表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

【第5話:勇者、魔王に拾われる『ならば、私が最強の闇へと変えてやろう』】

【第5話:勇者、魔王に拾われる『ならば、私が最強の闇へと変えてやろう』】



「ごちそうさまでした……」


アレスは最後の一粒まで、差し出されたカレーを夢中で胃に流し込んだ。

空腹が満たされるにつれ、絶望で冷え切っていた体に、魔剣から恐ろしくも力強い熱が流れ込み、全身に広がり始める。


「約束は、守ります。僕はあなたの剣だ」


アレスが顔を上げ、夜空に向かってそう誓った瞬間だった。

足元の影が不自然に伸び、まるで生き物のようにアレスの体にまとわりついてくる。

それは瞬く間に巨大な黒い渦となり、アレスの視界を真っ暗に塗りつぶした。


「うわっ、なんだ……!?吸い込まれる――!」


抵抗するヒマもなく、アレスの体は深い闇の底へと引きずり込まれた。




次の瞬間、アレスが目を開けると、そこは先ほどまでの湿った洞窟ではなかった。

さっきまでの汚い泥水と暗闇の世界から一転し、そこは歴史ある王城のような、気高い空気に包まれていた。


「ここは……さっきまでの不気味な洞窟とは、全然違う……?」


驚きながらも、アレスは握りしめた魔剣の重みを感じた。

静寂に包まれた広間。窓からは紫色の月光が差し込み、磨かれた石の床を冷たく照らしている。


「……来たか。闇の勇者、アレスよ」


広間の奥、階段の上の玉座に座っていたのは、漆黒のコートに身を包んだ〝主〟であった。


魔王ユピテル。

眩い金色の長髪と金色に輝く瞳。頬杖をつく姿は、凛々しい貴公子のようでもあり、美しい女神のようでもある。

その端正な顔立ちは、冷たい大理石の彫刻に命を吹き込んだかのような、神秘的な美しさだった。


「貴方が……魔王……?もっと恐ろしい怪物だと思ってました」


アレスは、無意識のうちに魔剣を杖代わりにし、その場にひざをついていた。

目の前の人物から放たれる圧倒的な威圧感が、逆らうことを許さない。


「化け物を期待していたか?……あいにくだが、真の恐怖とは、異形の姿にあるのではない」


ユピテルはゆっくりと立ち上がり、カツン、カツンと乾いた音を立てて階段を降りてくる。


「アレスよ。人間界の連中は、お前のことを陰で〝不運なだけの役立たず〟と呼んでいたそうだな」


「……ッ!……その通りです。誰も、僕の努力なんて見てくれなかった……」


「……私は見ているぞ。お前の中に眠る、誰よりも純粋で、鋭い剣の素質をな」


ユピテルはアレスの目の前で立ち止まると、その白く細い指でアレスの頬に触れた。

ひんやりとした冷たさが、アレスの火照った肌に伝わる。


「……彼らが捨てたのは、手にするはずだった最強の光だ。ならば、それを私が拾い、最強の闇へと変えてやろう」


「最強の、闇……」


「そうだ。お前を捨てた世界を見返したくはないか?お前を馬鹿にした連中に、本当の力を見せつけたくはないか?」


ユピテルの言葉は、まるで魔法のようにアレスの脳を刺激する。

今まで誰にも言ってもらえなかった承認の言葉が、彼の心を埋めていった。


「今夜は私の客人として、この城で一番良い部屋を用意させた。……腹が減っているだろう。お前のために、この城で最高の腕を持つ料理人に作らせた特別メニューがある」


「……ありがとうございます。僕、なんだか、やっと自分の居場所を見つけた気がします!」


アレスの瞳に、盲目的な忠誠の光が宿る。


(魔王様は、なんて優しくて、かっこいい人なんだ……。僕、この人のためなら、なんだってできる気がする!)


翌日から、アレスは魔王城で〝闇の勇者〟としての修行……という名の、魔王への忠誠心を高めるための雑用(庭のバラの剪定や、魔王の靴磨き)を、喜び勇んで始めることになる。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ