【第5話:勇者、魔王に拾われる『ならば、私が最強の闇へと変えてやろう』】
【第5話:勇者、魔王に拾われる『ならば、私が最強の闇へと変えてやろう』】
「ごちそうさまでした……」
アレスは最後の一粒まで、差し出されたカレーを夢中で胃に流し込んだ。
空腹が満たされるにつれ、絶望で冷え切っていた体に、魔剣から恐ろしくも力強い熱が流れ込み、全身に広がり始める。
「約束は、守ります。僕はあなたの剣だ」
アレスが顔を上げ、夜空に向かってそう誓った瞬間だった。
足元の影が不自然に伸び、まるで生き物のようにアレスの体にまとわりついてくる。
それは瞬く間に巨大な黒い渦となり、アレスの視界を真っ暗に塗りつぶした。
「うわっ、なんだ……!?吸い込まれる――!」
抵抗するヒマもなく、アレスの体は深い闇の底へと引きずり込まれた。
次の瞬間、アレスが目を開けると、そこは先ほどまでの湿った洞窟ではなかった。
さっきまでの汚い泥水と暗闇の世界から一転し、そこは歴史ある王城のような、気高い空気に包まれていた。
「ここは……さっきまでの不気味な洞窟とは、全然違う……?」
驚きながらも、アレスは握りしめた魔剣の重みを感じた。
静寂に包まれた広間。窓からは紫色の月光が差し込み、磨かれた石の床を冷たく照らしている。
「……来たか。闇の勇者、アレスよ」
広間の奥、階段の上の玉座に座っていたのは、漆黒のコートに身を包んだ〝主〟であった。
魔王ユピテル。
眩い金色の長髪と金色に輝く瞳。頬杖をつく姿は、凛々しい貴公子のようでもあり、美しい女神のようでもある。
その端正な顔立ちは、冷たい大理石の彫刻に命を吹き込んだかのような、神秘的な美しさだった。
「貴方が……魔王……?もっと恐ろしい怪物だと思ってました」
アレスは、無意識のうちに魔剣を杖代わりにし、その場にひざをついていた。
目の前の人物から放たれる圧倒的な威圧感が、逆らうことを許さない。
「化け物を期待していたか?……あいにくだが、真の恐怖とは、異形の姿にあるのではない」
ユピテルはゆっくりと立ち上がり、カツン、カツンと乾いた音を立てて階段を降りてくる。
「アレスよ。人間界の連中は、お前のことを陰で〝不運なだけの役立たず〟と呼んでいたそうだな」
「……ッ!……その通りです。誰も、僕の努力なんて見てくれなかった……」
「……私は見ているぞ。お前の中に眠る、誰よりも純粋で、鋭い剣の素質をな」
ユピテルはアレスの目の前で立ち止まると、その白く細い指でアレスの頬に触れた。
ひんやりとした冷たさが、アレスの火照った肌に伝わる。
「……彼らが捨てたのは、手にするはずだった最強の光だ。ならば、それを私が拾い、最強の闇へと変えてやろう」
「最強の、闇……」
「そうだ。お前を捨てた世界を見返したくはないか?お前を馬鹿にした連中に、本当の力を見せつけたくはないか?」
ユピテルの言葉は、まるで魔法のようにアレスの脳を刺激する。
今まで誰にも言ってもらえなかった承認の言葉が、彼の心を埋めていった。
「今夜は私の客人として、この城で一番良い部屋を用意させた。……腹が減っているだろう。お前のために、この城で最高の腕を持つ料理人に作らせた特別メニューがある」
「……ありがとうございます。僕、なんだか、やっと自分の居場所を見つけた気がします!」
アレスの瞳に、盲目的な忠誠の光が宿る。
(魔王様は、なんて優しくて、かっこいい人なんだ……。僕、この人のためなら、なんだってできる気がする!)
翌日から、アレスは魔王城で〝闇の勇者〟としての修行……という名の、魔王への忠誠心を高めるための雑用(庭のバラの剪定や、魔王の靴磨き)を、喜び勇んで始めることになる。




