引っかけてしまった。
「ドンマイ頑張っ、次集中!!」
白雪中の独特の応援が体育館内に響く。
「山下先輩がんばれぇ!!」
「分かってるって…!」
パァンッ
しばらくの間、渇いたシャトルの翼の音が響き渡っていた。