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第32話【テラ編】『冬のボーナスさようなら』城は粉々、システム自爆、毒薬飲まれ、幹部は白目

第32話【テラ編】『冬のボーナスさようなら』城は粉々、システム自爆、毒薬飲まれ、幹部は白目



「……さあ、次はどいつだ?」


エントランスホールの天井まで煙が立ち込める中、テラが聖剣ガイアセイバーを肩に担いで一歩を踏み出す。


「ククク……勇者テラ。暴力による支配は前時代的です」


そこへ、ふらふらと立ち上がった広報官ナブーが、ズレたモノクルの眼鏡を直しながら不敵に笑った。


「真の恐怖とは、相手の〝内面〟を理解し、精神的な齟齬に苦しむことにある。……私の秘術〝翻訳魔法ユニバーサル・トランスレート〟を授けましょう。魔王軍が誇る魔物たちの〝真実の声〟を聴くがいい!」


ナブーが指を鳴らすと、キラキラした星屑がテラとセレネの耳に流れ込んだ。


「えっ、何これ?急に周りの魔物の唸り声が、文字になって頭に浮かんできます……!」


そこへ、三つの頭を持つ巨犬ケルベロスが地響きを立てて現れた。中央の首が「グルルル……ッ」と凄まじい威嚇の声を上げる。


『(……あー、今度は右の首が口内炎できてて超痛い。なのに左の首のやつ、無神経に骨とか噛み砕くから響いてマジ最悪。魔王軍、いい加減、低反発の三頭専用枕とか支給してくんないかなぁ……)』


「……は?」


「じ、地獄の番犬が口内炎と肩こりと枕の心配してる!?」


テラが呆然としていると、壁に張り付いたガーゴイルが鋭い目つきで鳴き声を上げた。


『(……今日も石のフリして24時間監視面倒くさい。労働基準法どうなってんの?……お腹空いた。今日の社食も魔界ナポリタンだといいなぁ……もちろん粉チーズ多めで)』


「おい、ナポリタン食いたきゃさっさとシフト上がってこいよ!集中力がねえんだよお前!」


さらに、棍棒を振り上げた巨大なサイクロプスが咆哮を上げる。


『(……ねえねえ、そこの銀髪のお姉さん、聞いてよ。私、今日もクマがひどいの。これじゃ魔王様に顔向けできないわ。良いコンシーラー教えて?)』


「女子力高っ!?美容の悩みですか!?」


「……あー、もう、聞いてられねえ!夢も希望もねえんだよお前らの本音は!!」


テラは苛立ちを爆発させ、ケルベロスを「低反発枕代わりだ!」と一蹴りで吹き飛ばし、ガーゴイルを「粉チーズでも浴びてろ!」と壁から引き剥がした。

サイクロプスに至っては、棍棒をひったくって「コンシーラーの代わりにこれで顔面を塗りつぶしてやる!」と一撃で沈めた。

魔物たちが「労災がぁぁ……」「ナポリタンがぁぁ……」と呟きながら崩れ去る中、ナブーは勝利を確信した顔でテラに歩み寄る。


「どうです、勇者。これが魔王軍の〝実態〟です。もはや戦う意欲も削がれたのでは……?」


「ああ、別の意味でな。……てめえ、余計なもん聞かせやがって。飯がまずくなるだろうが!!」


「左様。これは勇者殿の精神活動における宇宙的な有機的プロセスの再定義……」


「あー、お前は喋るな。頭が痛くなる!……オリャッ!!」


テラの裏拳が、難解な言葉を並べていた広報官ナブーの顔面を捉えた。「宇宙的再定義ぃぃ!」と叫びながら吹き飛ぶナブー。


「行くぞ、セレネ!こんな生々しい奴ら、これ以上相手にしてられるか!」


「あ、待ってくださいテラ様!私、さっきのサイクロプスさんにオススメのコンシーラー教えてあげたかったかも……!」


そこへ、ふわりと甘く退廃的な香りが漂い、錬金術師のベラドンナが優雅に歩み寄ってきた。彼女の手には、どす黒い液体が脈打つ不気味なフラスコが握られている。


「おーっほっほ!騒がしいわね。所詮は下級魔物とインテリの限界ですわ。……勇者テラ、そんなにイライラしているなら、わたくしの特製ドリンクで〝永遠の安らぎ〟を得るといいわ!」


彼女が差し出したのは、触れるだけで石畳を溶かす究極の毒薬〝魔界・プロテインDEATH〟。だが、鼻を動かしたテラの目がキラリと輝いた。


「……あ?お前、それ……」


「そうよ!一滴で心臓が爆発し、魂まで腐食する最高の美学を――」


「超絶ヴィンテージの辛口酒じゃねえか!!気が利くじゃねえか、姉ちゃん!」


「……は?」


テラはベラドンナの手からフラスコを強引にひったくると、栓を歯で引き抜き、そのまま一気に喉へ流し込んだ。


「テ、テラ様ぁぁぁ!?それ、さっき床が溶けてましたよ!液体からドクロの煙が出てますって!」


「プハァ!……クゥーッ!喉にガツンとくるな!この痺れるような刺激、さては度数90パーセント超えてんな?最高だ、おかわり!」


「な、ななな……飲み干した!?象が舐めても灰になる劇薬なのよ!?私の最高傑作が、ただの〝強い酒〟扱い……!?美学が、私の研究のプライドがぁぁ!」


膝をつき、絶望に打ち震えるベラドンナ。

その時、テラの懐から飲み残しの酒瓶がポロリと床に落ちた。


『(……好機!誰もがテラに注目し、影の薄いボクすら忘れている今こそ、背後から一突き……!)』


隠密使いアルファルドが影から音もなく現れた。彼はテラの死角に完璧に入り込む。

アルファルドが短刀を振り下ろそうとした瞬間、テラが「おっと、酒が!」と勢いよく頭を下げた。


「酒の一滴は血の一滴だからなッ」


――ゴチィィィン!!


テラの鋼鉄のごとき後頭部が、背後から忍び寄っていたアルファルドの下顎をものすごい勢いで跳ね上げた。


「あがっ…………(白目)」


「あ?今、何かに当たったか?」


「テラ様、誰か一人、存在感と一緒に意識が消えたような……。あと、その酒瓶を拾う速度、戦闘中より速いのやめてください!」


足元では、バラバラになったスケルトン兵たちが、ボンドや針金でお互いの骨を繋ぎ合わせながら、虚無の表情で座っている。

そこへ管理部長のカペラがよろよろと姿を現す。その眼光からは光が完全に消えていた。


「……勇者殿。もう、これくらいにしておきませんか……。城は粉々、システム自爆、毒薬飲まれ、幹部は白目を剥いています……」


持っていた〝被害状況報告書〟の書類の束が床に落ち、ガクンと膝をついた。


「……これ以上は、もう〝城の修繕予算〟がマイナスなんです。我々の冬のボーナスが、消滅した音が聞こえるんです……」


「知るか!全部、魔王を殴れば解決する話だろ!直線ルートで突き進むぞ、セレネ!」


「……はい!」


テラは正規のルートである豪華な大階段を見向きもせず、玉座の間へと続くであろう正面の壁に剣を構えた。


「テラ・クラァァァッシュ!!」


――ズドォォォォォォンッ!!


魔王城の歴史を刻んできた美しい壁画が粉々に粉砕される。


「ああっ!壁が!壁がぁぁ!修繕費で来期の福利厚生費まで消えるぅぅぅ!!」


ブクブクと泡を吹いて倒れるカペラの断末魔を背に、テラは奥へと突き進んでいった。






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