表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/46

第34話【魔王編】〝悲劇のヒロイン〟はお仕事?!正しい世界の回し方

第34話【魔王編】〝悲劇のヒロイン〟はお仕事?!正しい世界の回し方



「……なんだここは。どういうことだ……」


地下のティータイムは、あまりにも静かで、あまりにも贅沢だった。

瓦礫の山から這い出したアレスは、剣を杖代わりに立ち上がったが、目の前の光景にその端正な顔を驚愕に歪ませた。


「少女たちが、なぜこんな場所で……?」


「おいアレス、お前幹部だろ!自分の城の地下で何が行われてるか知らねえのかよ!」


「知るわけがない!僕は……僕はただ、強き者と剣を交えることこそが魔王軍の使命だと信じて……!」


二人が困惑していると、一人の少女がスコーンを頬張りながら、事も無げに口を開いた。


「あら、新しいお姉さん?勇者様かしら。意外とガサツそうなのね」


「本当。もっとキラキラしたドレスで来るかと思ってた。ねえ、紅茶飲む?ここのダージリン、政府の官邸で出されるやつより高級なんですって」


「……おい、お前ら。さらわれて怖くねえのかよ。魔王に食われそうになったりとか……」


「食われる?冗談。魔王様は滅多にここに来ないわよ」


「お姉さんたちも〝政府〟の人?心配しなくても、ちゃんと約束は守ってるわよ」


「政府……?ネプチューンの奴らか?約束ってのは、一体なんのことだ?」


「だって、私たちは政府の人に言われたんだもの。〝勇者が魔王を倒すその日まで、ここから一歩も出てはいけない。その代わり、誰にも邪魔されない不自由のない生活を保証する〟って」


「おかげで勉強もしなくていいし、毎日最高のお菓子が食べられるのよ」


「……魔王を倒すまで出られない……?それでは、まるで……」


「……まるで、最初から〝魔王にさらわれた〟って既成事実を作るために、ここに放り込まれたみたいじゃねぇか。魔王を倒す〝劇〟を盛り上げるための小道具としてよぉ!」


アレスの剣が、カタカタと震える。魔王軍とは、世界の悪意の象徴ではなかったのか。自分たちが戦ってきた〝正義〟とは、仕組まれたマッチポンプだったのか。


「お父様とお母様には、政府からたっぷり協力金が出てるから、むしろ親孝行よ」


「協力金……?それじゃ、誘拐じゃなくて……」


「そう、お仕事よ。〝悲劇のヒロイン〟っていうお仕事」


「私たちがここで豪華な生活をすればするほど、地上の人たちは〝魔王はなんて贅沢をしてるんだ!〟って怒って、政府への支持率が上がるんだって」


「……ケッ、反吐が出るぜ。お前ら、外の奴らがどんな顔して魔王軍を恨んでるか知らねえのか」


「知ってるわよ。でも、それが〝正しい世界の回し方〟なんでしょ?」


「私たちが帰ったら、また政府の厳しい管理と税金生活に戻るだけ。だったら、魔王様が倒されるまで、ここで永遠にティータイムしてた方がマシだわ」


「……ねえ、勇者様。お願いだから、まだ魔王様を倒さないでね?私、まだ新作のタルト食べてないんだから」


魔王は、政府の失政への不満をそらすための〝仮想敵〟であり、その権威を守るための〝必要悪〟として、政府によって管理・運営されていた存在に過ぎなかった。


『……嫌な予感はしてたけど、これじゃ私たちの愛のぶつかり合いも、ただの営業スマイルと変わらないじゃない……』


『おいおい、笑えない冗談だ……。私たちが命削って火花散らしてたのは、ただの見世物だったってのか?』


その時、鍾乳洞の空間全体が、震えるような重低音に包まれた。


『――ようやく、舞台の裏側に辿り着いたか』


重厚で、どこか悲哀を感じさせる声。地下宮殿の床に、巨大な魔法陣が不気味な紫の光で浮かび上がる。


「……魔王か。そこにいんのか!」


『ここを見たなら話が早い。勇者テラ、そして我が騎士アレスよ。お前たちが握るその剣が、誰の手のひらで踊らされていたのか……直接教えてやろう』


魔法陣の光が爆発的に膨れ上がり、テラとアレスの視界を真っ白に染め上げた。


「待って魔王様、まだ話は終わって――」


「……ケッ、上等だ。シナリオの書き手ごと、そのツラぶん殴ってやるよ!!」


二人の体が粒子となって消える直前、少女たちは相変わらず優雅に紅茶を啜りながら、去りゆく勇者に手を振っていた。

その光景は、どんな魔物よりも不気味で、世界の歪みを象徴していた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ