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【第4話:あの子の涙を見たか?あれが、お前たちが守るべきものの姿だ】

【第4話:あの子の涙を見たか?あれが、お前たちが守るべきものの姿だ】



「……最悪だ。乗り心地も、この代わり映えしない山の景色も」


豪華な装飾を施された馬車が、山道の急勾配をガタガタと揺らしながら進む。

車内では、深い溜息をついて頬杖をつくテラが、不機嫌な顔で窓の外を睨んでいた。


「なぁ、セレネ。もっとこう、サスペンションの効いた馬車はなかったのかよ?」


「テラ様、贅沢を言わないでください。これでも政府が用意した最高級品です」


御者台から、白銀の髪を揺らしたセレネが淡々と応じる。


「揺れが気になるようでしたら、後で〝勇者、体幹不足のため馬車の揺れに耐えられず〟と、日誌に記録しておきますね」


鞘に収まった聖剣が、振動に合わせて愉快そうに鳴った。


『ははは!言われてやんの。それよりテラ、前方を見てみな。何やら嫌な空気が漂ってるぞ』


馬車が霧の立ち込める検問所に差し掛かると、不自然なほど大勢の役人と兵士が行く手を塞いでいた。

テラが窓の外を覗くと、そこには一台のボロボロな荷車と、泥に汚れながら泣き崩れるボサボサの赤毛に古着を纏った小さな少女の姿があった。


「いいか、小娘。これは〝勇者様〟が通る道を整備するための聖なる税だ。払えないなら、その薬草はすべて没収する!」


「お願いです、これがないとお母さんの熱が……!勇者様なら、こんなひどいことはしないはずです!」


「黙れ!勇者様への不敬は死罪だぞ!」


役人の怒声が響く。それを見たセレネの声に、鋭い冷徹さが混じった。


「……テラ様。私のポリシーに反する光景です。〝お掃除〟の許可を」


「許可も何も、私の名前を勝手に使われて黙ってられるかよ!」


テラが馬車の扉を勢いよく蹴り開けて降り立つ。その瞳には、真夏の太陽さえ凍りつかせるような冷徹な怒りが宿っていた。


「お、勇者テラ様!ちょうど今、貴女様のために通行税を回収していたところで――」


「……清める?お前がいるだけで、この道はヘドロより汚れてるぞ」


一瞬で間合いを詰めると、役人の喉元に聖剣を突きつけた。


「ひっ……!」


腰を抜かして地面に這いつくばる男を無視し、テラは無造作に薬草の袋を拾い上げる。

そして、膝をついている少女の元へ歩み寄り、優しくその手の中に返した。


「私はテラ。キミの名前は?」


「……リ、リミナです」


「リミナ、いい名前だ。……母親を救うのは、政府の役人なんかじゃない。キミのその真っ直ぐな想いだ。……ほら、早く行きな」


「あ……ありがとうございます、テラ様!」


リミナが駆け出していくのを見送った後、テラは冷たい視線を検問所に向けた。


「あの子の涙を見たか?あれが、お前たちが守るべきものの姿だ」


テラは静かに息を整えると、聖剣へと己の力を流し込んだ。


「……こんなゴミ溜めみたいな壁、必要ないな。セレネ、耳を塞いでろよ!――テラ・クラァァァッシュ!!」


無造作に振るわれた聖剣の軌跡が、白い光の線となって走った。


――ズドォォォォォォンッ!!!


光が爆発したかと思うと、頑丈な鉄のゲートと検問所の建物が、まるで紙細工のように一瞬で粉砕されて吹き飛んだ。


『おいおい、派手にやったなテラ。また始末書ものだな』


「……いえ、今のテラ様の行動は〝正義の執行〟として、非常にポジティブな表現で記録しておきます。お疲れ様でした、テラ様」


セレネは表情を崩さなかったが、その青い瞳には柔らかな信頼が宿っていた。


「へへっ、お前に褒められると調子が狂うぜ。……さあ、行くぞ。この先に、もっと救わなきゃいけない子たちが待ってるんだ!」


テラは馬車に戻り、再び走り出す。役人たちが呆気にとられる中、豪華な馬車は新しい道を切り開きながら、悠然と去っていった。





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