5年戦争終結10周年記事、重雷装宇宙駆逐艦島風の場合
私は、小綺麗に整えられた手狭な会議室の中で外ゆきの笑みを浮かべ、一人の老人に話しかけた。
「こんにちは。中央新聞社で記者をやっている大宮です。本日は5年戦争のお話を伺いに参りました」
それに対する彼…永田さんの反応は素っ気なかったと記憶している。あの時は無愛想な人だと思ったが、今思い返せば私の笑みが作りものであると薄々感づいていたのかと思う。そこから最近の生活や物価などの当たり障りのない会話を5分ほど続け、やっと本題に入ったと記憶している。では、会話の内容を記していきたい。此処から先は基本的に永田さんが喋りっぱなしだった。時たま私も質問をしたが、取材という面から見るとあまりにも文量が少なかった。そこで、私の質問の時だけ工夫して記録しようと思う。
ーまず…自分が乗った船の名前だが、島風型宇宙駆逐艦という駆逐艦だった。自分は兵学校の時から戦艦勤務を希望していたから、かなり残念がっていたと思う。しかも、自分は砲術科を卒業していたから、そのまま主砲照準士に配属された。これが何よりも悔しかった。というのも、駆逐艦というのは雷撃特化の戦術を取っていたから、主砲はお飾りみたいなものだった。実際、土星沖前哨戦の時まで自分が戦場にいるという自覚はなかったし、どこか他人事だったと思う。ー
「土星沖前哨戦についてお話を聞いてもよろしいですか?」
私はこれまでのセオリー通りに質問をしたが、彼は随分と興ざめしたような様子で返事をした。私はこの瞬間に、自らの過ちに気付いたのだ。彼は私の質問に詳しく答えることはせず、後で話すとだけ言って話を続けたのだ。
ー戦争が始まった時…その知らせを聞いたのは確か島風の船室だったが、同居人の一人…ベッドは4つあるのだが、その時には自分と彼しかいなかった。その彼はたいそう喜んだ様子だった。というのも彼は魚雷の担当だったので、最も戦果が期待できるのだ。一通り騒いだ後で彼は自分に向かって、今に戦艦を沈めてやる、と興奮した様子で言った。そこからは任務続きの日々だった。島風は前線勤務となったのでよく敵の艦隊と接敵したが、大体の場合、隠密性を保つために主砲は撃ってはいけなかったので、自分含めて3人の主砲担当者は退屈そうであった。そんな任務が3回ほど続き、同居人の機嫌はたいそう良くなった。4回目の海戦は今までとは違い、砲撃戦が起こった。というのも、自分らの艦隊は奇襲に失敗し、敵の目前に飛び出すこととなったのだ。「砲撃戦用意」という艦長の声がすると同時に最も近い敵艦に照準を合わせようとハンドルを回した。艦橋後部を縦に貫く円柱の隔壁の向こう側から甲高いモーター音が鳴り響き、数秒後のガコンという音とともに、自分は「砲撃用意よし」と返した。それとほぼ同時、或いは直後に艦橋は明るい光に照らされた。それが敵の砲撃だと気付いたのは、しばらくの呆然の後であった。幸い、砲撃は上方に外れた。ここで少し意外だったのは、映画やアニメと違って全く音が聞こえなかったことである。これは自分にとっては幸運であった。もし音が聞こえていたら、自分は震えて動けなくなっていたかもしれない。音がしないという非現実感が自分を現実に引き戻してくれた。その後、艦長の号令とともに自分は主砲を発射した。この時艦長は撤退を決めたようで、数発の主砲を撃った後に船体が傾き照準器から敵の姿が消えた。その後、急いで照準をつけ直し、射程ギリギリまで砲撃したが、結局1隻も沈められなかった。ー
彼はそこで話を切った。記者として、無言を貫くというのはいささか格好が悪いので、私は彼に質問をした。
「主砲は的に当たったのですよね。やはり砲撃で沈めるのは難しいのですか?」
質問の後、私はその事を後悔した。先程彼が私の質問を無視したことを思い出したのだ。しかし、私が当然のように思い至った予想に反し、彼は待ってましたと言わんばかりに私の質問に答えたのだ。
ー宇宙における砲撃戦というのはね、当てることは難しくないんです。レーザーというのは真っすぐ進みますし、弾速も早い。でもね、自分が撃ったのは駆逐艦に乗った15センチ砲です。威力が低すぎてろくに損傷を与えられなかった。技量は訓練でなんとかできても、そもそもの威力というものはどうにもならない。結局、どの戦いでも主砲で敵を沈めるという経験はできなかった。ー
彼は教師のようにもったいぶって話し始めたが、終わる頃には普段の調子に戻っていた。それが少しばかり愉快であったので、私は少し笑ってしまった。彼も亦気付いたようで、バツが悪そうに顔をしかめたが、一瞬の空白の後に話を再開した。
ーそれからしばらく経った後のことだが、自分らの駆逐隊は土星沖の基地に配属になった。その時はただの配置転換だとしか思っていなかったし、艦長も特段事情を説明したりしなかった。だから、それが正規の大海戦になるとは予想していなかった。土星沖に配備されて1週間と少しが経った時、自分らの駆逐隊には任務が言い渡された。その任務というのは、土星衛星の警備でしてね。仲間とはついに戦闘か、と話しながら来たので、皆の気分が盛り下がっていくのが目に見えて分かりました。基地から発進した時、味方の戦艦部隊が自分らの真横を通って基地に向かっていましたが、それがあまりにも大規模な艦隊だったので、外聞もなく興奮して写真をたくさん撮ったことをよく覚えている。警備を始めて3時間くらいたった後、岩石裏に隠れて待機しろ。との命令が下ったようで艦橋にいた士官達は随分と混乱していたように見えた。ー
「ところで、ずっと気になっていたのですが永田さんは艦橋にいたのですか?資料では主砲科所属と書いてあったので気になりまして。」
彼はきょとんとしたような顔を一瞬浮かべ、その後合点が行ったように頷いた。
ーそういえば、説明してなかった。確かに少しわかりにくかったか。島風型は艦橋…まぁ塔というよりかは爆撃機のキャノピーみたいな感じだったが。そのすぐ後ろに主砲があったので、主砲の射撃指揮所は艦橋と隔壁1枚挟んだ後ろにあった。しかも、指示が通らないことを嫌がって、艦長指示で隔壁を開けていたので艦橋の様子が丸見えだった。という寸法です。ー
「なるほど、そういうことでしたか。ありがとうございます。」
これで大丈夫かね。と彼が言って私がそれに頷いたので、一息ついた後、彼は話を再開した。
ー待機を初めてしばらく経った後、突如として敵艦隊が現れた。距離はたしか4キロも離れていなかった。その時は、手を伸ばせば敵艦に届くのではないかと錯覚した。
艦長は待機を命じたが、その間にも敵艦はどんどんと増えていく。10隻…30隻…数えただけで50隻はいたと思う。というのも、砲雷撃戦用意が命じられたので、そこで数えるのをやめて準備に取り掛かったからだ。数刻の後、「最大戦速」の号令とともに鈍い振動と耳に障る甲高いエンジン音が伝わり、ついに戦闘が始まるのだと覚悟した。島風は敵艦に向かって突撃をしたが、このときの自分は島風がまさかこれほど快速だとは知らなかったので、その速度に驚いた。というのも、普段の戦闘では最大戦速なんて出すことは無かったし、機関科というのは自分になんの関係もない場所でしたから。それからしばらく進んだ時、敵艦が自分たちに向けて撃ってきた。照準器越しに見たレーザーがほぼ真円に見えたので、これは当たるな。と思ったが、その砲撃が命中したのは島風ではなく、斜め前にいた駆逐艦弥生だった。艦首のど真ん中に命中した砲撃は弥生を文字通り貫通した。弥生はほんの一瞬縫い付けられたように硬直した。直後、艦中央が膨張し舷窓からやけに明るいオレンジの爆炎が一瞬ちらついた後、弥生は爆沈した。島風は爆沈した弥生のすぐ横を通り抜けたが、生存者は見えなかったし、見えていたとして救助のために減速することはしなかったでしょう。「砲撃用意」の声が聞こえたので、自分は見えている中で最も小柄な敵艦に照準を合わせた。「射撃用意よし。目標右33度巡洋艦。」一泊の後、甲高いモーター音とかすかな振動。エネルギー充填を知らせるブザー音と至近弾の閃光。使い慣れた射撃指揮所は戦争の形相を見せた。「仰角12」測距員の声を聞き、照準を修正する。自分は訓練通りに動いたつもりだったが、こうして振り返ると幾分緊張していたと思う。「射撃、よーい良し」直後、「砲撃はじめ」の声に合わせて自分はトリガーを引いた。今だからこそ言えることであるが、自分はあの時、「砲撃はじめ」の声の主が誰であったかを知らぬままに射撃を始めた。それほどまでに緊張していたと自覚したのは戦闘が終わった後だった。ともかく、自分がトリガーを引くと同時に、いささか頼りない音とともに主砲が発射された。主砲は敵の土手っ腹に命中しました…しましたが、その後、明後日の方向に青い線が向かっていた。つまるところ跳弾した。この艦の主砲は敵の装甲を貫徹できなかった。艦長はそれを見るなり面舵いっぱいを命じた。主砲による近距離砲撃戦を諦めて、魚雷で敵を沈めようと言う算段だったのだと思う。「面舵いっぱい」の声の後、速力変更を指示する昔ながらのベルの音とスラスターの駆動音、少し遅れて艦首は一気に右に向き、さらに轟音。そして体が持っていかれるような感覚。照準器越しに見える美しい土星と敵艦は姿を消した。「主砲射撃角度修正、左110度俯角14」測距員の報告が素早く飛んできたので、慌ててハンドルを回す。主砲を射撃すると同時に伝声管より悲鳴のごとき報告「至近弾!」刹那、旋回によって持ち上がった艦首を縦に貫くレーザーが見えた。この時前部魚雷発射管には炸薬量1.5トンを誇る重魚雷が5本全て装填されていた。これに当たらなかったのは奇跡と言う他無い。突き上げるような衝撃と警報音。それまで緑に光っていたボタンが示し合わせたように赤くなる。「被害知らせ」航海長の声に自分は被害なし、と大声で返した。航海長が自分以上の大声で「うるさい、そんな大声でなくたって聞こえるわ」と言ったので、それがきっかけで少しばかり気が楽になったのを覚えている。艦長より「左舷雷撃戦用意」の号令。魚雷発射管は主砲より重い筈なのに、主砲よりも滑らかに、かつ素早く旋回する。主力戦艦ですら一撃で沈めうる魚雷の本領を発揮できると言うのだから、魚雷とは無関係であるはずの自分も言い様のない高揚感を抱いた。「魚雷斉射」の号令の後、圧搾空気が魚雷を押し出す低い破裂音と、魚雷と発射管が擦れる甲高い音が10回連続して聞こえた。その直後、艦橋を目を刺すような明るい光が照らした。後方に追随していた駆逐艦白露の最期の姿であった。自分は白露が被弾したその瞬間を見ていないが、つかの間の呆然の後、刺すようなブザー音。主砲の装填を知らせるブザーがなったのだ。自分はつかの間の呆然から即座に現実へと引き戻された。慌てて照準を合わせ…と言ってもだいぶ大雑把であったが、ともかく敵に照準を合わせて撃ったが、結局その結果は跳弾であった。「面舵40」艦長の指示に合わせ、船体が傾く。その時妙にゆったりとした動きだったのは、左舷の艦首スラスターが破損して使えなかったからだと思う。その間も敵の砲撃が近くを通り過ぎ、艦橋を明るく照らす。そして、島風は敵艦隊に背を向け全速で撤退したが、その時敵艦隊の中に島風より少し小さいくらいの、4〜5個の火の玉が見えた。自分と、艦橋メンバーはそれが魚雷の爆発であると直感的に気付いた。艦橋の騒然は息を沈め、警報音と主機関の唸るような動作音が妙によく聞こえた。艦橋から聞こえる、疑問を提示するような、或いは隠しきれない歓喜が漏れ出たような「当たったか?」「当たったよな」というささやき声。興奮を抑えきれなかったであろう観測員の報告が伝声管を伝わって聞こえた。「敵艦に魚雷命中。数8、敵戦艦1隻轟沈確定」直後、何かが床に落ちたような音。自分が覗き込むと、いつもは背を張って厳しかった水雷長が魚雷発射指揮装置に寄りかかって床に座っていた。自分はこの時初めて戦闘が終わったのだと実感した。ー
彼はそこで話を終えた。一息つき、机においてある茶を飲んだ。私と彼の二人しかいないインタビューであるはずなのに、どこか別のところを見ていた彼の瞳が、久方ぶりに私の姿を捉えた。今は私の番であると直感して、彼に質問を投げかけた。
「その後、島風はどうなったのですか?」
彼はこの質問を予想していたのだと思う。一拍を置き、背もたれに体を預け、ゆっくりと話し始めた。
ー本来、島風は一度補給に戻ってもう一度雷撃を敢行する手筈でした。ただ、艦首の損害が大きかったので、次の雷撃には自分らとは別の駆逐隊…たしか第67駆逐隊が向かいました。でも、ただの1隻として戻っては来ませんでした。その後島風は修理と改装のために内地に行くこととなった。その後、どういうわけか1週間も立たずに新品同様の島風が帰ってきた。あの損傷を直そうと思ったら1ヶ月はかかるはずだと思っていたので、たいそう不思議だった。その後は戦闘の機会には恵まれず、こうして生き残ったというわけです。ー
「その後にあった火星絶対防衛圏の戦闘には参加しなかったのですか?」
ーしなかった…というよりできなかったらしい。決戦兵器である対艦刺突剣は島風につけるには小さすぎましたし、島風の主力兵器である魚雷は迎撃方法が確立されていましたから。その頃には、島風は輸送艦や護衛艦としての任務のほうが多かった。ー
「なるほど…貴重なお話をありがとうございました。」
…記録するに値する話はここまででした。この後は、いつも通りの、宣伝であったり次の取材の話であったり、そのような会話をしました。追記として、彼の兵学校時代の友人で、5年戦争時に戦艦コンカラーに乗務していた間宮裕二という方について。取材ができるようだったらアポを取っておきたいです。
では、記事にするときには良いように計らってもらって。永田さんの写真と島風の写真をいくつか添付しておきます。
中央新聞社/社会部/大宮




