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物語の始まり
物語は、いつでも媒体の向こうだった。色鮮やかに描かれた文章や絵や、テレビ画面のその向こう。
毎日を平凡に過ごすことを望んでいた。弟とは喧嘩ばかりだし、父親とは反抗期だからと言い訳して口を利かなかったこともあった。学生のときはテストの結果に一喜一憂した。就職の面接は緊張しすぎて頭が真っ白になっていた。恋もした。それなりに生きてきた。
怪奇現象は起きた事もなく、家族に交通事故が起きた事も、それを見たこともない。戦争だって悲しいことではあるけれど実感はわかない。普段の生活から切り離された出来事は、全て何かの向こうだった。
これからも、いつか結婚して、子供が出来て、死ぬまで、この平凡な生活がずっと続いていくはずだった。
今日、弟が行方不明になった。